おつりで投資「トラノコ」。フィンテックサービスを始めたきっかけとは?

 Post by MML編集部

本記事は、Repro、ロケーションバリュー、FROSK、モンスター・ラボの4社共催で開催された「アプリの虎Vol.3 ~有名企業のアプリ活用最前線~」より、「おつりで投資サービス『トラノコ』」の開発にあたり、意志決定者の立場から、どうやってチームを作り、どうやってプロジェクトを回してきたのか、TORANOTEC の藤井氏の講演をまとめた。

TORANOTEC株式会社 取締役シニア・マネージング・ディレクター 藤井 亮助氏

「トラノコ」は、毎日のお買い物のおつりを、毎月5円から自動的に世界中の資産に分散投資できるアプリ。「お買い物をする時のお金も投資をする時のお金も、実は将来のために重要な同じお金であるのに、まだまだ多くの日本人にとって投資は生活の一部にはなっていません。日々のお買い物のおつりを簡単に投資することができるサービスを提供することで、投資を身近なものにし、生活の一環として投資を行うことが当たり前の世界を実現したいという思いから会社を立ち上げた」という。

若年層における投資の関心は低い状態

金融庁が発表した「若年層を中心とした個人による投資の現状とNISA の利用促進に向けた課題に関する調査(野村総合研究所が作成)」を見ると、年代別にみた投資への取り組み状況について20~40代の若年層は、投資経験者が3割以下と全体を下回っている状況にある。

(図1)

若年層は、関心は高いものの投資経験は少ない。「おつり投資」でハードルを極限まで下げることで、「大きな顕在市場」に

また、図2の通り、働いて稼いだ「勤労所得 (水色)」と資産運用などで稼いだ「財産所得 (オレンジ)」を、米国と日本で比較してみると、米国は3:1であるのに対し、日本は8:1と低い状況だ。若年層が60代になる頃には、65歳以上の高齢者1人を約1.5人の現役世代で支えなければいけない時代に入ると予想されていることから、少しずつからでも投資を始める必要があると藤井氏は説いた。

(図2)
勤労所得と財産所得の比率。米国の3:1に対して、日本は8:1。資産形成の意識の違いが所得全体に大きな影響

お買い物のおつりを使って投資を行う

続いて「トラノコ」の仕組みについて解説した。トラノコは、日々のお買い物データを毎日集積し、「おつり相当額」を算出。お客様はその「おつり」を投資するかどうかの判断をするだけで、コツコツ資産形成が可能となる。

具体的には、クレジットカード、キャッシュカード、電子マネー、交通系電子マネーなどの情報をトラノコアプリに登録すると、蓄積されたお客様の買い物データがアプリに登録される。例えば120円の買い物をした場合、残り80円をおつりとみなされ、おつりデータが蓄積される。

経験豊かな担当者が運用する3つのファンドの中から1つをあらかじめ選択しておき、1か月に1度、溜まったおつりデータにもとづく金額が自動的に銀行口座から引き落とされ、ファンドを買い付けるという仕組みになっている。

「私どもは誰もが自分の可能な範囲で簡単に将来に向けて資産形成をできるサービスをめざしています。経験豊かな担当者が運用する教科書通りの国際分散投資の資産運用を提供し、若い時から余裕資金が少ない時も、毎月コツコツ長期的に将来のために投資を続けたいと考える人を応援できるサービスになっています」。

多くの企業や金融機関と連携。そのコツは?

2016年、TORANOTECが設立されてから、人びとの生活に寄り添うサービスを提供している多くの企業や金融機関と提携を行い、各社との提携条件に合わせて開発をしてきた。

例えば「みずほダイレクトアプリ」を起動すると、トップ画面に「おつりで投資」というメニューが表示される。これをタップすると、トラノコが用意しているWebの特設ページへ遷移し、銀行とトラノコでデータ連携しますよ、といった許諾を取っている。同意すると、そこからトラノコアプリへ遷移する仕組みだ。

「他社とスムーズな連携を進める上での鉄則は、先方のシステム担当の負担を極力最小化すること。我々はWebに遷移させることで、先方にURLだけを設定していただくだけで、全てが完結するようになっています。それによりエラーが起こりにくい仕組みとなっています」。

同じ機能を同じタイミングで公開

トラノテックでは、Web、Android、およびiOSの、3つのプラットフォームでトラノコを提供し、同じ機能を同じタイミングでバージョンアップさせている。それは金融機関として、同じ金融サービスを提供しなければいけないというコンセプトで行っているという。

申請の大変さや、iOSはできてもAndroidではできないといった機能の再現性による大変さもあるが、それでも常に、同じ機能を全てのプラットフォームで提供している。その実現には、モンスター・ラボを含む外部のアプリ・ウェブサービス開発会社3社の協力が欠かせない。

新たなサービスをリリースする際には、社内で細かい点まで十分に議論し、スペックを決めている。複数の提携の話を進めていることもあり、作業の優先順位が様々な理由で変わることや、並行作業も多い。かなり詰めた状態で開発を行なっているが、サービスをリリースする前には、リーガル面も含めて全てにおいて綿密な検証をしながら最終チェックを行っている。

アプリ開発にはアジャイルという言葉では収まらないほど変動が多い場合もあるが、いかに良いものを一緒に作るかということを合言葉に意思統一を行うことが重要だと語り、セミナーは終幕した。