ほかにはないEC体験を実現する、三越伊勢丹「新時代の百貨店」の取り組み

 Post by MML編集部

三越伊勢丹は、新たな事業戦略としてIT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」を目指している。2021年3月、バーチャル空間を体験できるスマートフォン向けアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」を公開。今回、EC体験における課題と、バーチャル空間を開発したきっかけ、今後の可能性について具体的に語った。

三越伊勢丹 仲田 朝彦氏

株式会社三越伊勢丹 MD統括部 オンラインクリエイショングループ デジタル事業運営部 計画推進 仮想都市プラットフォーム事業 仲田 朝彦氏

本記事は、TECH PLAYが主催するオンラインイベント「小売企業が取り組むプロダクトづくりの裏側 (OMO、アプリ、EC、新規サービスの開発事例)」より、三越伊勢丹 仲田氏から「アナログ価値を活用したDX戦略」というテーマで講演が行われた。

VRで新しい顧客体験を提供

三越伊勢丹は、新たな事業戦略としてIT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」を目指し、グループの強みにデジタルを加えた“新しい顧客体験”を提供している。2021年3月、社内起業制度を発端にスタートしたVRを活用したスマートフォン向けアプリ「 REV WORLDS(レヴ ワールズ)」の提供を開始した。

REV WORLDSは、伊勢丹新宿店の一部店舗と、新宿東口の伊勢丹新宿店から新宿アルタ周辺の一部エリアがバーチャル空間で再現されており、ユーザーは「アバター」を操作して一部アイテムの買い物ができる。

「この事業をやっていると企業からバーチャルでオンライン販売をしたいと言われるが、個人的にはあまり魅力を感じていない。もちろん、お買い物体験も楽しんでいただきたいが、ユーザーには、お買い物以外も体験してほしいと考えている。例えば、バーチャル空間上でドライブを楽しめたり、狭い路地裏を散策できるなど、現時点においては実装していないが、これまでのオンラインにはない新たな顧客体験と提供したい」という。

さらに「ユーザーがバーチャル空間にアクセスすると、リアルと同じニーズを持っていて、例えば自分のアバターに購入した洋服を着せたいし、近くのマンションにも住みたい。それらを自己実現できる世界がバーチャルである」と語った。

REV WORLDS

お客さまが求めているEC体験に大きなズレ

今までのことを振り返ると思い出に残るようなEC体験をしたことがあるだろうか。無言でスマートフォンを見ながら孤独なEC体験をしている人も多いと思うが、はたしてそれが思い出に残るような体験になるのか疑問を感じているという。そしてこの対岸にあるのが解決策ではないかと語った。

経済産業省の調査によると、BtoC取引のうちECの商取引との割合を表す「EC化率」は、2019年、日本全体で6.7%だという。スマートフォンが登場した2010年は2.8%で、9年間で見ても約4ポイントしか上昇していないことが分かる。

「それはお客さまが求めている価値と大きくずれているからではないか。つまり付加価値を求める商品は世の中に存在していて、そこがEC化していない94%の中に存在するのではないか」と仲田氏は語った。

付加価値の高い購入体験とは

では思い出に残るEC体験とはどういうことか。結論はバーチャル空間にあるのだが、例えば、化粧品売り場の場合、消費者が購買の意思決定を行うために必要な情報「ささげ業務」を作る必要があるのだが、バーチャル空間では3D商品になるため、はじめに周りの創作什器が目に入ってくる。近くによると商品に焦点が当たる仕掛けができる。

2つ目は、例えば化粧品売り場に洗面台を用意して商品を置いたシーンを演出する。ユーザーは、そういえばあの商品あったらいいなと想像を掻き立てられ、関連商品を購入する。つまりセレンディピティ(予期せぬ幸運)が巻き起こる。そういったところにアプローチできる。

3つ目は、バーチャル空間にも関わらず彼女の買い物に付き合う彼氏の存在。ECサイトで購入する行為とは違って、彼女にとっては彼氏と一緒に「この商品どう思う」と会話をして購入をしている。つまり彼氏と一緒にいることが付加価値である。

「この彼氏は化粧品売り場に普段行かない人だが、彼女との買い物で男性化粧品との接点ができる。バーチャル上のお客さまは、プロからの接客をあまり求めておらず、自分のパートナーと一緒に過ごすところに答えがある」と語った。

バーチャル空間の可能性

そう考えると小売業ほどバーチャル空間は向いているのではないかと個人的に思っているという。昨年、VRChatをプラットフォームとするバーチャルマーケット4に仮想伊勢丹を出店してから、バーチャル空間の仮想伊勢丹を社内のスタッフが設計している。ユーザーから「この伊勢丹、本当に入れるんだ。アバターの靴も販売している。伊勢丹がそんなことをするとは思わなかった」と驚きのコメントが寄せられたという。

「リアルの世界でブランディングされたものをバーチャル空間に持っていった時、ブランディングの効果は引き継がれるのが確認できた。私が実現したいのはアバターの洋服を販売する事業を重要視している。在庫リスクがなく無限に販売できるので、頭の中にあるデザインを自在にトライできる」という。

さらに「その商品をよりよく見せるのがディスプレイの役目。お客さまの関心度合いに合わせてディスプレイの装飾も変化し、セレンディピティから関連商品を購入して、お客さまは満足して売り場をあとにする。そういったナレッジが活用できた」と語った。

最後に「バーチャル世界で何がしたいのかというと、アナログ体験の付加価値をバーチャル上に反映していきたい。Webのように検索すればすぐに見つかるのではなく、あえて友達や彼女と待ち合わせをして買い物に出かけ、ふらっとよったお店で思わぬ出会いがあって購入した。そんなきっかけを作っていきたい」と語った。