東急は、交通事業をはじめ生活サービス、ホテル・リゾートなど多くの事業がコロナ禍の影響を大きく受けていたこともあり、今後は既存ビジネスの改革をデジタルテクノロジーと融合させて取り組んでいく予定だ。LINEを活用した3つの新サービスとともに、東急が推進するDXの取り組みについて語った。
(画像右より)東急株式会社 経営企画室 マーケティング担当 課長 乗松 康行 氏 / LINE株式会社 MINI事業戦略チーム マネージャー 谷口 友彦 氏 / LINE株式会社 プラットフォーム事業開発室 室長 高木 祥吾 氏
本記事は、LINEが主催するオンラインイベント「LINE BIZ DAY 2021」より、東急 乗松氏から「コロナ禍で加速する、LINEを活用した東急のDX」というテーマで講演が行われた。LINE 高木氏、谷口氏がモデレーターを務めた。
東急がLINEを導入した背景
東急ストアでは公式アプリを提供しているものの、7年間で約9万ダウンロードに留まっており、店舗の来場者数と比較して、ダウンロード数がなかなか伸びない課題を抱えていた。
その後、LINE Payの導入をきっかけに、自社のLINE公式アカウントを開設。LINE Payや東急ポイントと連携し、1年間で約20万人の友だちを獲得した。「この数値を比較しただけでもLINEを導入したメリットは大きかった」と乗松氏は語った。
LINEとメルマガの開封率・クリック率を比較すると、開封率はメルマガの11.4%に対してLINEは52.4%で約3.3倍、クリック率はメルマガの3.9%に対してLINEが11.4%で2.9倍となり、LINE導入の効果がわかった。
そのリーチを大きくしている要因の1つは、TOKYUポイントとのカード連携にある。例えば、前月のお客様の購買状況に応じて、3種類のクーポンを出し分けて配信するなど、さまざまな取り組みを行っている。
その結果、LINE公式アカウント未連携会員の来店回数が月間平均6.2回に対し、LINE公式アカウント連携会員の来店回数が月間平均9.1回と、平均来店回数が約1.5倍になった。「スーパーマーケット事業において月間1回でも多くお越しいただけるきっかけを作れていることは店舗の売上にも寄与している」と語った。
東急グループのDX戦略
東急では、交通事業をはじめ生活サービス、ホテル・リゾートなど多くの事業がコロナ禍の影響を大きく受けているなか、既存ビジネスの改革をデジタルテクノロジーと融合させて取り組んでいる。
具体的にはLINEのUserIDを活用して、グループ各社のデータベースを連携することで、グループ横断的なマーケティング基盤を整えていく。今まではリテール、モビリティ、ライフライン、ホテル・エンタメといった事業の特性により、顧客接点やデータベースも各事業で設計されていた。LINEを活用した顧客接点のデジタル化とLINEのUserIDによる自社データベースの連携により新しい価値を創造していく。
具体的には大きく2つの方法で事業を進めている。1つは東急ストア、東急百貨店など既存事業でのLINEを活用した顧客接点のデジタル化を推進。従来、レシートクーポンや紙のDMなどでお知らせしていたものを、デジタル媒体に転換している。2つ目はLINEを活用した新規のデジタルサービスの提供である。すでに開始されている3つの新しいサービスについて解説をする。
はじめに、「DENTO」とは、定期券利用者を中心としたLINEを活用した新しい働き方を提案するサービスである。2021年1月から4月まで実証実験を行った。このサービスは、コロナ禍による移動・就労にかかわる住民や企業ニーズの多様化に伴い、田園都市線郊外と渋谷駅・東京駅を結ぶ通勤バスなどのチケットや、東急線沿線のワーキングスペースの利用チケット、外出促進のサービスチケットなどがLINEを通じて購入できる。
その結果、DENTOのLINE公式アカウントの有効友だち数は約18,000人、チケット販売数は約23,000枚、クーポン利用数は約2,300枚と、3か月半で大きな成果が出せたという。またチケット購入者のうち半数がリピーターとなっており、全友だちの73%が定期券を保有するなど、新たな付加価値創造にもつながった。
続いて、「どこ渋」とは、渋谷ストリーム、渋谷ヒカリエ、渋谷リバーストリート(キッチンカー)、東横のれん街の飲食店舗約60店を対象とした、LINE上で注文、決済ができるモバイルオーダーサービスである。LINE経由で事前注文・決済された商品を対象店舗でレジに並ばずに受け取ることができる。
コロナ禍でのスタートだったが、どこ渋の店舗の一つであるDEAN & DELUCAでは、どこ渋を活用し、テイクアウトのほかテーブルオーダーでもサービスを提供している。どこ渋を活用した結果、既存のターゲットの他、若年層やビジネスパーソンからの来店が増加。データが可視化されることで、デベロッパーとテナントが一緒に、サービス改善に活かせると乗松氏は語った。
ネイティブアプリをダウンロードさせるのではなく、LINEアプリからそのまま利用できるよう、ハードルを下げた施策がお客様にとって使いやすさに通じている。今後どこ渋を通じて、ワーカー向け施策や最適化配信、他社とのLINE公式アカウント連携などを検討している。
最後に、「TuyTuy」とは、東急線のPASMO定期券保有者限定の“移動”を中心とした環境貢献型のサブスクリプションサービスである。傘のレンタル、電動自転車のシェアリング、モバイルバッテリーのレンタル、パンや花のサブスクリプションなどがお得に利用できる鉄道利用者がどういう目的で利用しているのか、どういった課題があるのか、それらを解決するためにプラスアルファとしてのサービスを提供する。
コロナ禍においてリアルの価値だけでは企業価値が減少していく課題を抱えている。今後は、デジタルを活用し、LINEのUserIDを軸にグループを横断した付加価値を提供することにチャレンジしていきたいと語った。