アサヒビールのLINEを活用した販促は2017年のLINE公式アカウントの開始から始まる。その後LINE サンプリングを開始(現在は販売終了)。多くの参加者を獲得して、販促の手応えを感じたという。LINEを活用した施策を通じて見えてきた、本質的なデジタル販促のLINE活用についてご紹介し、今後の展望について語った。
(画像右より)アサヒビール株式会社 マーケティング本部 ビールマーケティング部 課長 玉手 健志 氏 / LINE株式会社 OMO販促事業推進室 室長 江田 達哉 氏
本記事は、LINEが主催するオンラインイベント「LINE BIZ DAY 2021」より、アサヒビール 玉手氏から「アサヒビールと共に考える、LINEを活用したデジタル販促と今後の展望について」というテーマで講演が行われた。LINE 江田氏がモデレーターを努めた。
アサヒビールのLINEキャンペーンの歴史
アサヒビールのLINE活用の歴史は2017年から始まる。2017年2月、アサヒビールのLINE公式アカウントを開設。その後、コンビニエンスストアの店頭で商品と引き換えができるLINE サンプリングを開始。ここで多くの参加者を獲得し、販促の手応えを感じたという。
2018年以降は、商品と情報との連動を手掛ける。玉手氏は「当社は BtoBtoC ですから、情報を取得することがなかなか難しい業界。商品にシールを付けて、どのようなお客様がいつごろ飲んでいるのか情報を取得していた」という。また、ハガキで応募するキャンペーンを、LINEで応募する形式に切り替えた。
さらにLINEでのマーケティング活用を強化するべく、お得意先であるスーパーマーケットにLINE Beaconを設置し、さまざまなテストを実施。2020年にはLINEプロモーションスタンプを実施した。
その後キャンペーンも高度化・立体化していく。今まで担当者が決定していたLINEのセグメント配信を、AIが候補を抽出して配信することに転換。2021年には主力商品であるスーパードライのキャンペーンもLINEに切り替えた。
アサヒビールのマーケティングを、2018年からLINEのIDで実施した理由を聞くと、「答えは2つあって、1つは自社の会員IDよりもLINEのIDのほうが、規模が大きかったから。2つ目はIDの信頼性。例えば1人のお客様が10個のIDを所持していた場合、コミュニケーションが取りづらくなるが、LINEであれば1端末につき1IDとなるから信頼性が高い」と述べた。
抽象論ではなく本当にやる
アサヒビールでは現在、あらゆる顧客接点にLINEの入口を作り、全てをログ化して利活用サイクルを回しているという。何か事業を行っている場合、お客様との接点が必ず発生してくる。すべての接点をデジタル化して、ログを残していくことを意図的に実施することが重要である。
家電量販店、飲食店、工場、ECサイトまたはお客様が商品を手にとった時間、飲んでいる時間のログも非常に重要である。これらのログをLINEのIDで中・長期的に蓄積して、それらの情報をもとに最適なコミュニケーションを取っていくことが、アサヒビールのスタンスである。
「これらの概念はセミナーでもよく見かけるものだと思う。概念を練り上げたくなるものだが、例えば工場見学に来場された方のデータを取得するにはどうしたらよいか。商品に二次元コードを貼っていくためにはどれくらいの手間やコストがかかるのか。こういったことを概念ではなく、実際にやることが大事である」と玉手氏は語った。
ただ本当にやると言っても、その中には苦労も出てくる。なぜなら規模が大きくなればなるほど、デジタル部門だけでは絶対に完遂できないものがあるからだ。例えばコンビニとのキャンペーンを行う場合、営業部門との連携が必要になるし、ハガキのキャンペーンをLINEに切り替える場合、他部署の信頼を獲得する必要がある。LINE Beaconにおいても誰が店舗に設置する交渉を行うのか考える必要がある。
「アサヒビールが好きな人たちが集まっている会社なので、成功の方向性は同じであるし、それがプラスになるほど会話できると思う。一方で、デジタル部門は他部署との会話が足りない面があるので、そこは意識して活動している」と語った。
LINEで1日目から分析できるようになった
アサヒビールはLINEで取得したデータをどのように活用しているのだろうか。2021年1月スーパードライスペシャルパッケージのキャンペーンを開始。商品に貼ってあるシールをめくり、その中の二次元コードを、LINEアプリで読み取るとシリアルコードが出現。シリアルコードを6回貯めると一口応募できる。
応募された方は、アンケートで性別、年代、購入本数などを記入し、そのデータを各担当者が確認、またはデータ分析などを行っている。従来、キャンペーンはハガキで行っていたが、その場合は事務局にハガキが到着しきったタイミングで集計結果をまとめていた。一方LINEの場合、1日目で集計できるので、キャンペーンの仮説に合致した応募者がどれくらいいるのか比較することができるようになった。
今回のキャンペーンは「WebCM撮影にオンラインで参加できる」ものと「タンブラーが当たる」ものの2種類あったが、性別、年代、過去からの購入履歴をデータベースで見ても、プレゼントによって別のペルソナであることがわかってきた。そのため2種類のペルソナに合わせてクリエイティブを用意し、最適なタイミングで配信を行ったという。
AIを活用してよりよいコミュニケーションを取る
前段でAIを活用している話題が出たが、具体的にはどのようなことを取り組んでいるのだろうか。キャンペーンの参加情報やアンケート情報をデータ化してデータベースに蓄積。その情報を、担当者の感覚で判断するのではなくAIで解析し、誰に何を提供していくべきか検討している。
全員に一斉配信した場合と、AIが選択した最適なユーザーだけに配信した場合を比較。AIが90%以上の確率でキャンペーンに参加してくれる人を抽出して配信したところ、約50%の確率でキャンペーンに参加してくれる人と比べて17.9倍もの応募率があったそうだ。玉手氏は「努力は夢中に勝てないと言われるが、夢中になっている人間もAIには勝てない時代が来てしまった」と語った。
さらに、「LINEの友だちが増加していくことは喜ばしいことだが、それが例えば1,000万人以上になると、お客様の顔が見えづらくなり、誰に何を送ればよいのかわからなくなる。この場合、人の感覚だけではなくAIの力を借りて、よりよいコミュニケーションをしていくことは重要である」と説いた。
そして今後のデータ利活用について玉手氏は、「毎回キャンペーンで性別、年代を聞いているが、これは大変失礼なことだと感じている。こういったことも中長期的なデータ活用として、LINEの力を借りてやっていくべきだ」と語った。