オンラインストアの売上が2倍に増加。イケアが目指す新たなオムニチャネル戦略

 Post by MML編集部
2017年、イケアはオンラインストア「ikea.jp」をオープンした。オンラインストアの売上は毎年順調に増加していたのだが、特に昨年は新型コロナウィルスの影響で昨年度比2倍にも増加したという。そこで従来のマルチチャネルから、オンラインストア、アプリ、実店舗をつなぐ新たなオムニチャネルについて、その取り組みを詳しく語った。 野崎 智子 氏
イケア・ジャパン株式会社 カントリーデジタルマネージャー 野崎 智子 氏
本記事は、インプレスが主催するオンラインイベント「ネットショップ担当者フォーラム 2020 秋」より、イケア・ジャパン株式会社 野崎氏から「マルチチャネルからオムニチャネルへ」というテーマで講演が行われた。 サービス紹介バナー_価格 イケアは、大規模店舗で商品を販売するというビジネスモデルを77年間続けてきた。2017年、オンラインストア「ikea.jp」を開始。オンラインストア、マルチチャネル、オムニチャネルについては現在、試行錯誤の真っ直中にあるという。 しかし、世の中は急速にデジタル化が進んできており、イケアもそれに合わせて対応していく必要があると感じている。オムニチャネルを推進する一環で、イケアでは大きく4つの課題に取り組んでいるという。

都市型店舗への取り組み

1つ目は「都市型店舗のデジタル化」について。今まで大型店舗を展開し、お客様は陳列された商品やインテリアのコーディネートを見て購入するビジネスモデルで成功してきた。しかし国内の全てのお客様が、郊外に展開するイケアの店舗にアクセスできない課題があり、今後の取り組みとして、最も人口が集中している都市部に出店を進めていくこととなった。 2020年6月、「IKEA原宿」をオープン。大型店舗を成功させるビジネスモデルはあったが、小型店舗についてのビジネスモデルはなく、課題は非常に山積みだったという。今まで提供していた商品を1/10に絞り、大規模店舗と同じ価値を提供するためにはどうしたらよいか議論していたところ、小型店舗を成功させるためにはデジタル化が必要だという結論に至ったという。 店舗オープンに合わせ「IKEA原宿」アプリの開発を進めた。このアプリはARを活用して、イケアの商品を現実空間に再現して、商品のインスピレーションを与えてくれる機能となっている。例えば店舗にはないサイズや色でもARであればカラーバリエーションを選択できるため、自分にあったイメージの商品を自分の部屋に置いて、購入の後押しをしてくれる。 IKEA原宿アプリサービス紹介バナー

オンラインストアの売上が約2倍に

話は少し戻るが、2017年、オンラインストア「ikea.jp」を開始した。大きなプロモーションなしですぐにオンラインストアの売上は全体の1.3%を獲得できたということはお客様のニーズがそこにあったという結果となった オンラインストアの売上は毎年順調に増加していたのだが、新型コロナウィルスの影響で2020年度における売上が昨年度比約2倍にまで増加したことを受け、オムニチャネルの取り組みを一層強めたという。2020年4月、イケアストアでショールームを見ているかのように買い物ができる「IKEAアプリ」を開始した。

高品質なサービスを提供することが重要

2つ目は「サービスのアプローチ」。イケアが店舗を都市部へ進出する際、東京の実情について調査したところ、23区には約5万店舗のコンビニエンスストアを展開していたり、約240万台もの自動販売機が設置していたり、その日に届く配送サービスが存在していたりと、お客様は高品質なサービスに囲まれている環境だったことから、イケアでもサービスへのアプローチを変える必要があると感じたという。 具体的には。物理的な提供だけではなく、それをオンラインで提供したり、オンライン上でコミュニケーションしたりと、サービスを統合することも大事であると考えている。 もともと1つの会社と提携してサービスを提供していたのだが、そこからサービスが流用できるよう、内製に切り替えたり、あるいは情報共有プラットフォームを活用したり、クラウドサービスを活用したりと外部サービスと連携して展開していった。例えば、「ANYTIME」というプラットフォームを通して、家具の組み立てができるサポーターとイケアを結び、お客様にサービスを提供する試みも行っているという。

カスタマーサポートもマルチチャネルへ進化

3つ目は「カスタマーサポートセンター」。従来のカスタマーサポートセンターは、電話やメール、チャットなどから、お客様の困りごとや質問を送る窓口チャネルである。新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発令され、オンラインストアにアクセスするお客様が増加している。お客様からの問い合わせも、遠隔で家具のプラニングをサポートしてほしいという要望が多くなった。 カスタマーサポートセンターは従来のようなお客様に対するサポート拠点という立場から、遠隔組み立てサービスや、オンラインの買い物サポートといったような、マルチチャネルへ拠点を変化させる必要があると感じているという。 例えば、お客様が商品を返品したい場合、従来ならカスタマーサポートセンターに電話をして返品依頼しなければいけなかったのだが、今後はお客様自身がサービスを理解して、それを活用できる手助けとなる「セルフサーブツール」の導入を進めているという。

オムニチャネルはどのような存在なのか

4つ目は「マルチチャネルからオムニチャネルへ」。なぜマルチチャネルからオムニチャネルへと変化を遂げる必要があるのかというと、IKEA原宿やオンラインストアを展開した経験から、もはや独立した多くのチャネルを持つことが重要ではなく、単一の経験をチャネルからチャネルを通して最大のイケア体験をしていただくことが、今後重要になると考えている。 つまり、お客様は常に中心にいて、各チャネルの強みを最大限に活かしつつ、統一したメッセージを伝える。お客様はどのようなチャネルとコミュニケーションを取っても、ここはイケアだと感じていただけるような顧客体験を提供することが必要であると野崎氏は語った。 オムニチャネルの定義 オフラインはどういった存在なのだろうか。イケアは郊外に大型店舗を展開しているところに強みがあって、eコマースが全てを占拠するとは考えていない。お互いの強みを活かし共存する存在になるが、オフラインは全ての売り場とやり取りできる存在であり、かつ1日中家族が楽しんでもらえる旗艦店のような存在であると語った。 では、オンラインはどのような役割を担っていくのか。オンラインはどこにいようが場所は問わない。お客様はイケアに来店する前、オンライン上からファーストコンタクトでアクセスして欲しい情報をチェックする。つまりオンラインとは、イケアというブランドと接点を持つ最初のチャネルであると考えているという。

新しいカスタマージャーニーとは

今までのカスタマージャーニーは、お客様が商品に興味を持った思った瞬間から購買後に至るまでにたどる過程を表すが、イケアではカスタマージャーニーや購買ファネルのように、決定された過程を経た購買はしていないと理解しているという。実際どのようなものかというと、魚やクジラのような形をしているという。 お客様が商品に興味を持って新しいチャネルへ入り、集めた情報によってファネルが拡大または縮小を繰り返す。購入時はファネルが狭くなっても、購入後、お客様がユーザーレビューやソーシャルメディアからコメントを投稿して、それを見たお客様が商品やイケアに興味を持ち、さらに裾野が広がる。このような魚やクジラのような形をしたカスタマージャーニーを意識してオムニチャネルを捉えているという。 新しいカスタマージャーニーとは?資料請求バナー_記事下

カスタマージャーニーで重要な4つの「CXバブル」

カスタマージャーニーのなかで一連の体験として結びつける4つの「CXバブル」を、オムニチャネルを通して行っていきたいという。1つは「Inspiration」。お客様がルームセットなどの画像を見て、これがほしいな、これが必要だなというインスピレーションを受ける体験は非常に重要である。 2つ目は「Exploration」。お客様がカラーバリエーションや商品サイズ、価格の比較をされた段階で、探検という体験をされる。3つ目は「Purchase」。購買の前段階で離脱するお客様は非常に多い。購買に対する敷居を下げていく、あるいは購買のジャーニーをより豊かにすることが重要である。4つ目は「After Sales Care」。購買したあと、お客様はイケアのチャネルを通してサポートを受けたり、あるいはユーザーレビューをされたりする。 カスタマージャーニーCXバブル

3つの原理に基づいてチャネルを結ぶ

チャネルにおいても3つの原理・原則に基づいて結びつけようと考えているという。1つは「その経験がより良くなるチャネル」であること、2つ目は「その体験が拡張されるもの」。最後は「1つのチャネルが提供できないようなサービスやサポートを補うもの」である。 例えば、お客様がIKEA原宿店で満足できるほどルームセットが見られなかった場合、オンラインストアにあるデジタルショールームを活用してご要望にお答えしている。チャネルとチャネルを結びつけることで、どのようなアクションができるのかを考え展開している。 最後に、コワーカー(従業員)の存在が、オムニチャネル戦略のなかで非常に重要なものだと考えているという。お客様と接触するコワーカーが、デジタルツールを活用するなど、オムニチャネル戦略をドライブする役割として非常に重要な役割を持っていると語った。