アダストリアは、グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなど、30以上の衣料品および雑貨を中心としたブランドを展開するファッションカジュアル専門店チェーン。2020年上期のEC売上は前年同期比25%増加の252億円を達成。4つの軸を中心に、デジタルを手段として活用するアダストリアの取り組みについて解説された。
株式会社アダストリア マーケティング本部長 田中 順一 氏
本記事は、インプレスが主催するオンラインイベント「
ネットショップ担当者フォーラム 2020 秋」より、株式会社アダストリア 田中氏から「アダストリアが進めるデジタル時代の新しい顧客接点・働き方づくり 〜1対Nの動画活用、1対1の接客予約、データ基盤の可視化・活用など〜」というテーマで講演が行われた。
アダストリアが展開する通販サイト
ドットエスティ(.st)は、アダストリアが展開するブランドが集結したファッションWEBストア。国内以外に、台湾、韓国、中国でもサービスを展開している。ドットエスティ会員は2013年時点で100万人だったが、2020年現在、延べ1,000万人以上まで成長している。
これまでの歴史を振り返ると、2013年ごろからリアルとオンラインに独立していた会員IDを連携。その後、1,300店舗のスタッフに取り組みを理解してもらい、お客様への声がけを協力して会員獲得につなげた。2014年、お客様が会員証をすぐに出せるよう公式アプリを導入。現在は、顧客接点の拡大を強化している。
デジタル化を進めるために「繋がり」を意識
企業がデジタル化を進めていくと、いつしかデジタル化自体が目的になったり、またはデジタルを使うことが自体が目的となってしまったりと、本来の意味から離れてしまう時がある。「デジタルは、あくまで手段の1つ(大切な手段の1つ)と捉えて業務を遂行すべき」と田中氏は語る。
まずは考え方が重要で、具体的には大きく3つの考え方で業務を遂行しているという。1つ目は、繋がりやストック型を意識すること。ECサイトの場合、お客様にタイムセールやクーポン、インセンティブを提供すれば、売上として跳ね返ってきやすくなる。
しかし、顧客接点と捉えると、例えば、メルマガ会員数、LINE友だち数、SNSフォロワー数、
アプリ利用ダウンロード数など、お客様との接点のハブとなる先程のような数も意識する必要がある。
つまりストック意識であり何の数を伸ばしておくかが重要だ。「これはデジタルだからこそできること。会員を分析する時、ある程度の数をストックしておかなければいけない」と語った。
サービスやシステムリリースなど色々やる時は「改善前提」で進める
2つ目は、改善前提で進めること。サービスの企画段階で、こういうものを作りたいという発想だけで進めてしまうと、すぐには成功が出てこない。デジタルだからこそ数字が取得できるため、サービスをリリースしたら、数字を見ながらあくまで中長期的目線も持って「改善前提」で始めることを意識する。
4つの軸をアップデート
3つ目は、ビジネスを進化させるため4つの軸を社内で議論しながらアップデートしていく。
これは「ブランド・モノ」「従業員」「パーソナライズ・個別化」「チャネル(リアル、EC 他)」の4つを意味する。これらの中心に「お客様の声」が置かれ、お客様へのアンケートや会員NPSを実施、表面的な数字では分からない多くの発見を獲得する。
そのなかで1つ「従業員」という軸の取り組みについて紹介する。ドットエスティではスタッフが自身のスタイリングをアップしたり、おすすめのアイテムをアップしたりしている。各スタッフをフォローする機能も搭載しておりお客様は参考になるスタッフのスタイリング情報などを見る事ができる。
各スタッフをフォローしているユーザー属性を収集してデータベース化を行っている。「なぜ行っているのかというと、今後ブランドを超越して、各企業 スタッフとお客様とのマッチング化が開始されると思っている。その時、自分がどのようなお客様に需要があるのか知っておく必要があり、それが分かれば自分を良いと思っていただけているお客様が喜んで頂けそうな最適なアピールができるのでは?」と田中氏は解説した。
デジタルでお客様との接点を作る
今年は新型コロナウィルスの影響で、アダストリアも店舗を一時休業していた時期もあった。 ドットエスティでは、インスタライブを活用して21ブランドがアイテムを紹介する映像を配信した。またドットエスティ・チャンネル( .st CHANNEL)では、それらの動画コンテンツをアーカイブにしていつでも視聴できるようにしている。商品詳細には商品動画を組込み、静止画でだけは伝わらない商品特徴を動画などを利用して伝えている。
単価の高いブランドを中心に、1度実験として、リアル店舗からオンラインで1対1でのLIVE接客を開始。また混雑に不安を持つお客様には、来店予約ができるサービスも一部のブランドで開始した。
それらを「オンライン」と「オフライン」に分け、さらに「1対1(個別接客)」なのか「1対N(全体接客)」なのか要素分解して、どれが実施できて効果が高いのか、お客様が利用して頂けるのか、チャレンジ(実験)しているという。
パーソナライズしてコンバージョン強化
より、お客様に 便利で有効な情報を提供する為にはデータを活用して、誰に、どんな情報を、どんな方法でコミュニケーションするのか考える必要がある。パーソナライズには「サイト自体」「配信系」「プロモーション」の3つのセグメントがあり、そこにも注力し始めている。
例えばアダストリアでは「配信系」の部分で、比較的身長の低いお客様を対象に、同じくらいの身長のスタッフがそのサイズに合う商品を紹介する動画コンテンツを配信している「より沢山のヒトにコンテンツを一斉に配信するより、そのテーマにニーズがあるお客様に最適なコンテンツを届けることで配信量は減るが、精度が上がる方が良い。コンバージョンも変わってきている」と語った。こういった事が、どうすれば、より自動的にできるのか、といったこともいろいろ模索している。
人を中心にチャネルを再構築
最後に「チャネル」のアップデートについて。従来「オムニチャネル」という言葉は、ECとリアル店舗という場所だけで定義している風潮があると田中氏は感じているという。新型コロナウィルスの影響で社員は、在宅で働き、リモートで会議し、たまに出社してきたが、その時に思ったのは、結局「ヒト」が中心にいて それらを使いこなしていると改めて感じたという。
今後、オムニチャネルに関連したサービスを考えるとき必ず人は中心にいて、それらを使い分けるときどのような動きをするのかカスタマージャーニーをイメージしながら、再構築を進めているという。アダストリアではデータを含めたこれら4つの軸をデジタル戦略の基本ととらえ、きちんとお客様に向けて顧客接点をアップデートしていきたいと語った。