数年前から多くの企業でDXの推進を検討する話が出ている。いざ推進となるとどのように進めたらいいのか、どんなリスクがあるのか、体験に基づいた事例が少ないのが現状である。ビックカメラならではのDXの理解とは?DXを成功に導く戦略、データ活用へのアプローチと今後の展望について語った。
株式会社ビックカメラ DX・DC本部 サービス開発部 兼 システム部 課長 深川 純也 氏
本記事は、トレジャーデータが主催するオンラインイベント「
PLAZMA13」より、株式会社ビックカメラ 深川氏から「形だけに終わらせない!DX戦略とデータ活用」というテーマで講演が行われた。
DXが盛り上がりを見せるなか、実際会社で取り組んでいくとなったとき、DXの成果をどのように定義するかというのが一番難しい課題である。会社には既存の領域と今後拡張していく領域があり、そこにDXが入ったとき、会社はどう取り組んでいくのか。
既存価値の拡大、新しい価値の創出など、会社がDXに求めるものを曖昧にしないためにも自分たちでDXを定義し、「そもそもDXとは何か」という問いに独自の解釈を持つことが大事である。
DXが失敗する要因・成功する要因
ではDXを推進して、失敗する要因と成功する要因とはどこにあるのだろうか。DXの失敗の要因としてあげられるのは「システムの形骸化」である。今までエクセルでプロジェクト管理を遂行していたが、SaaSを導入すれば業務効率化になると思っていたら、以前の業務と変わらずいつしか形骸化していた。これこそが失敗の要因である。
一方で成功の要因とは「システムの定着化」にあたる。導入前に業務整理をすることはもちろんだが、システムを導入したあと、利用者とともに使用方法を模索していくことで新しい形を作っていくことである。これこそがDXを推進する組織において重要な要因だと深川氏が指摘した。
ビックカメラはさまざまな場所にオフィスがあり、必ず対面でミーティングを行っている。その移動時間が非効率だと感じ、2019年10月頃、Web会議システムを導入した。ここでのポイントは、利用する方が実際使わなければいけない状況となった時、どうやって使わせるかを考えることである。
新型コロナの影響で全社導入となった時、システム部門は日々の各部署からの問い合わせで手一杯の状況になるのだが、自社の環境に合わせた独自のマニュアルを作り、利用者と共に活用スタイルを構築していった結果、問い合わせは2週間で減少し、今では1日200回以上のWeb会議が開かれるようになったという。
つまり、社員は代替手段や妥協案があると何とかなるのではないかと思い、サービスを使い倒すことにつながらない。退路を断って、全従業員が一体となり、一気にサービスを使い倒すことが重要となる。
着実にトライ・アンド・エラーを繰り返す
しかし、一部の従業員で細かい分析をせず、即断で全社導入しても使われなければ莫大なコストが掛かり、経営リスクにつながってしまう。そのためには、短期間でトライ・アンド・エラーを繰り返し、会社に合わないものは見送る。そして成功したものだけを全社導入するよう動くことが大事である。
具体的にどのような方法でトライ・アンド・エラーを繰り返すのだろうか。それを行うためには「データ」が必要となる。データとは事実が積み重なった状態のものである。そうかも知れないという「主観」の状態からデータを見える化し、トライ・アンド・エラーを繰り返すことで、こうだったという「事実」を積み重ねていくことが重要である。
会社にはさまざまなデータが存在する。社員が見ているデータがバラバラになってしまうと、議論の本質からずれていき、やがて大きな失敗につながってしまう。個人が作ったデータを組み合わせるのではなく、ありとあらゆるデータを共通言語化し、データに対して取り組みをしていくことがポイントになる。
データを活用する必要性は認識したが、今まで現場で働いていた社員や、中途採用された社員がいきなりデータを見せられても、データの活用法にたどり着くことは難しいことだろう。誰が見ても理解しやすく、アイデアが生み出しやすい環境を構築し、アイデアをドライブさせるサイクルを作り出す。トレジャーデータが提供するTreasure Data CDPはそれを可能にする近道であると深川氏は語った。
DXのサイクルを加速し続ける
従来は登録された全てのお客様にメルマガを一斉配信していたのだが、開封率の低さが課題だった。トレジャーデータを導入してから、お客様が興味のあるコンテンツを分析し、お客様が興味のあるテーマに合わせてメルマガを配信するようになった。その結果、メルマガの開封率は以前より3倍に増加したという。
実証実験を行ったことで路線変更を行う課題が見えてきた。そこから新たに行うべき施策を発見し、段階的に実施、全体に浸透していくといったサイクルが生まれてくるのである。
今後、ビックカメラグループに保有するさまざまなデータを整理しながら、お客様にとって魅力的なアプローチを行えるよう活用していく。カテゴリごとにサイロ化されたものを横断して、成果の高い施策を打ち出していく。
データとDXは非常に密接な関係であり、DXモデルを自分たちで作るということは成功も失敗も、自分たちで咀嚼していくことになる。「生活は新しいものに変わっているのに、会社の組織はいつも非効率で変わっていない。DXをキーワードにして、組織が培ってきた魅力を残しながら新しい姿に変えていくことがDXの本質」だと語り、担当者はデータとDXの相関関係でサイクルを加速していってほしいと深川氏は語った。