2002年にアメリカ・サンフランシスコで誕生したブルーボトルコーヒー。日本で20カフェを展開し上陸6年目となる今年、公式オンラインストアをオープンした。今回、始めた背景や世界観、最も苦労した点などに触れ、自動販売機や他社コラボ、地元とのコミュニケーションについても語った。
ブルーボトルコーヒージャパン合同会社 Country Director 伊藤 諒 氏
2020年9月、地域におけるeコマース市場の現状と課題を把握し、その方策を導くためのカンファレンス「
ネットショップ担当者フォーラム&Web担当者Forumミーティング2020 in 大阪」が開催された。ブルーボトルコーヒージャパンの伊藤氏より「ブルーボトルコーヒーが公式オンラインストアを開設した理由とは?オンライン・オフラインを通じた多様な接点作りと、変わらない”美味しいコーヒー”体験」というテーマで講演を行った。
日本に感銘を受けて2015年、1号店を開店
ブルーボトルコーヒーは、2002年、創業者のジェームス・フリーマン氏がカリフォルニア州のファーマーズマーケットでコーヒーショップを開店したことから始まる。もともとコーヒーはフルーツの種からできているのだが、フレッシュネスや賞味期限について語る人はいなかった。美味しさのピークを楽しむことについて焦点が行かなかったことについて、フリーマン氏は疑問を持っていたという。
カリフォルニアは、フレッシュネスやサスティナビリティについての感度が高い地域だったため、その特性を活かして美味しさのピークに合わせてエイジングしたコーヒー豆を提供するブランドである。
2008年頃、フリーマン氏は初めて日本へ来日。その時、日本の喫茶店でコーヒーを1杯1杯丁寧に作るクラフト気質を見て、すごく感銘を受けたという。彼の想いの源泉が日本にあると感じ、日本に出店したいと決意する。2015年日本第1号店をオープンすることができた。現在世界4カ国90店舗以上で展開している。
2020年7月オンラインストアを開設
ブルーボトルコーヒーのオンラインストアは、2020年4月にプレオープン、7月に本オープンされた。オンラインストア開設に当たり目指したところは、ブランドの世界観をどのように表現するかというところだという。コンテンツを紹介すると、バリスタがセレクトする「定期便」は、2週間に1回ないしは1ヶ月に1回、バリスタがセレクトするコーヒー豆をお届けする。
また、これまで清澄白河や三軒茶屋のカフェでは、お付き合いのある生産者が参加するイベント「ファーマーズマーケット」を開催。を実施していた。新型コロナウィルスの影響でファーマーズマーケットはリアル店舗は実施できなくなったが、オンライン上で開催。野菜、果物、コーヒーまたはパン、はちみつ、コーヒーを詰め合わせたステイホームセットを販売した。
そして、いろいろなテーマに応じてスタッフが「ブログ」を発信している。コーヒーの情報のほかに、店内で流れている音楽の情報、店舗デザインについての考え方、店舗スタッフがどういったところに魅力を感じてブルーボトルコーヒーに入社したのかなど、いろいろな角度から発信している。
開設した背景や世界観、果たした役割について
今回オンラインストア開設にあたり、始めた背景や世界観、お客様からの反響、苦労した点などを伺った(聞き手:インプレス 公文 紫都 氏)
―― ブルーボトルコーヒーが日本に上陸して5年目とのことで、なぜこの時期にオープンしたのでしょうか?
我々は5年前からスペシャルティコーヒーを「ブームから文化へ」推進していくことが大きなテーマとしてありました。そのためにブルーボトルコーヒーに興味を持っていただき、またはスペシャルティコーヒーに興味を持っていただき、ブランドのコミュニティを作っていくというのが全てのテーマになっています。
最初からオンラインストアを始めたかったのですが、事業をきちんと拡大していく中で、まずはリアル店舗をベースとしたものから進め、整備が整ったところで昨年末からオンラインストアをローンチする準備を進めてきました。
―― もう少し世界観や大切にしていることについて教えてください。
弊社の中で大切にしている「デリシャスネス」という言葉があります。それは単に味の美味しさだけに留まりません。リアル店舗つくりにおいては、コーヒーに集中できる極力シンプルで洗練された空間を目指しており、ミニマムでありながら温かみのあるデザインをモットーに1店舗ずつゼロからデザインをしています。その考え方はオンラインストアでも感じていただけると思います。
ユーザーのカスタマージャーニーの印象と、店舗に来ていただいた時の印象がなるべく近いものにしたいと思っていまして、ユーザー体験を作り上げていくところを大切にしています。
―― 世界観をデザインするにあたり最も苦労した点は何ですか?
店舗でも共通することですが、ミニマルということを考えた時、区切りをどこで引くかということになります。例えばリアル店舗でデザインをシンプルにしていくと鉄筋むき出し、コンクリートむき出しとなって殺風景な感じになります。では居心地がいいってどういうことか、オンラインストアを作る時もシンプルでかつ素材や生の部分をどうやったらお客様に伝えることができるのか議論していました。
余計なものをどこまで引き算していくか考えながら作っていったのですが、それが逆に殺風景にならないように、温かみのある感じが伝わっていただけたらと思っています。
―― オンラインストアはShopifyを利用されたそうですが、選ばれた理由は何ですか?
大きく3つありまして、1つは拡張性。今回自社サイトの立ち上げに際して、どのようにブランドの世界観を表現できるか大切になってきました。日々お客様からの声をいただきながら拡張していこうと思っていまして、それができることは重要だと思っています。2つ目は内製化。なるべく社内で実装していきたいと考えています。3つ目はデザインの自由さですね。
―― オンラインストアで取り扱っている商品はどういうものがありますか?
サイト上ではコーヒー豆、抽出器具、他社とのコラボレーション商品、トートバッグなどを販売しています。ジャンル問わずバランスよく提供しておりまして、なかでもコーヒー豆、抽出器具、マグカップがよく売れています。
―― オンラインストアを利用されている方はどういった方が多いですか?
東京や神奈川、関西の方が多いですが、出店していないところでは北海道からのアクセスが多いです。男女比では女性が多く、年齢層では20~40代が多くアクセスしているようです。
―― オンラインストアを開設して、お客様の反応はいかがですか?
アクセス解析を見ていると、ブログやブランドのストーリーのページにアクセスされているようで、それは嬉しく思っています。それと、定期便についてもアクセスされておりまして、我々が発信したいところを中心にご好評いただいている状態です。
―― オンラインストアのほかにECプラットフォームもご利用されていますが、使い分けはされていますか?
4年ほど前、楽天に出店させていただきました。現在はテスト段階ですがAmazonにも出店させていただいております。その2つのプラットフォームでユーザー向けに展開させていただいている状態です。
自社サイトとの違いは、自社サイトはコミュニティ作りやブランド発信というところを重視しています。プラットフォームは、ブルーボトルコーヒーやスペシャルティコーヒーについて広く知っていただくことを目指して出店しています。
―― 緊急事態宣言が発令した期間はお客様との接点がつかめない状態でしたが、オンラインストアが果たした役割とは何でしょうか。
そのときは我々の店舗も全店クローズしていました。その中でもコーヒーを楽しみたいという声は頂いておりまして、我々も製造部分は稼働してオンラインストアをオープンし続けられたことは、お客様のお気持ちに多少なりともお答えできたと思っています。
自動販売機、他社コラボについて
―― 最近ユニークな取り組みをされていますが、まずは自動販売機を設置されたということで、その取り組みについてお聞かせください。
2019年末ごろ、来年夏のオリンピックに向けて、世の中を盛り上げようという企画で、新しいコーヒー体験の1つとして自動販売機の可能性を模索していました。予定通り今年の夏ローンチできたのですが、今を振り返れば人を介さない非接触な体験が現状にフィットしたかたちになりました。
カフェに行きづらいお客様が安心して購入できたり、またはカフェに行ったことがないけどコーヒーを買ってみたいというお声もあったりして、今回テスト的に実施しました。世界初の試みでしたが、海外からもいろいろな反響をいただいている状態です。今後も力を入れていきたいと思っています。
―― 他社コラボも積極的にされているようですね。どのような取り組みをされていますか?
他社のプラットフォームに出品することを進めております。コロナ禍という状況もあり、カフェに来ていただくだけではなくて我々のほうからお客様の方へ出向き、お客様との距離を埋めていくことを行っておりまして、クックパッドマートやOisixで出品をスタートしています。
クックパッドマートやOisixも素材を大切にしていたり、生産者の想いを伝えるページがあったりして、弊社がブランドとして大切にしているところでもあるので、そういった点を参考に提携をしています。
Oisixではお客様が手軽にお試しいただけるセットを用意しています。しっかりと香りが楽しめるインスタントコーヒーと、自社内で製造しているグラノーラ、あとは今年から販売している乳製品にアレルギーがある方でも楽しめるオーツミルクをご提供しております。
お客様との接点について
―― コロナ禍においてお客様との接点の価値はどんなところにありましたか?
やはり、地元のコミュニティの方にいつも利用されているカフェからの回復が早かったですね。お客様から「オープンするのを待っていたよ」「おかえり」という声をいただくことが多くて本当に嬉しかったです。ブランドとしてコミュニティにずっと密着し共存していくことで、地元に永く根づいていこうと再認識した次第です。
―― 清澄白河の店舗へ訪問した際、お子様の絵が沢山飾ってあったのが印象的でした。あれは地元のコミュニティの絵ですか?
はい、店舗に来られている方に塗り絵を渡して出来上がったものを掲示しています。創業当初は清澄白河に焙煎機がありまして、近くの小学校から社会科見学で焙煎機の一日体験をしていただいたり、地元の八幡神社のお祭りに参加させていただいたり、そういうつながりがございます。
―― オンラインとオフラインとの連携を図っていく取り組みはありますか?
こちらは検討中の段階です。オンラインで提供しているメンバーシッププログラムですが、導入した背景はオンラインストアで購入した際に貯まったポイントをさまざまな特典に交換できることを考えていました。オンラインで行った体験をオフラインでも使えるロイヤリティプログラムを今後、拡充していこうと考えています。
他には、一部の店舗で商品の前にQRコードを貼り、それを読み込むとオンラインストアで購入できる取り組みを行っています。たとえば店頭に置いてある商品のサイズが大きくて違うサイズの商品が欲しいとか、その場で持ち帰られない場合などに、ご利用いただけます。
―― 最後に視聴者へのメッセージをお願いします。
我々は実店舗の体験からスタートしておりますが、今回オンラインで何ができるのか日々挑戦を行っております。手探りの状態ですが、少しでも店舗体験の部分にオンラインがマッチできる形を目指してやっていこうと思っています。