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サントリーのモバイルオーダー店舗「TOUCH-AND-GO COFFEE」サービスが誕生した背景と効果を語る

 Post by MML編集部

2019年6月、東京・日本橋に「TOUCH-AND-GO COFFEE」がオープンした。これはLINEで事前注文したコーヒーを店舗で受け取れるサービス。今回、サービスが立ち上がった背景からCXデザインのポイント、LINEを選んだ背景、成果や今後の取り組みについて解説された。

高橋 大樹 氏

サントリー食品インターナショナル株式会社 ジャパン事業本部 戦略企画本部 イノベーション開発部 高橋 大樹氏

2020年6月、LINEが主催する、LINEで実現する最先端のCX事例を発信するイベント「LINE CX DAY」が開催された。サントリー食品インターナショナルの高橋氏より「LINEを活用したCXデザイン サントリーが目指す、新たなライフスタイルの創造」をテーマに講演を行った。

TOUCH-AND-GO COFFとは

TOUCH-AND-GO COFFEEはLINE上から好きなコーヒーをカスタマイズ、受け取り時間を設定すると店舗に送信される。店舗では注文通りのカスタマイズでコーヒーを入れて準備する。お客様は時間に合わせて来店し、商品を受け取る仕組みだ。

サントリーはなぜこのようなサービスを始めたのだろうか。サントリーでは普段、ペットボトルや缶に飲料を詰めて販売している。そういった飲料技術で培った加工技術を使って、新しい販売チャネルで、新しいライフスタイルを作っていきたいと高橋氏は意気込みを見せた。

ターゲットの悩みを解決する

お客様はどのような課題や悩みを抱えているのだろうか。答えは大きく2つあって、1つは「コーヒーの行列をなくしたい」。現状、お客様は1杯のコーヒーを求めるために、カフェやコンビニの行列に並んでいる。

「我々は缶コーヒーを買っていただくのがありがたいのだが、淹れたてのコーヒーを購入し、コーヒーの時間を楽しみたい。そういったお客様にTOUCH-AND-GO COFFEEで解決してあげたい」と高橋氏語った。

そういったお客様に対してどういった価値を提供したらよいのだろうか。サントリーでは「Custom but Fast」を規定している。つまり、ちゃんと選べてすぐ受け取れるということ。「Customというのはコーヒーをカスタマイズできるという意味のほかに、自分のペースで注文できる意味も含んでいる。そんなサービスを提供することで、先ほどの課題や悩みを解決できるのではないかと思っている」という。

通常カスタムしたものは時間がかかる。一方で汎用的なものは早く、画一的になる。そこでカスタムなのに早く提供できる二律背反をブレイク・スルーすることが、お客様の新たな体験を生み出すとチームで考え開発してきたと高橋氏は述べた。

次世代店舗中心のCX設計

2つ目は「カフェにおけるDX」。これには大きく2つあって、1つは「デジタル起点のCX設計」。リアルの店舗があるところでは、店舗を中心にどういった商品やサービスを提供するか考えている。

一方サントリーでは既存店を持っていないため、デジタルを中心にどんな新しい商品やユニークなサービスを提供していけばよいのか、新しい発想で柔軟にサービス設計をしてきた。その結果、店舗は受け取るだけの役割ということに絞って、それ以外のお客様の体験はデジタルで行うことで、自由度の高いサービスに変わった。

2つ目は「次世代の外食事業モデル」。外食事業をきちんと事業モデルとして成立するようすすめるのも一つの挑戦だった。その中で目指しているのは大きく3つのレスがあるという。1つは「オペレーションレス」。TOUCH-AND-GO COFFEEでは徹底的にオペレーションを削っている。レジをなくし、接客をなくし、現金払いをなくし、ドリンク作りにフォーカスすることで人時生産性を高めた。

2つ目は「トレーニングレス」。一般的にカスタムにするとオペレーションが増えてしまうが、サントリーで培った加工技術を使って美味しいコーヒーを引き出せるよう標準化を行い、誰にでもできるようトレーニングレスを実現した。3つ目は「スペースレス」。大きな店舗ではなく、テイクアウトに絞った小規模店舗で回転率を上げるよう工夫した。

CXコンセプトが実現できているか常に追求

サントリーはどのような顧客体験をもとにコンセプト設計していったのだろうか。高橋氏は大きく2つあると答えた。1つは「CXコンセプトの規定と追求」。今回のCXコンセプトは「Custom but Fast」。カスタマージャーニーの中で一貫してCustom but Fastが実現できているかを考えながら設計を行った。

CXデザインのポイントの2つ目は「Scrap&Build」。つまり、プロトタイプを何回改良できるかでサービスの精度も高まってくる。サントリーはモバイルオーダーだけの店舗というのが日本になく手探り状態だったため、会社の近くの施設にテストキッチンを作ったという。

テストキッチンは、ディスプレイのほか裏側のオペレーションなど、実際にお客様が体験できるようなかたちに構築されていた。既存店舗のモバイルオーダーは“置くだけスタイル”を採用しているところが多い。当初は平置きで対応して実験を繰り返していたが、スタッフが購入プロセスで20杯以上平置きされている商品のうち、どの商品が自分のものなのか判別できず、あとからこれはスムーズではないことが判明し、無認証ロッカーの採用に至ったという。

「僕らの提供したいCXコンセプトは何なのか、そして作っては壊し、作っては壊しを繰り返すことで精度を高めていく。これがCXデザインにおいて非常に重要なコンセプトになるということを勉強した」と高橋氏は述べた。

公式アプリではなくLINEを採用した背景

マクドナルドやスターバックスなど、公式アプリを活用したモバイルオーダーは多くなってきているのだが、TOUCH-AND-GO COFFEEは公式アプリの導入は考えなかったのだろうか。高橋氏は初めからLINE以外の選択肢は無かったという。

「我々は既存店舗がなかったので、おそらく行くかも分からない店舗のためにアプリをダウンロードすることはないだろう。つまりこの時点でFastではない。店舗へ行こうと思った瞬間にアプリのダウンロードが必要というのはハードルが高い。そこを解決するために最大規模のユーザーを誇るLINEを入口にするとハードルは一気に下がる」のだという。

LINEを活用するためには、LINEファストな設計をしていく必要がある。開発のポイントは大きく2つあるという。1つは「LINEファストな設計」。LINEユーザーが慣れ親しんだLINEのUI/UXを盛り込んで構築する必要がある。2つ目は「アプリへの拡張性」。今後、LINE以外の可能性も出てくることを想定し、フロントとバックを作り込んで、その後の拡張性を担保する必要がある。

「実際、注文画面を作るときに意識したのは、Custom but Fastでカスタムはいくらでもできる。でも我々はカスタムだけどファストであるというところを意識して6ステップまで絞ったり、ボットの流れが不快にならないUIも考えたりした」という。「Custom but Fastというコンセプトの中でお客様に提供したい顧客体験は何か、きちんと定義することが大事」だという。

オープン3か月後の成果と今後の取り組み

2019年6月にTOUCH-AND-GO COFFEEがオープンして3か月、どのような成果があったのかを公表した。LINEの友だち登録数は約13万人、会員登録は約7万人、利用者は約4万人だった。「PRをしないなかで、これだけのお客様を獲得できたのはLINEを選んだおかげ」だと語った。

一方、想定外反響の大きかった部分は、当初、朝の忙しい時間注文した商品がすぐに受け取れることをコンセプトにやっていたのだが、お昼の時間に女性のお客様がやってきたことに驚いたという。

お客様はジャニーズ系のオタ活で購入されたり、ラベルの限定さに惹かれて購入されたり、自分の名前が入れられるオリジナリティで購入されたりする。その商品をSNSに公開し、それを見た人がさらに店舗へやってくる。そういうカスタムできる価値の高さが我々の想定を上回る広がりを感じたと語った。

3か月実施した結果として、自社でアンケート調査を行ったという。どういうところからお客様が流入したのかというと、14.3%がサントリーの缶やペットボトルを週1回以上購入されている既存のお客様で、併飲を含めて半数がすでにリーチできていたお客様だった。しかしTOUCH-AND-GO COFFEEをオープンして残りの半数は新たにリーチできたそうであり、サントリーの既存事業にとっても大きなプラスだったと高橋氏は語った。

今後の取り組みとして「僕らの挑戦を深めることは道半ばなので徹底的にやっていきたい。先ほどの“3つのレス”についてもさらに磨き上げて、どこでも成立するような新しい事業モデルを作り、お客様の体験やサービスも磨いていきたい。次世代の新しいカフェを徐々に拡大して、どこの場所でもお客様に接していけるサービスにしたい」と語った。