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感動を生み出す、スターバックスのデジタルを活用した顧客体験の取り組み

 Post by MML編集部

日本全国で1,500店舗を超えるコーヒーチェーン「スターバックス」のデジタルを活用した顧客体験の取り組み。デジタル領域におけるこれまでの取り組みを振り返り、サービスを通してどのようなスターバックス体験を提供したのか。

さらに2019年6月に開始した「モバイルオーダー&ペイ」にも触れ、店舗とお客様とのコミュニケーションを深めるため、社内でどのような対応を行ったのか解説された。

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 デジタル戦略本部 CRM部 部長 清水 省吾氏

2020年1月、UBMジャパンが主催する、「新たな顧客と市場の創造」をテーマに展示会とセミナープログラムで構成される国内最大級のイベント「マーケティング・テクノロジーフェア東京2020」が開催された。スターバックス コーヒー ジャパンの清水氏が、「スターバックスが提供するシームレスな“感動体験”~デジタルの力で新たなステージへ~」と題して講演を行った。

スターバックス コーヒー ジャパンは1996年、東京・銀座に日本1号店をオープンし、日本でビジネスを開始してから24年目になる。スターバックスが掲げるミッションは「人々の心を豊かで活力あるものにするために、ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」というもの。

「スターバックスの感動体験は、日々の暮らしのなかで感じるちょっとしたウキウキ感、ぬくもり、元気や活力を届けることをベースにしている。そういったことを実現していきたい」と語った。

スターバックスの体験を構成する要素としては、主に「パートナー(従業員)」「プロダクト」「店舗・空間」「デジタル」の4つが挙げられる。これらをシームレスに繋ぐことによって、より豊かな体験を提供して、人と人とのつながりを育んでいる。

スターバックスのCRM戦略

スターバックスはデジタルを活用して、どのようにスターバックス体験を強化しているのか、CRMの観点から見ていく。まずは、入口で新しいサービスを導入し、お客様との継続的な成熟を続けていく。お客様の購買情報を活用し、お客様一人ひとりに合った提案をするなどパーソナライズされたコミュニケーションをし、ライフタイムバリューを継続的に向上する。

それに加え、お客様のデータを書き加えていくと、より顧客のニーズに合った提案が可能になり、結果として全社的なROI向上にもつながる。これらデータのエコシステムを回していくことで、継続的な企業成長につなげていく。

デジタル領域におけるこれまでのスターバックス コーヒー ジャパンの取り組み

スターバックスはデジタル領域をどうやって拡大してきたのか、その取り組みについて紹介する。2002年、公式サイト、メールニュース、スターバックス カードを開始。支払い時にも楽しく、わくわくした体験を感じてもらうこと、デザイン性のある楽しいカードを通して、パートナー(従業員)とつながりを生むことなどを目的に、当時珍しかった、プリペイド式のスターバックス カードを導入し、ファンを増やしていった。

2011年、My Starbucksを開始。今までのメールニュース会員をWeb会員化して、ログインできる状況を構築、会員サービスをオンライン上で持つことができるようになった。2012年、Card Registrationを開始。スターバックス カードの登録、オンライン入金、オートチャージ、残高補償の機能を提供して、カード登録を促進した。ここからお客様情報と購買情報が紐づき、CRMを開始した。

2013年、Starbucks e-Ticketのサービスを新たに開始。My Starbuks会員に、オンライン上でドリンクチケットをプレゼントできるサービス。この頃、Starbucks Online Storeもオープン。Online StoreはECだけの拡大ではなくあくまでもCRMの観点で、会員のみが購入できるサービスとなっている。

さらに2014年、Starbucks e-giftをスタート。人と人とをつなげるというテーマで感謝やお祝いのメッセージとともに、ドリンクやフードのチケットを添えて送ることができる。その頃、モバイル スターバックス カードを導入。2015年から発売しているStarbucks Touchは、フェリカチップをペンやアクセサリーに埋め込み、接触するだけで決済でき、新たな支払い体験を生んだ。利便性の向上に加えて、ライフスタイルに合わせたデジタル施策を取り入れてきた。

2016年、公式モバイルアプリをローンチ。スターバックス カードをバーコードにして表示するデジタル スターバックス カードを導入。スマートフォンだけあれば商品を購入できる決済手段に対応した。2017年、「Starbucks Rewards™」を開始。公式アプリやスターバックス カードで購入するとStarが集まり、一定数集めると商品と交換できるReward eTicketを発行できるロイヤルティ プログラム。

2019年4月、LINEとの包括的な業務提供の一環として、LINEのプラットフォーム上で、「LINE スターバックス カード」の発行を開始し、同時にLINE公式アカウントも開設、デジタル上で新しいつながりを育んでいる。

スターバックス:デジタル領域の今までの取り組み

これらの活動によって会員基盤がどのようになったのか会員数を見ていくと、2012年度から2017年度まで約140%に増加。2018年度でStarbuks Rewards™を導入した結果、前年度比177%に増加した。2019年にLINEと提携したサービスを開始、その効果もあって2019年12月までの1年3か月間で200%の増加となった。

スターバックス:Starbucks Rewards会員数。177% 200%

消費者ニーズの変化から起こった2つの機会点

フレシキブルな働き方やキャッシュレス化の推進により、消費行動は多様化し、消費者ニーズの変化が見られるようになった。このような状況から、お客様のカフェに対する関わり方や、使い方も変化しており、スターバックスにおいても、一人ひとりのニーズに合った体験を提供している。

お客様からの声として、「長いレジの列」「店内が混雑している」という2つが多くあがっていた。レジの列を理由に、10人に1人が購入を諦めて帰っているというデータもあるそうだ。その声に対して、スターバックス社内でもソリューションを検討し、「モバイルオーダー&ペイ」を導入した。これは、公式モバイルアプリ上で商品注文から決済までを行い、レジに並ばず、商品を受け取ることができる事前注文サービスである。

スターバックス:最も多いお客様からのコメント。「長いレジの列」「混雑している」

「混雑して列が並んでいると、ゆっくりメニューを選べないというお客様の声もいただく。それがアプリ上で選べるのであれば、自分のペースでゆっくり商品選択やカスタマイズできる」と清水氏は語った。

「モバイルオーダー&ペイ」をローンチ。ユーザー調査で見えてきた3つの機会点

2019年6月、まずは東京都内56店舗からスタートした。都内のビジネスパーソンの利用を想定し、「大手町・丸の内エリア」を中心に展開した。店舗オペレーションとのバランスを見ながら、お客様のニーズに応えるサービスの拡充を進めた。

ローンチして1~2か月後、ユーザー調査をした結果、大きく3つの課題が見えてきた。1つ目は、「季節の限定商品やフードも楽しみたい」ということ。はじめは定番商品だけのラインナップだった。在庫管理と品質部分について、検討が必要になった。

2つ目は「もっと好みのカスタマイズをしたい」という点。当初からカスタマイズ機能はあったが、店舗のパートナーとお客様とのなかで、ドリンクの温度やホイップの量など、商品マスタの構成上持っていないカスタマイズが存在していた。また、ラベルについても印字できる範囲が限られており、対応が必要だった。

3つ目は「店内飲食でも利用したい」という声。当初は、持ち帰り需要を中心に店舗展開したが、郊外のショッピングモールでは席を確保してから注文したい、また、買い物中に手がふさがっている、お子様連れでレジに並ぶのが難しいなどのケースもあり、サービス拡充を決めた。

スターバックス:ローンチ後の課題と改善

これらの声に対して、アジャイルで対応していくこととなった。1つ目の「季節の限定商品やフードも楽しみたい」への解決策は、オーダー管理のアプリケーションを改修し、店舗オペレーションを再構築した。在庫を「店舗販売するもの」と「モバイルオーダーで販売するもの」の2つに分けて管理し、モバイルオーダーの在庫は対象店舗が販売数を決めてオーダーを受けるよう変更した。

2つ目の「もっと好みのカスタマイズをしたい」については、オーダーを細かく分類し、モバイルオーダー用のマスタを作って、登録できるようにした。ラベル印字については、文字数が超えると矢印が表示され、店舗のパートナーにわかるよう設計。「店内飲食でも利用したい」という3つ目の声はシステム改修を行い、11月から「店内飲食」の利用が可能になった。

「モバイルオーダー&ペイ」の利用者は、「今まで混雑していたから20分休憩で行けなかったけど、このサービスでオーダーしてから4分後には商品が届いた」「当初よりもカスタマイズできる項目が増えている」「並んでいる人をショートカットできるのは嬉しい」「限定商品もモバイルオーダーできるようになった」など、多くの感動体験がTwitter上に寄せられている。

店舗のパートナーにサービスの本質を理解してもらうことが重要

サービスを導入するときは、各エリアのパートナー向けに説明会を実施している。サービスの背景について、約4万人いる全国のパートナーの理解を深めることが、広告をしないスターバックスにとって最も重要であり、サービスの認知、普及に寄与する。

「デジタル施策の導入により、お客様とのつながりが薄くなるのではないか、といった声をパートナーから聞くこともある。スターバックスでは店舗体験、お客様とのつながりを中心としていて、モバイルオーダー&ペイをはじめとしたデジタル施策は、利便性や効率性の向上とともに、そのつながりをより強いものにしている、体験価値を高めている。パートナーに情熱を持ってデジタル施策を活用してもらうために、サービス導入の背景やストーリーを伝えることが重要だ」と語った。

パートナー、プロダクト、店舗・空間、デジタルの4つの要素が融合されることで、スターバックス全体の体験価値が向上する。それがミッションの実現につながると清水氏は語り、セッションは終幕した。