国産スマートストア「Developers.IO CAFE」は、どうやってゼロから立ち上げられたのか、そこから得られた教訓とは?

 Post by MML編集部
2019年2月、レジレス、完全キャッシュレスの国産スマートストア「Developers.IO CAFE」が秋葉原にオープンした。今回は、どのような方法でスマートストアを構築し、オープンした結果どのような教訓を得たのか、具体例をもとに語られた。 クラスメソッド株式会社 代表取締役 横田 聡氏
クラスメソッド株式会社 代表取締役 横田 聡氏
本記事は、クラスメソッドが主催する「Developers.IO 2019 東京」より、クラスメソッドの横田氏の講演「Developers.IO CAFEのこれまでとこれから ~顧客体験へのフォーカスから考える技術選択~」の模様をお届けする。 クラスメソッドは、AWSクラウドをはじめ、ビッグデータ、モバイル、IoT、音声認識の技術を活用した企業向け支援を行っている。クラスメソッドには「やってみる」というカルチャーがあり、Developers.IO CAFE はそのカルチャーを体現している。 最近の流れとして日本の事業会社は、IT化、デジタル化に向けてがんばっているが、実際、海外の事業会社は自社がデジタル化するのではなく、IT企業が事業会社をゼロから立ち上げ、丸ごとやっているような状態であるという。日本では規制が多く事業はなかなか始まらないが、将来これは不可避な流れとなるだろうと横田氏は語った。 クラスメソッド:最近の流れ。事業会社→IT企業

まずはAmazon のカルチャーをハックする

Developers.IO CAFEとは、モバイル、クラウド、センサー、AIなどを活用し、完全キャッシュレスで買い物体験ができる実験店舗である。それはシアトルでAmazon GOを体験したことからはじまる。社内でAmazon GOを作ってみようとしたところ、Amazonはその技術を公開していなかった。 Amazon GOはAmazonが作ったわけで、Amazonのカルチャーをハックしたら良いものが作れるのではないかと思い、Amazonの会社で公開されている内容を参加者に公開し、内容を解説した。「私が感じたカルチャーは、実際にやってみて、大胆にチャレンジし、失敗しても高速にリカバリーして、改善を繰り返す。会社の研究室で終わるのではなく、実際の店舗で使ってもらいながらお客様の声を反映するというもの」であると述べた。 クラスメソッド:Amazonの文化をハックせよ。1.机上で終わらせない/評論だけしない2.成功を保証しない/大胆に挑戦する3.多数の実験と失敗から多くを学ぶ4.失敗のコストを最小化する5.利用者に使ってもらいフィードバックを反映6.学習済みモデルと優れたソフトが残る7.上記を高速に繰り返す

少ない人数で短期間に開発

まずは、社内の有志8名でプロジェクトを立ち上げた。小さくまとめて高速に回したかったため、兼任メンバーでプロジェクトを実行した。「新しいことをやるときに年間計画とか、事業計画とかは飛ばして、とにかく動くものを短期間で作ろうと。独自の技術開発を行うかどうかはどちらでもよくて、大事なのは体験なので、いかに上手に有りものを使うかということを考えた」という。 しかし、Amazon GOに行ったエンジニアは誰もいなかった。そのため作業のお願いの方法として、ワードやパワーポイントでもなく、要件定義風の動画と、全体の動きを1枚で表現した図を提供したという。 クラスメソッド:要件定義風のポンチ絵 その一連の体験をパーツごとに分割し、各担当者が単独で動くサンプルを作成、検証してほしいという依頼を行った。「なぜかというと、みんな働いている場所や勤務時間がバラバラだったから。結合テストもほとんどできなかったので、検証した結果を各自動画に撮って共有を行った。結局のところミーティングはリリースの前日まで1回もしていない」という。

秋葉原でパーツを大量購入

実際、お客様が店舗でリアルタイムに心地よい体験をしてもらうためには、IoTで構築することが最適だと思ったという。つまり、さまざまなセンサーを組み合わせて、お客様のアクションを最小化して、気持ちよく買い物をし、気持ちよく決済をし、気持ちよく帰ることができると感じたからだ。 そこで秋葉原へ行ってセンサーが付いたパーツを大量に購入して組み立てた。商品かごの下に重量センサーが入っており、商品を取ると重量の変化でピックアップされたと機械が認識する。その変化した値をクラウドに渡す。これがピックアップの基本的な原理だろうと語る。 クラスメソッド:重量変化の検知とクラウド連携 さらに決済機能、画像分類、顔認証機能、骨格検知などを構築し、何度も手直しをしながら、このプロジェクトは3週間で完成した。今回の取り組みで得られた課題と可能性をもとにシーズン2を開始。

今度は実店舗で試したい

今度は実店舗で試したいという目標から、シーズン3が開始する。「Amazonのカルチャーをハックすることを考えると、社内の関係者だけがソリューションに触っていても意味がなく、やはりカスタマーフィードバックは大事だと判断した」のだという。 クラスメソッド:全員が店舗に集まって様々な意見を反映させる そこで秋葉原の空き店舗を探して契約する。今度はお客様体験だけではなく、オペレーションについても考えなければいけなくなった。オペレーションの基本要件は社内のエンジニアが担当した。そしてDevelopers.IO CAFEは2019年2月にオープンを迎える。 「今回やって良かったのは、お客様と接客して、アプリがインストールできないとか、決済がうまく動かないとか、このサービスどうやって使うんですかとか、そういった体験のフィードバックが直接得られる場があるということは重要だと思った。今まで15年間、いかにお客様を見ずにシステムを作っていたのかというのが反省点」だと語った。 さらにシーズン4に突入する。今度は1点もののシステムから、システムやハードの横展開を行い、プラットフォーム化を進める。プリント基板の設計と量産。混雑時の処理など、よりイレギュラーな動きに対応したリアルタイム検知を進めた。シーズン4までこまめなシステム改善を行っているが、開始から1年しか経っていないのが驚きである。 クラスメソッド:プロジェクト「横田deGO」の1年間

お客様からの貴重なフィードバックが得られる

シーズン5に突入し、ネイティブアプリからブラウザにも対応した。管理ソフトの設計やサービス管理の省力化も行った。そのほか事業会社とのコラボレーションを行ない、展示会への出展、メニュー開発なども行う。 お客様からのフィードバックも多く寄せられたという。「最初リリースした時はネイティブアプリを開発したが、私より年上の世代は新しいアプリをインストールすることが分からず、接客がうまくできないということでWebアプリを開発した。女子大で店舗をオープンした時は、何でアプリじゃないんだとすごく言われた。今の学生はURLをブックマークするかのようにアプリをインストールするし、むしろURLをブックマークする文化は無い」という。 さらに「今の店舗はゲートが無いけれど、ゲートが無いと入りづらいからゲートは作って欲しいと言われた。ゲートが無いから入りやすいかなと思ったら、それは違っていて境界線があったほうが人は入りやすいそうだ。これも大事なフィードバック。それが体験できるのは報告書ではなく現場」であると熱く語った。 クラスメソッド:お客さまフィードバック これらの課題を受けて、シーズン6に突入する。体験を改善して、さらにオペレーションも改善していく。いろいろな気づきが出てきて、それを高速に反映させる。設計書や企画書ありきではなく、まずはやってみることが必要である。 「この取り組みは “未来作りエンジン” になると思っている。今は儲からないけど、あと数年、環境が変わってきたら行けるんじゃないかと感じながら前向きに取り組んでいる。ぜひ興味を持っていただけると嬉しい」と語り、セミナーは終幕した。