スマホ決済が溢れている中でも1人勝ちできる「ファミペイ」のデジタルトランスフォーメーション戦略

 Post by MML編集部
ここ数年、デジタルトランスフォーメーションの話をよく耳にする。企業はどのように、デジタルトランスフォーメーションを取り組んだらよいのだろうか。ファミリーマートが開始したデジタル戦略を例に、デジタルトランスフォーメーションの取り組み方、「ファミペイ」強さの理由についてを語った。 株式会社ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野 大輔氏
株式会社ファミリーマート シニアオフィサー 経営企画本部 デジタル戦略部長 植野 大輔氏
本記事は、ナノ・オプトメディアが主催する「ネット&スマートフォンコマース2019」より、ファミリーマート 植野氏の講演「ファミリーマートのデジタル戦略 ~「ファミペイ」を軸にしたDXの道のりと今求められるリーダーシップとは?」の模様をお届けする。

デジタルトランスフォーメーションでよく起こること

ここ数年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」もしくは「デジタル変革」という言葉が至るところで耳にするようになり、社会的な関心事となっている。よくあるパターンとしては、デジタルに消極的だった企業の社長が突然、「うちもデジタルを推進しよう」と言い出し、デジタル担当者が就任。組織も新設して、支援企業からデジタル提案をたくさん受けるようになる。 その結果、起こることと言えば、例えば、ペーパーレス化が進んでいくが、同時にPDFファイルが増えていく。また、とりあえずAIでデータ分析しようと取り組んでみるが、以前から分かりきっていたことがAI分析でも分かったり、分析結果をどうして活かして良いか分からないことが、AI分析で出てきて終わる。他にも、シリコンバレーのツアーに出かけたり、無意味にインスタグラムを開設したりと、果たしてこれがデジタルトランスフォーメーションなのかと植野氏は疑問を呈した。 「デジタル変革が必要というのは、皆分かっている。既にいろいろなところで問題が起こっていて、デジタルを使った新しいプレーヤーが出てきて、産業破壊がどんどん起こる。このままでは自分達の会社は余命3年、でも助かるかもしれない方法はある、それがデジタルトランスフォーメーション。だがこれは命をかけた大手術で、心臓手術のように、下手をすれば生きて戻ってこれない手術。デジタルトランスフォーメーションをやるには、これぐらいの大きな覚悟がいる」と述べた。

デジタルトランスフォーメーションとは何か?

では、デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)とは何だろうか?それを考えるためには「デジタル」と「変革」を分類して考えたほうが分かりやすいと植野氏は言う。「デジタル」とは広大で理解しにくい分野であるが、別の視点で見ると代表例にガートナーが毎年発表する「ハイプ・サイクル」がある。これは技術の認知度、期待度が時間経過としてどう変化していくかをグラフで表現したもので、技術は過剰期待でピークを迎えてから、一度、期待度が下降する失望期を経て、再び緩やかに回復して安定的な普及につながるという考え方である。 デジタルに取り組む企業には、期待の全盛期で安易に飛びつき諦めた企業と、テクノロジーのタイミングを冷静につかんで使いこなしている企業の2つがある。「外部の状況を見ながら自社のビジネスモデルは何なのか定義を考え、自社に重要なテクノロジーはハイプ・サイクル上で、どのフェーズにいるのか自分達自身のハイプ・サイクルを持っておく必要がある」と植野氏は述べた。 続いて「変革」とは何なのか。多くの企業のデジタルトランスフォーメーションを支援してきたBCGは、飛躍的かつ持続的な向上を実現するフレームワークが存在する。要素は大きく3つ。 まずは、今のビジネスのなかでコストを削減して変革への原資を作ること。そして、それを次の新しいビジネスモデルに投資すること。一方で新しいビジネスモデルに必要な企業組織というのは、すぐに新設できるものではない。組織づくりは最初から未来を想定して着手する。 「この3要素にデジタルを、どのように掛け算していくかという発想が大事。コスト削減は細かく実行すれば、いずれ実現できる。難しいのは次のビジネスモデルに投資して革新すること。ここが、会社が生きるか死ぬかを決めるところ」だと語った。さらに「デジタル時代前のビジネスモデルはそこまで複雑ではなかった。ただデジタルの時代、戦略の考え方がどんどん複雑化してきている」という。 変革:BCGトランスフォーメーション・フレームワーク。出典:BCG Transformation framework まとめると、デジタルトランスフォーメーションとは、自社のビジネスモデルは何なのかを定義して、自社に必要な技術はどれで、その技術ははどのフェーズにあるのか、それをトランスフォーメーションの3要素にどう掛け合わせて活用するか、そういう発想で捉えることが重要である。 そのため、変革のどの技術を使って(Where)、いつまでに実施するか(When)というロードマップを持っていることが重要であると植野氏は解説する。改めて、心臓外科手術を受けるような必死の覚悟で、日本企業もデジタルトランスフォーメーションに挑んで行こうと想いを語った。

デジタル戦略で始めたこと

では、ファミリーマートのデジタル戦略を始めた方は、どのようなものだったのか。ファミリーマートもデジタルを推進して行くと決まったのは、経営の方針からだったそうだ。しかしファミリーマートがユニークなところは、澤田社長自ら新聞の全面広告に登場し、「デジタルでも攻めるファミリーマート」と宣言したことである。 そうなると、新聞を見た記者やアナリストから具体的に何をやるのかという注目も集まり、デジタル戦略を何が何でも推進して行くしかない環境が作られたという。その後、株主向けの決算発表でも「デジタル推進」は4つの重点施策のうちの1つであると発表、数値目標と具体例を示された。 その後、植野氏がデジタル担当に就任して、デジタル組織を新設した。「私が真っ先にやったのは、検討推進のために横断組織を構築したこと。みんなの目が届かない場所にデジタル専門部署をひっそり立ち上げ、デジタル推進をしてもそれはデジタル変革ではない。本物のデジタル変革していくためには、自社のビジネスモデルに関わっている全ての人を巻き込まなければいけないと考えた」。 真っ先に全社横断組織体制を構築 「そして小売業というのは、本部でどんなにきれいなプレゼン資料を作っても、現場の店舗スタッフがきちんと動いてくれないと会社が変わらない。店舗スタッフのみんながデジタル変革を信じて、受け入れてくれなければいけない。そのため加盟店スタッフへのデジタル方針説明のために全国を廻って、通算で約60回の方針説明を行った」という。 デジタル組織が立ち上がってから、さまざまな企業からデジタル戦略支援のご提案をいただいたという。どれも豪華な提案に見えたが、本当にそれらでファミリーマートのデジタル変革が進んでいくのか、腹落ちしなかった。やはり、何より自分たちでやり切る、ただし足りないデジタルの知見はエキスパートから力を借りると決めた。システム、UI/UX、マーケティング、PRなど各分野のデジタルのエキスパートを人づてに探し出した。そして一本釣りでアドバイザーとしてファミリーマートのデジタル部隊に加わってもらい、混合のデジタルドリームチームを結成した。ここからファミリーマートのデジタル変革が始動したのである。

ファミリーマートのデジタル戦略

では具体的に、ファミリーマート デジタル戦略とは何なのか。ファミリーマートのデジタル戦略には3つの柱がある。それは「オープン主義のデジタル化」「自社デジタル顧客基盤の確立」「未来の事業創出」である。 「オープン主義のデジタル化」とは、自社のソリューション、サービスだけにこだわらず、ファミリーマートはお客様にとって魅力があるサービスはオープンに積極的に取り入れる。具体的には、コンビニでは真っ先に昨年12月にバーコード決済を導入したり、今年の11月からはTポイントに加えて、ドコモ社のdポイント、楽天社の楽天スーパーポイントを導入するなど、オープン主義を加速させている。 「自社デジタル顧客基盤の確立」は、オープン主義と並行しながら、自分達自身でもデジタルの魅力的なサービスを作っていくことだ。パートナー企業の決済、ポイントサービスも魅力的だが、ファミリーマートのお買い物にとってカスタマイズされた最も便利で魅力的なサービスは、ファミリーマート自身で作り上げていく必要がある。商品にナショナルブランドとプライベートブランドがあるように、デジタルでも両方を活用していく考えだ。 「未来の事業創出」は、ビッグデータを活用してコンビニエンス事業の外に、新たに金融サービス分野や広告マーケティング分野の事業を創出していく。ファミリーマートでは1日1,500万人、1年間で約55億人が来店されている。店頭でお買い物をされた際の購買データなどを活用して、自社金融サービスの提供や広告マーケティングの応用にも活用できる。 ファミリーマート デジタル戦略

スマホ決済サービスが溢れているなか あえて「ファミペイ」を出す理由

PayPay、LINE Pay、メルペイ、d払いなど、多くのスマホ決済サービスが登場しているが、ファミリーマートはなぜあえて「ファミペイ」を構築したのだろうか。植野氏は「コンビニのPayこそが、キャッシュレス促進にベストだからだ」と語る。 決済業界のプレーヤーは、大きく分けるとオンラインとリアル、小売と小売以外の4パターンに大別できる。この4つのマスで、オンライン x 小売はEC系が入る。オンライン x 小売以外は通信/メディア系などの企業が入る。そして、リアル x 小売以外は例えば交通系が入る。 「世の中のキャッシュレスはどこで発生しているのか?EC系、通信/メディア系などオンラインのプレーヤーは、支払いは最初からキャッシュレス。交通系は有力だが、あくまでメインは交通機関の利用であり、買い物利用向けではない。そう、現金でお買い物をすると言うキャッシュレスの本丸はリアル x 小売に他ならない」。 「ファミリーマートには、お客様が週に何度も来店され、そしてまだまだお札や硬貨を使って買い物をされている。ここをデジタルに置き換えていく。オンライン系の決済サービスはリアルの壁を超えるために、大規模還元キャンペーンを実施して利用者を集めなくてはならない。しかし、ファミリーマートは目の前にたくさんの現金でお買い物をされるお客様がいるわけで、そのお客様に現金を上回るお得と何よりも利便性を提供していけば十分拡大できる。Payはコンビニこそがやらずして、誰がやるのかと思う」と語った。 バーコード決済「FamiPay」の戦略性

ファミリーマート最大の敵はお客様の「財布」

自社アプリサービスの構想は、2018年頃からプロジェクトを立ち上げ、水面下で取り組んできた。その時、構想の根本にあったのは、キャッシュレスではない。キャッシュレスではなく、「お財布レス」に踏み込むデジタル化であるべきと思ったという。 「コンビニというのは決済時、ポイントカードを出したり、クーポン出したりといろいろやっている。そうするとスマートフォンでキャッシュレスができたとしても、それ以外のポイントカードやクーポンを出すのはお財布からで、お買い物にスマホとお財布の両方が必要なままだと、不便にすらなりうる」。 「だから、お財布のいらないファミマになろうと考えた。世の中はPay戦国時代と煽ってくるが、他社Payはライバルではなく、キャッシュレスを広げる仲間。ファミリーマート最大の敵は、他社Payではなく、お財布である。ブランド名はファミペイと言っているが単なる決済アプリではなく、お買い物のための決済機能付きスーパーアプリ」というコンセプトであるという。 お財布レス>>>>キャッシュレス→ファミリーマートは、お財布のいらないコンビニになる

ファミペイはバーコード1つで全てを解決

ファミペイはバーコード決済以外に、クーポン、レシート、スタンプという、日ごろ、お客様がお買い物の時に利用する財布の中に入っている手段を全て搭載しようとしている。さらに2019年11月より開始する、dポイント、楽天スーパーポイント、Tポイントのお財布の中のポイントカードの機能もアプリに搭載する。 ファミペイの他社アプリにない大きな特徴が、決済、クーポン、ポイントなどが、わざわざ別アプリを立ち上げたり、アプリ内で複数のバーコードを読み取ったりせず、1つのバーコードで全て決済できるようにしている。2020年1月よりお客様からの要望が強い「回数券」も開始する予定で、こちらも決済、ポイントなどと一緒にバーコード1つで済むという。 決済機能付きスーパーアプリ「ファミペイ」。クーポン、バーコード決済、レシート・スタンプ・回数券、ポイント。全部バーコード一発 ファミペイが公開されて2か月で370万ダウンロードを達成。アプリストアのランキングでは、多くの日で有力アプリを退けて1位を獲得した。キャッシュレス比率も前年度比120%まで伸びており、立ち上げとしては計画通りの結果が表れている。 そして最後に「コンビニエンスというのは、極論すれば物売りの箱スペースなわけで、お取引先企業様に提供頂く商品・サービスが並ばないと何も始まらない。言い換えると、我々だけでデジタル化を進めて魅力的なお店を作ることはできない。ファミリーマートは常にオープン主義、ぜひ一緒にデジタルトランスフォーメーションを進めていきたい」と語った。