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「スポーツビジネスを盛り上げる」アンダーアーマー、いわきFCが実践するデジタルトランスフォーメーション戦略
スポーツ番組を見ると、アンダーアーマーのロゴが付いた選手を見かけることが多くなった。アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームも売上は爆発的に増加しているが、その成長も踊り場に来ていると感じているという。
アンダーアーマーの抱える4つの課題を紐解きつつ、組織で行っているデジタルマーケティング戦略について解説した。さらに、ドームが運営する「いわきFC」のファンエンゲージメントについての取り組みについてパネルディスカッションを行った。
株式会社ドーム Digital – コンシューマーインサイト部 部長 佐藤 仁彦氏
本記事は、アドビシステムズが主催する「Adobe Symposium 2019」より、ドームの佐藤氏の講演「スポーツビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーション ~アンダーアーマー、いわきFCの取り組み~」の模様をお届けする。
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「アンダーアーマー」「いわきFC」などの事業を展開
株式会社ドームは、「スポーツを通じて社会を豊かにする」をミッションとして事業展開を行っている。現在はスポーツプロダクト事業「アンダーアーマー」のほか、スポーツメディカル事業「ドームスポーツメディカル」、ニュートリション事業「DNS」、アスリートのパフォーマンスディレクション事業「ドームアスリートハウス」を展開している。 サッカークラブ「いわきFC」も展開しており、ドームが提供している商材を活用して、世界基準のクラブを作ることを目標に活動を行っているという。ITを導入できなかった課題
アンダーアーマーも2005年当初は知名度が低かったものの、現在では爆発的に成長しており、当時の売上は前年度比 数10%増で拡大していた。しかし現在ではその成長も踊り場にあると感じているという。 ITコストに対しては、さまざまなシステムを導入した結果、運用コストの増大が課題となっている。顧客についても、スマートフォンの普及によって、お客様の購買行動は様変わりしており、ビジネスのやり方も変えていかなければならない。 業務においては、作業をエクセルで処理したり、または業務が属人化したりなど、ITで解決したいがなかなか進まない課題がある。人材においてもデジタル思考の人員が少なく、新たな価値創造が困難になっている。 それらを解決するために、ドームでは「『社会価値の創造』実現のための利益最大化基盤」といったITビジョンを策定。財務、顧客、人材、業務の4つのテーマについて、解決方法を策定している。今回は「パーソナライズ」と「デジタル人材」について解説する。アンダーアーマーのパーソナライズ戦略
マーケティングを行っていく上で「パーソナライズ」は重要なポジションを占めている。「今までアナログの時代は、マスメディアを使っても個別のパーソナライズができなかったので、大まかなジャンルから情報を配信していた。今はデジタルの時代、個人の興味関心、購買行動を把握しているサービスも増加している。我々もそこに向かって取り組みを進めている」と佐藤氏は述べた。 ドームではどのようにパーソナライズを実現しているのだろうか。具体的には、さまざまなITソリューションを組み合わせ、マーケティングプラットフォームを構築している。策定したカスタマージャーニーに基づいて、適切な情報を、適切なタイミングで提供できるよういろいろな仕組みを組み合わせて行っている。 そのほか、マーケティング以外に、サプライチェーン、生産開発と組み合わせてデータ分析を行い、最適なタイミングで、最適な商品が届けられる仕組みを構築している。2019年3月のAdobe Summit でも紹介されたODIに沿った形で、ドームはAdobe、SAP、Microsoftの製品を使用してきた。SAPはサプライチェーンの分野、Microsoftは情報共有・情報分析を行っている。これらの企業と連携して最高のソリューションを提供していきたいと佐藤氏は述べた。リーダーシップのある人材を適切なポジションに
2018年8月、Adobeとドームは、スポーツおよび教育分野におけるデジタライゼーションを推進する協業を開始した。具体的には、アンダーアーマーのデジタルマーケティングと、いわきFCのファンマーケティングの強化を重点的に取り組んでいくことだ。 「デジタルトランスフォーメーションというのは、上層部の方たちがやってくれと言っても、現場がリーダーシップを取らなければ進まない。だからリーダーシップのある人材を、最適なポジションに配置することが必要だ。パーソナライズは重要だと感じているが、世界と比較すると、日本はすごく遅れている。リーダーシップが取れる人材に世界の状況を見てもらうというのが大事だ」と述べた。eコマースサイトのコンバージョンが回復
2018年、アンダーアーマー eコマースサイトのリニューアルを実施した。しかし、リニューアルしたタイミングでコンバージョンレートが減少したという。Adobeアナリティクスで分析を行い、問題点を抽出、その対策を実施することによって、コンバージョンレートが回復し始めている。一過性の対策では終わらないよう、Microsoft の Power BIを使って常に状況を可視化している。 これからいろいろなことをやっていきたい。やはり分析は必要なので、そこから一人ひとりのお客様に対して、最適なコンテンツ最適なタイミングで提供したいと語った。いわきFCのファンエンゲージメント
続いて、いわきFCの岩清水氏を招いた、トークセッションを開催した。テーマは「いわきFCのファンエンゲージメント強化」について。アドビシステムズの大塚氏がモデレータを務めた。(写真左より)アドビシステムズ株式会社 コンサルタント 大塚 庸平氏 / 株式会社いわきスポーツクラブ COO 兼 マーケティング本部長 岩清水 銀士朗氏 / 株式会社ドーム 佐藤 仁彦氏
―― いわきFCでマーケティングを行っていく上で、どういった課題がありましたか?
岩清水:スポーツビジネスを考える際、まずはファンが必要だと感じています。スポーツは形のないものにお金を払っていただくビジネスなので、まずはいわきFCに興味を持って公式サイトを見てもらうと。いろいろなファンの定義はあると思うのですが、やはり注目を浴びて共感してもらうことがスポーツビジネスに大事なことだと思っています。
今まで集客している時、目の前にいる人は分かっているのですが、はたしてどんな属性の人が来ているのか分かりませんでした。最近はアナリティクスを使いながら、新規はどれくらい来ているのか分析しています。
―― 現在はどんなマーケティングをやっており、どんな効果がありましたか?
岩清水:マーケティングを行うにあたって、まずはこういう人に来てほしいと議論しながら顧客層を作りました。そしてアナリティクスを導入して分析したら、思った以上に来ていることを実感しました。あと、新規顧客が来ている印象がありまして、ファンが作れるという認識がありました。
ファミリー層をペルソナに設定しているのですが、それに対してリアルコンテンツもファミリー向けのイベントを実施したり、それに対する出し分けをしてみたり、そうすることでファンが増えつつあります。
―― 施策を実施している時の課題は?
岩清水:きちんとコンテンツを届けていくということを1つのゴールにしています。いわきFCのLINE公式アカウントを持っていますが、登録してもらって情報を届けていきたいと考えています。
佐藤:失敗例になりますが、Twitter広告でファンを獲得しようという話になり、やってみましたが予想より少ない結果でした。冷静に考えれば広告からファンクラブに入る人はいないですよね。お客様はいろいろな想いがあって、いわきFCの試合に来て、試合を楽しんで、さらに想いが高まって入会するというのが自然な流れです。きちんとカスタマージャーニーを考えて、施策に落とすのが自然だと思いました。
―― 今後やっていきたいことはありますか?
岩清水:我々は、「いわき市を東北一の都市にする」というミッションを掲げています。東日本大震災が発生して、いわき市も人口が減少しました。その後、いわきFCを立ち上げました。スポーツが持つ本質的な価値を見つめながら、スポーツが街を元気にするという思いで日々活動しています。
今まで実施したファンエンゲージメントをさらに磨いて、スポーツビジネスとデジタルが融合した顧客体験を良くしていきたいと思っています。これからも続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。