「アース ミュージック&エコロジー」や「メチャカリ」など、ストライプが実践するオムニチャネル戦略

 Post by MML編集部
ストライプインターナショナルは、earth music&ecology(アース ミュージック&エコロジー)を始めとして、国内外に30ブランド以上を展開している企業。最近では、MECHAKARI(メチャカリ)というサブスクリプションサービスも展開している。リアル店舗やEC店舗の売上を増加させるにあたって、具体的にどのような施策を行ってエンゲージメントを高めているのか。
株式会社ストライプインターナショナル 執行役員 グローバルファッション本部 本部長 兼 ストライプデパートメント 専務取締役 兼 COO 佐藤 満氏
本記事は、インプレスが主催する「ネットショップ担当者フォーラム2019春 eコマースコミュニケーションDay」より、ストライプインターナショナルの佐藤氏による「EC化率は追わない――ストライプのデジタルシフト戦略~実店舗、ECサイトでLTVの最大化をめざすオムニチャネル戦略を解説~」の講演を行った。

EC化率の増加で見えてきた課題

ストライプインターナショナルでは、「ライフスタイル&テクノロジー」を事業領域とし、従来のファッション領域においても事業成長のために、テクノロジーを活用している。直近ではEC事業の成長に加え、リアル店舗のデジタル化によりエンゲージメントを高める取り組みを行っている。 店舗展開を主軸にした企業がEC事業をはじめる際、「EC化率」(全体売上のうちEC売上の割合)を上げることをKPIにしていることが多い。それは「成長率」の観点でリアル店舗とECを比較した場合、リアル店舗よりもECの方が成長率は高く、ECの売り上げを伸ばしていくことがやがて会社全体の売上増へと繋がるからである。 しかし、EC化率のアップを目的に運営していると、今度は収益面や顧客満足度に課題が見えてきた。なぜなら、EC化率を上げるために、クーポンなど使ってECでの値引き率を高めたり、キャンペーンの数を増やしたりしたからだ。その結果、EC化率は上がったものの、EC全体の収益性が下がってしまったのだ。「EC化率をKPIとしておくべきか、もう一度検討する段階に入った」と佐藤氏は語る。

顧客起点 / 顧客体験を軸にクロスユースしていく

このEC化率はKPIではあるけれど、KGIにするものではない、というところから議論が始まった。顧客の購買動向を調査してみると、「店舗のみ利用している」または「ECのみ利用している」お客様に比べ、「店舗とECを併用している」お客様の購入金額は約4倍というデータがとれたからだ。 「そもそもこのEC化率とは、ECの売上のみを追いかけている数値で、店舗とのクロスユースを考慮していない数値だ。価格施策などでEC化率を上げるよりは、リアル店舗とECの両方を利用していただける利便性を上げていくためのクロスユースを推進していくことが、お客様と弊社のWin-Winの関係になる。 今年からは「顧客起点 / 顧客体験」を軸に、オンラインとオフラインを分けるのではなく、クロスユースでどうやって利用してもらうか、各チャネルの役割を定義し直した。 オンライン店舗は(1)時間や距離の制約を解消する、(2)店舗で伝えきれない情報を提供する、(3)顧客データを収集する、といった役割を担う。リアル店舗では、店舗のインテリアを通じて世界観を感じたり、接客を受けたり、商品を実際に手にとって直接触れるという、顧客がブランドを体感する場を担う。これらを両方行っていくことがエンゲージメントを高めることに繋がる。その結果、ライフタイムバリュー(LTV)が上がっていく。 この施策を行うにあたり、ストライプでは今年「CRM室」を新設。「CRM室は、店舗とECを横断して、お客様とのリレーション構築を行う組織。店舗とECで売上を奪い合うのではなく、クロスユースしていくことで両方の売上を共に上げていくミッションを持つチームを作った」と佐藤氏は述べた。

ブランド体験の促進にAIを活用

「昨年からAIの活用を開始。昨年の実績をもとに、今年の生産数や在庫数の適正化を行った。通常、売上を伸ばすためには在庫も潤沢に用意する必要があるが、本年度は在庫数を前年比8割まで圧縮して販売できており、かつ売上も伸ばしている」と佐藤氏は語った。 「そのほか、過去の動きを全て調査しながら需要予測をし、在庫数に対して適正な価格はいくらなのかAIの予測を元に、スタッフ同士で議論しながら設定している。在庫数の適正化などにより、店舗での事務作業が減り、店舗スタッフが接客に時間をかけられるようになった。その結果、お客様の満足度が上がり、ブランドの価値向上につなげていくことができる」という。

送客施策はメルマガや外部サービスを積極的に活用

店舗送客支援について、既存顧客に対してはメルマガやSNSを利用する。各店舗から個別にメルマガを配信できる仕組みを導入しており、店舗ごとに地域や客層に合わせた集客を図ることができる。 『earth music&ecology』の店舗には、「LINE SHOPPING GO」やキャッシュレス決済を導入しており、それらのサービス自体がプロモーションを行うと、新規のお客様が弊社のリアル店舗でも増加するというのが数値で見えてきた。「新規サービスについてどうなのか」という声も聞くが、「まずはやってみて、駄目なら止めるというように、経験値を増やしていきたい。そのためにも、まずは試していくことが大事だ」と述べた。

開始4年目となるメチャカリ。AIが最適なコーディネートを提案

ストライプではアプリを使ったサブスクリプションサービス『メチャカリ」を展開している。これは、ストライプグループの新商品を毎月5,800円で、レンタル枠3枠まで借り放題のサービス。2018年10月、「パーソナライズスタイリングAIチャットボット」を導入。この機能は10,000種類以上の新商品から、AIが最適なコーディネートをアドバイスしてくれるというもの。 「『earth music&ecology』 を知っている方々がメチャカリのサービスを利用しているんだろうと思っていた。しかしデータを取ると、初めて 『earth music&ecology 』を利用する方が非常に多かった。ゆえに店舗とECが売上を奪い合うということが少なかった」 またアンケートを取ると、“所有する” よりも “利用する” というライフスタイルに共感するお客様が多かった。そういったお客様に認知していただけたので、顧客層が大きく広がった」という。

自社ECのほか、外部ECも活用

サブスクリプションサービスのほか、ストライプでは自社EC「STRIPE CLUB」を展開。商品を購入するごとにポイントが貯まる。もし実店舗で商品がなかった場合には店頭で「STRIPE CLUB」を紹介し、購入の機会ロスを防ぐことができる。今後は、よく利用される店舗をお気に入り登録していただき、店舗に送客できるようにしていきたい。 ストライプでは、自社ECだけではなく外部モールECも活用している。「最近は外部モールECから撤退し、自社ECを強化するという企業も多いが、『顧客起点』で考えると、お客様はどこで買うか、何を買うかといった自由な選択肢を持っている。お客様が利用したいと考えている外部モールECでサービスを提供することで、ブランドの認知や価値向上につながると期待している」と述べた。 「また外部モールECを活用するメリットとしては、まだ当社ブランドを利用していただいていないお客様にもストライプの商品をご覧いただき、購入していただけることだ。ストライプのブランドの認知度を上げ、商品を知ってもらうことをKPIとした場合、外部モールECは極めて有効な手段のひとつだ」と佐藤氏は解説した。

EC専業サービス「STRIPE DEPARTMENT」

2018年2月にはEC専業サービス「STRIPE DEPARTMENT」も立ち上げた。これは850ブランドを取り扱う上質な大人に向けたECサービスで、高品質・高感度なアイテムを取り扱っている。 ECでは商品説明をテキストと写真に頼っている。そのため、お客様が満足できる接客が提供できないという課題がある。試着ができないというのも大きなデメリットだ。そこでストライプデパートメントではその課題を解決するサービスを提供していく。 試着ができないという課題については、『試着サービス』を導入している。これは試着したい商品が自宅に届き、手持ちの洋服と自由にコーディネートして、ゆっくり試着できるというサービスだ。お客様が気に入って購入が決まってから、初めて決済が発生する。試着を申し込んだ時点で決済が発生すると、高額になってしまうことがある。さらに返品後に返金されるとしても心理的負担が大きいため、購入する商品のみを決済できるようした。ぜひ気軽に試していただきたい また、接客の課題については、スタイリングの経験を持ったスタッフの知見を生かして、オンラインでチャットをしながらコーディネート相談ができるサービスを提供している。初めにアンケートにご記入いただき、それからチャットでお客様の詳しい要望を吸い上げる。それを反映したコーディネートを提案する仕組みだ。

お客様にとって「いいこと、しようぜ」が合言葉

今年のストライプのコーポレートメッセージ『いいこと、しようぜ。』を合言葉に、顧客起点で考えながらクロスユースを行っている。例えば、社内ではLTVを上げるとか、顧客体験を強化するとか、クロスユースするとかいった時、どうしてもメルマガを送って店舗に来店してもらおうと考えてしまいがちだが、それはお客様にとって良いことなのか自問自答しながら施策を行っている。 「ECの企画では、スマホやPCの画面を通じてこんなことをやりたいという提案が多いが、我々はスクリーンという制約を超越してお客様に提供できるサービスは何だろうかということを常に考えている。リアルも含めて、お客様がこう動いているから、デジタルではこういうサービスを導入しよう、というふうに考える仕組みに変えようとしている。ぜひご期待ください」と語った。