パルコ公式アプリをリニューアルした背景「様々な部署と話をしていると、どこでも問題は共通していた」

 Post by MML編集部
2014年にパルコの公式アプリ「POCKET PARCO」がスタート。各テナントのおすすめ情報を配信したり、コインを集めると優待券がもらえたりと、便利でお得な公式アプリとして運用していたが、ダウンロード数と比較すると、MAUは横ばいが続いていた。今回リニューアルするにあたり、さまざまな部署と話をすると、どこでも共通した問題を抱えていた。 株式会社パルコ 都心型店舗グループ本部 CRM担当 業務部長 北山 隆造氏 / 都心型店舗グループ本部 CRM担当 櫻井 愛氏
(画像左より)株式会社パルコ 都心型店舗グループ本部 CRM担当 業務部長 北山 隆造氏 / 都心型店舗グループ本部 CRM担当 櫻井 愛氏
本記事は、インプレス Web担当者Forumが主催する「デジタルマーケターズサミット 2019 Winter」より、パルコの北山氏、櫻井氏から「パルコはなぜ、公式アプリ『POCKET PARCO』をリニューアルしたのか? ~顧客コミュニケーションのクオリティ向上による機会拡大戦略~」をテーマに講演が行われた。

2014年に公式アプリをスタート

「POCKET PARCO」は2014年11月の福岡PARCO新館オープンに合わせてサービスをスタートし、2015年3月には全国のPARCOで展開をはじめた。当初はショップブログをメインコンテンツとしており、約3,000ショップの中からフォローしたショップの新商品情報、おすすめ、セール情報などが届くものとなっている。 また、アプリにクレジットカードを登録して商品を購入するとコインが貯まる。一定の数までコインが貯まるとランクが上がり、お得に商品が購入できるシステムも導入している。公式通販サイト「PARCO ONLINE STORE」に掲載されている一部商品もアプリ上から購入可能だ。 さらにスマホに搭載されている「歩数計」と連動した「PARCO WALKING COIN」という特徴的な機能がある。PARCO店舗内でアプリを起動してチェックインを行い、1日1回、500歩あるくとコインが貯まり、優待券がもらえる仕組み。この機能は店内でチェックインしたユーザーのうち、5~6割ほどがコインを利用している。 パルコの調査によると、コインを使ったことのあるユーザーは、使ったことがないユーザーよりも商品の取引回数・購入金額・取引店舗数が約2~3倍高いということが分かった。つまりコインを使っている方はPARCOのヘビーユーザーが多く、ショッピングを楽しみながらアプリを使っていることが分かってきた。

ダウンロードしたアプリユーザーの半数以上がクレジットを登録

2019年1月現在、「POCKET PARCO」のダウンロード数は102万件、クレジットカードの登録者数は54万人。アプリをダウンロードしたユーザーのうち半数以上が、クレジットカードと連携している。 クレジットカードの内訳で言うと、9割以上が「PARCOカード」と呼ばれるハウスカードを登録されている。割合が多い理由について櫻井氏は「PARCOカードの申し込みの際、アプリも一緒に登録するとコインが貯まってお得ですよと店員が紹介を行っている。そのため登録者の割合も高くなっている」と述べた。 そのほか、パルコの調査によると7割のユーザーがプッシュ通知をONにしているという。 POCKET PARCOとは - パルコ公式アプリをリニューアルした背景「様々な部署と話をしていると、どこでも問題は共通していた」

アプリをブラッシュアップする必要が出てきた

2015年からアプリの全国展開を開始して、成功と同時にいくつか課題も見えてきた。当初、パルコの生きた情報をユーザーに提供するため、各テナントの担当者が独自にショップブログを書いていたのだが、運用していく中で当初の構成から乖離が見えてきた。 また、社内の運営体制にも課題があった。アプリの開発担当、運用担当、ショップ担当の3者間で齟齬が生まれた。そして通常業務とは別に、アプリの運用業務が追加され、さらに業務が忙しくなってしまう事態も発生した。 「社内としても、お客様に直接情報が届けられるオウンドメディアを活用して、いよいよブラッシュアップする必要が出てきた」と北山氏は語った。 リニューアル前の課題 - パルコ公式アプリをリニューアルした背景「様々な部署と話をしていると、どこでも問題は共通していた」

今回のリニューアルで、パルコが好きになる好循環を演出

このような課題をクリアすべく、2018年11月、POCKET PARCOアプリはリニューアルを行なった。今回リニューアルの目的は「生きた顧客データを沢山獲得したい」というのが最優先となっている。 お客様にとっては、パルコの店舗以外に楽しめるチャネルが追加される。テナントにとっては、各ブランドのことをお客様に深く知ってもらうチャンスが追加される。このアイテムが欲しいと思ったお客様は、そのまま「PARCO ONLINE STORE」へと誘導し、購入してもらうことができる。 パルコはCRMツールとして、より細分化されたターゲットへ情報を発信することができる。また、自社が顧客獲得と運用を行うことで、自社の顧客データを獲得することにもつながる。最終的にはステークホルダーに対して、生きた顧客データを獲得する意味を明確にアピールすることができる。 流れとしては、ユーザーがアプリを起動する頻度が増えると、いろいろなコンテンツが読みたくなる。ユーザーはやがてパルコが好きになる。最終的にはMAUが伸びていく「好循環」を生み出すことに成功する。今回それを実現するためのリニューアルを行った。 リニューアルの目的 - パルコ公式アプリをリニューアルした背景「様々な部署と話をしていると、どこでも問題は共通していた」

1年がかりのリニューアル計画

リニューアル計画については、2017年3月から課題出しを開始。さまざまな部署と話し合いを行いながら、2018年3月にリニューアルの方向性が決定、8月に要件定義をFIXした。 「さまざまな部署と話し合いをしていくと、どこも問題が似ていて、自分たちが担当している情報をどうにかお客様に提供したい。だけど、それが上手く提供できていないという問題がある。あとは、顧客管理をするシステムが無いのでどうしたらいいものか、という問題を抱えている」ことが分かったそうだ。 部署間のブレストが始まってからアプリが公開されるまで約1年かかったが、アプリのリニューアル以外にECサイトのリニューアル、記事作成などの業務も同時並行で行われた。

リアルに強い会社ならではの苦労

リニューアルのために社内の部署や外部の協力会社と調整していると、多くの面で課題に突き当たる。「デジタルにやや弱いところがあり、特に上司や店長に提案してもなかなか重要性が伝わりにくい。それでアプリを自分事としてもらうため、この部署だったらこういう事ができますよと1つひとつアイデアを作って具体的に説明すると、理解を示さなかった人にも伝わりやすかった」と櫻井氏は述べた。 続いて、「今回ベンダーの会社と直接やり取りしていたが、エンジニアとの会話が分からないという問題があった。私達がこういうことをやりたいと伝えても、専門用語で返されて、意思の疎通に時間がかかった。あとから社内のシステム担当に専門用語の意味を聞いて、こういうことだったんだと少しずつ意味と内容が理解できた」そうだ。 また、「今回の改修で気づいたのは、システム担当やベンダーはどちらかというと新しい機能を導入することに注力する傾向があったこと。しかし、私達がやりたいのはコンテンツ内容の充実に注力したいと考えているので、リニューアルする意味を理解してもらいながら一緒に進めた」という。 そのほか記事制作においても、全てを協力会社に依頼すると予算オーバーしてしまうことから、社内でも記事が作れるようCMSを導入したという。それでも記事を作るのは社内でも初めてだったそうで、リニューアルの際に作成した「ペルソナ」を中心に置きながら、記事制作にあたったという。 苦労した点(雑談)- パルコ公式アプリをリニューアルした背景「様々な部署と話をしていると、どこでも問題は共通していた」

リアルを最大限に活かしたプロモーション展開

アプリのリニューアルに合わせて、リアルの場でもプロモーション施策を展開した。ちょうどその時期、パルコ会員に向けたフェアーを開催予定であったことから、アプリを起動するとコインがもらえるキャンペーンが記載されたチラシを配布。 館内ポスターやカッティングシートを貼って、アプリを大々的にアピールを行った。その他、店舗スタッフにもインセンティブを付けて、例えばフィッティングを行いながらアプリのダウンロードを促す仕掛けにもチャレンジした。 「デジタルのことなのにアナログのことをやるのはどうなのかなと、少し躊躇していたところはあったが、これが意外と効果があって。実店舗で買い物をされている方がこのチラシを見て、店舗スタッフも『アプリリニューアルしたんですよ』と接客トークに盛り込んでもらうことで、アプリを開きたいという気持ちが、Web広告を見てダウンロードすることよりも強く働いた」のだという。

横ばいだったアプリのセッション数が150%に増加

アプリダウンロード数はリニューアル直後に急上昇。アクティブユーザー数も今まで横ばいだったところから増加に転じた。 記事をお気に入り登録できる「クリップ数」も平均2,000件、最大3,000件ほど登録されている。「記事のリード数」も最大5,000件ほど読まれているそうだ。 「パルコミュージアムの情報を入れているので、タレントさんの情報のほうが読まれているのかなと思っていたが、そういう情報よりもファッション関連の情報が読まれている。この靴どうですかとか、バレンタインですね、というような情報が好まれている」そうだ。 また、「リニューアルのタイミングに合わせてインスタグラムも同時に開始したが、こちらは逆にエンタメ情報のほうが強くて反応が高かった。アプリユーザーとインスタグラムユーザーは、そもそも違うんだなというのが分かってきた」という。 「今まで交流がなかった他部署からアプリの話を聞きたいとか、アプリで何か一緒にやりませんか、という話をいただくことが多くなり、すごく進歩したと感じている。まだ始めたばかりだけど、少しずつ実験をやってみて、成功例を増やせたらと思っている。社内やテナントを含めて、最終的にアプリが使えるツールだと思ってもらえたら成功だと思っている」と展望を語った。