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伝説の「中の人」浅生鴨さん、現役最強シャープさんが登壇。自然とフォロワーが集まってくる秘訣とは? SNS公式アカウントNight

 Post by MML編集部

今回、Twitterの企業公式アカウントでNHK_PR1号を担当された浅生鴨さん、現役最強のシャープさんをお招きし、たらればさんの司会進行で対談が行われた。大人気の二人が揃うイベントということもあって、他の企業公式アカウントを運用する担当者も多数参加された。ツイートやフォロワーなど、運用する際つまずきやすい悩みに対して、1つひとつ丁寧に回答された。

本記事は、コルクBooksが主催する「SNS公式アカウントNight」より、NHK_PR1号を担当された浅生鴨さん(@aso_kamo)、SHARP公式アカウント(@sharp_jp)を担当するシャープさんをお招きし、対談イベントが開催された。司会は たらればさん(@tarareba722)が務めた。

@NHK_PRは、Twitterの黎明期である2009年にアカウントを開設。NHKの広報活動を発信する一方、「ゆるい」ツイートが話題で、企業公式アカウントが次々と誕生させるブームを作った。2014年、NHK_PRを次の担当者に引き継ぎ、現在は「浅生鴨」として作家活動を行っている。

シャープ公式アカウントは2011年に開設。約7年間、お客様とのより良い関係を構築して、今や2019年1月現在、48万人以上がフォローされている大人気アカウントである。以前からNHK_PR1号を知っており、フォロワーさんのため積極的に活動されている姿は、多くの場面で影響を受けているという。

たらればさんは、現在14万人がフォローする有名アカウント。古典文学、政治、経済、災害、社会問題など、読んだ人は必ず紹介したくなるような「お役立ち系」ツイートを発信しており、多くの著名人からもフォローされている。

今回、浅生鴨さん、シャープさんをお招きし、二人の考えるSNSにおけるプロモーションの可能性、どうすればフォロワーが増え、関係性が築けるのか。二人が具体的に取り組んだ方法、気をつけたほうがいい点、ゼロから始めるとしたら何から始めたらいいのかについて伺った。

Twitterを始めた経緯、ツィートについて

――Twitterアカウント担当者に任命されて、初めに何をしましたか?

浅生鴨:まずはアカウント名を考えて「はじめまして」ツイートをしました。その後、このアカウントの性格設計を行いました。NHKに黙って勝手にやっていたので非公式アカウントだったのですが、その後会社に見つかりまして、公式アカウントになりました。そして、それらしいアイコンに変更しました。

性格設計ですが、私は自分自身のことについてツイートする気は全く無くて、あくまでもNHKというものを体現するキャラクターを存在させたかったのです。NHKを不快に思っているお客様も一部いらっしゃるので、その方たちに、私達が思っているNHKとは違うねと思わせるキャラクターを作りたいと思いました。性格設計する前に何度かつぶやいていたのですが、これは性格設計したほうがいいなと感じました。

シャープさん:2011年頃に開設しました。私が始めた頃、企業がソーシャルメディアをするのがブームでしたので、広告の延長線上で会社でもやるぞということになり、Twitterを始めました。私が初めにやったのは、ある程度大きな会社って、社内電話帳に内線番号が書かれているのですが、そこから自分の番号を消してもらい、コンタクトが取れにくいようにしました。

なぜかというと、Twitterを始めるにあたって、企業もお客様の方に距離を縮めなければいけないから、まずは私がシャープの社員という立場を半分やめて、半歩外に出ようと思ったのです。半歩出ればお客様との距離も縮まるし、半歩出ているから会社のことを外から見られる。企業とお客様との中間という立ち位置でお客様とおしゃべりができると思ったので、その決意表明という形で消してもらいました。

――ツイートの頻度と内容はどのようなものが中心ですか?

浅生鴨:1日30ツイートまでと決めていました。NHKは、ある意味ツイートしやすくて、それは時間ごとに番組があるからなんです。例えば、3時にこんな番組がありますというツイートをきっかけに、どうでもいいことを書きました。突然関係ないことを書くわけではなかったので、すごくやりやすかったですね。

しかし30ツイートを超えると、フォローの少ないアカウントはタイムラインを埋めてしまうことになるので、制限していました。その分、リプライでのやり取りは無制限にやっていました。

基本的には翌日の番組をざっと見て、番組を決めたらツイートを予約していました。番組制作も兼任していたのでずっとツイートしていたわけではなくて、帰宅する前に翌日のツイートを設定してから帰ると。ツイート0件というのはなくて、必ず何か1ツイートしていました。継続はすごく大事です。

シャープさん:毎日必ずツイートしていたのは私も一緒ですね。MAXの回数は決めていないのですが、連投しないというのは、最初から決めていました。連投しても嫌がられるわけですから。

――どのくらいの時間、ツイートしていましたか?

浅生鴨:仕事が終わって帰るまでの間なので、1時間ほどかけて翌日のツイートを仕込みました。あとは仕事の合間、自分の机に戻ってタイムラインを見ながらやり取りする感じなので、全体で1時間半から2時間くらいですね。

シャープさん:私は切り分けがなくて、会議に出席してもツイートしているので、ずっと並行していますね。そういうことなので、この時間だけやるということはないですね。

――連投したくなることってないですか?

浅生鴨:別人格だから無いですね、自分のツイートではないので。要するに、「NHK_PR」という別人格がここで何をつぶやくかということを考えてツイートしているので、ここで言うべきか、言わないかを自分で判断しているだけです。

シャープさん:私も一緒ですね。当時からプロモーションって、いかにスマホの画面、人のタイムラインを自社に関連したツイートで埋めるかというのが、一般に広告が成功するカギだと教えられてきたのですけど、嫌悪感が生まれるから私はそうではないと思っていました。ツイートの7割はリプライの会話です。

Twitterは1対1のおしゃべりですね。どんな会話をしているのかと言うと、リプライでやってくる「買いました」という報告にありがとうございましたと返したり、または「何を買ったらいいですか」という質問に答えていたり、「使い方が分からない」質問に対して分かるものは回答しています。そんなことを続けていますね。

――番組宣伝や商品紹介で心がけていたことは何ですか?

浅生鴨:個人的な好き嫌いは別として、キャラクターが好きなものはわざと入れるようにしていました。あと、皆さん知っている大河ドラマをツイートしても反響がないと思っていたので、皆さんが知らないような番組を掘り起こしてツイートしていました。

シャープさん:商品をお知らせするタイミングや言い方は、会社の都合を排除し、お客様に合わせてツイートしていました。例えば、エアコンの発売日というのもこちらの都合です。企業の時間軸でなく、世間の時間軸に合わそうと、発売日のお知らせよりも、真夏日を迎えた日、初雪が降った日など、世間の関心事としてエアコンに気持ちが向く瞬間にツイートしていました。

キャラクター設計、継承について

――キャラクターの話がありましたが、人格はどのようにできあがったのですか?

浅生鴨:私は初めの段階で、ある程度自分と切り分けたほうがNHKを背負わせることができるなと思ったので、昔勤めていたゲーム会社でゲームキャラクターを専門に作る方に相談して、キャラクターの性格設定について相談しました。それでもお客様によって性格は変わっていきます。

シャープさん:おそらくキャラクターや性格って、一般的に言われる「ゆるキャラ」とか、そのためのフレーズや語尾を作るのとは違う気がしています。私はそもそもキャラクターを決めてなかったのですが、基本的にSNS上でお客様と会話する時は社員という立場を半分やめている距離感で、ある程度体温を持った人格で会話するように努めていました。けれど、そのためにペルソナ設定はしてなかったですね。

浅生鴨:いかにお客様と友達になるかを考えていて、ふと頭に浮かんだのは、子供の時クラスで友達になりたいと思ったのはどんな人かイメージすると、優しくて、誠実で、ちょっと天然、という3条件があるなと思いました。私が性格設定をする段階では、そこを意識して作りました。

シャープさん:私の場合、幸い「シャープ」という会社を皆さん知っていて、何らかの企業イメージが心の中にあります。私も含めて皆さんそうだと思いますが、一般に人物像のギャップって、いい作用をしますよね。その人が持っているシャープのイメージを半分くらい裏切るような言動をしていたなと思います。

それと、中の人はこういう人だと分かってもらうためにはある程度、長い時間は必要なので、地道にやっていくしか無いですよね。しばらく続けなければ、良いも悪いもないですから。

浅生鴨:Twitterは農業です。耕して、種まいて、花が咲いて、実ができて、ようやく刈り取る。種まいたらすぐに刈り取れる「プロモーション」とは真逆の発想なのです。要するに1本の苗をどこまで大きくできるかという育てる作業なので、それでいいのです。

――仕事が忙しくてキャラを継承する場合、どうしたらいいですか?

浅生鴨:私は、次の担当者にキャラクターを継承するため「中の人などいない」という本を書きました。リソースや働き方改革でうまくいかないこともあると思いますが、その時は「今日は働き方改革のためリアルタイムツイートができません」とか「寝坊しました」とかツイートほうが、お客様も親近感を覚えてくれると思います。ダメな時は、ダメな部分を見せたほうがキャラ立ちします。

シャープさん:Twitterはお客様と同じ目線で会話できる入れ物だと思っていて、人は変わることが可能だと思っています。例えば「オールナイトニッポン」は、パーソナリティが入れ替わってもずっとファンが定着しているでしょ。あれはずっと番組とリスナーが親密な時間帯を作ってきたわけです。どんな時もそれぞれのパーソナリティは自分のやり方でファンへ語りかけてきたわけで、それと同じように、企業とお客様が近い場所としてあり続けたいです。

だから人格を引き継ぐ必要はなくて、もちろん次に任される人はプレッシャーだと思いますけど。入れ物があるのだから、親密なコミュニケーションをその人なりにしていくということが企業のソーシャルだと思います。

フォロワーさんについて

――フォロワーさんとのやり取りで気をつけていた点はありますか?

浅生鴨:私が考えていたのはパブリックで、つまりNHKが最初に目指しているのは全員が平等な状態なんですね。だからNHKがどうこうと言うより、その先にあるパブリックというものを、番組では難しいけど、SNSではできるのではないかなと途中から思った時期がありました。どこかでNHKという組織を超えた、パブリックに忠実であろうとしたところはあります。

シャープさん:私はもともとテレビコマーシャルを作っていました。あの時にやっていたことは、素敵なイメージやメッセージを上から提示して、見た人が憧れて商品を購入する、シャープっていいなと思ってもらう手法を取っていました。その後、Webの仕事にシフトする中で、今度はいわゆるバズるムービーを作ったりしました。これは端的に言うとふざけたことやバカなことをやって注目を集める手法なので、どちらかというと下から目線のプロモーションです。

その後Twitterを始めたのですが、企業のコミュニケーションとして、上から目線と下から目線をやったけど、もうひとつ目線が空いていたことに気づきました。企業とお客様が同じ目線、お客様と同じ立ち位置であることでした。今も同じ目線で言葉を選び会話しています。

――フォローバックはしていますか?

浅生鴨:現在のNHKでは、NHKグループ以外、一切フォローバックしないというルールになったのでしていないです。私が担当していた時期は、フォローバックしていました。するとフォロワーのツイートがタイムラインに出てくるんですよね。すると、そこにいきなりリプライしても突然知らない人からリプライされたということにはならないので、フォロワーの関係を構築していました。

シャープさん:関わりのある他の企業アカウントはフォローしていたのですが、それ以外は基本的にずっとフォローバックはしていなかったですね。でも2年ほど前から、フォロワーさんがフォローしている人の中で、友人知人以外で好きなアカウントを教えてくださいというのを定期的にやっています。

つまり、フォロワーさんが好きな存在や好きな情報源を私も知りたいので、おすすめしてもらったものをフォローするようにしています。そうすると好きなお客様の好きなものがタイムラインに流れてきて、私も楽しくなってきますね。フォローバックをはじめ、ルールも状況に合わせて変えています。

――アウトプットを枯渇しないためにどうやってインプットを増やしていますか?

浅生鴨:本をたくさん読んで、映画をたくさん見て、海外ドラマをたくさん見ています。NHKにいた時は、タイムラインをよく見ていました。タイムラインを見てれば知らない情報が目に飛び込んでくるので、インプットできましたね。NHKの番組表も役立ちました。

自社製品や自社サービスの案内、現場の人が使っているマニュアルなどを徹底的に読み込むと、案外発見があります。社内では誰もが知っている当たり前の情報が、社外のお客様では全く知らない情報として受け取ってくれるので、アウトプットに役立つと思いますよ。

シャープさん:私はそういう意識をしたことがないのですが、Twitterって「私はこれが好き」という情報の集積だと考えれば、タイムラインを眺めることそれ自体がインプットの塊なんじゃないでしょうか。

あとは、私はもともとDJをやっていたのですが、DJのやり方とTwitterのやり方はとても親和性があり、会場の場を回す感覚が、ツイートを繰り出すことと似ているんですよ。たとえば昔はDJするたび、自宅からレコードをセレクトして100枚くらい持っていくわけです。そして現場ではその手持ちのレコードだけで工夫しなければならない。

たとえばその工夫とは、会場の空気であったりレスポンスであったり、それを見ながら、曲の順番を即興的に組み立てるわけです。その上でスクラッチを入れるタイミングとか、あえて同じ曲をかけるとか、古い曲を新しい曲と接続するとか、そういうある種DJの手法が、ツイートと似ているというのがありますね。

――ちなみに、フォロワーを増やす努力はしましたか?

浅生鴨:これは正直言うと、数を増やすことにあまり重きを置いていないので、全くしなかったです。それより深度や熱量のほうがすごく大事だなと思ったので、100人の他人よりも5人の友だちを入れたほうがいいし、5人の友だちよりも1人の身内を入れたほうがいいと思っています。

企業で何か問題があった場合、100人の他人は「あーあ」と言うかもしれない。5人の友だちは「しっかりしろよ」と言うかもしれない。1人の身内は「あんなことをする子じゃない」と言ってくれるかもしれない。プロモーションの意識は全く無かったので、広報という意識でやっていたので、増やす努力はしてなかったですね。

シャープさん:浅生鴨さんは広報部にいらっしゃって、私はマーケティング部にいたので少し違いますが、マーケティングって基本的に商品を買っていない人に買わせる戦略ですよね。私はそのマーケティングに身を置きながら、買わせるという行為から距離を置いていました。私の仕事は、買わせるより、買った人とおしゃべりしようと決めていました。

商品を買った人と深く仲良くなったほうが、企業や商品への気持ちが深まりやすいというか、もしかしたら次も買ってもらうための仕事がしたいと思っていました。スタンスは変わりません。

広告効果、エンゲージメントについて

――リツイート狙いのツイートや、1万いいねを狙うことはやりましたか?

浅生鴨:こういうことを言うと、こういう返事をする人がいるだろうから、これを用意する詰将棋のようなツイートはしていました。1万いいねを狙うようなKPI的なものはしていなかったですね。

シャープさん:どのタイミングで何を言ったら面白いというスキルは身についてくるのですが、それにしても1万いいねされたらフォロワーが増えるかというと、実際はそういうわけでもないです。バズったらフォロワーを増やすためのバズという意識は私には無いですね。

浅生鴨:それはNHKだからというのもあるのですが、NHKって視聴率1%で100万人に届くわけですよ。紅白も4,000万人が見ているわけで、フォロワー10万人では誤差に見えるような範囲ですよね。

それよりも、本来透明であること、毎日会話すること、きちんと謝ること、嘘をつかないこと、人としてきちんとやるというのがとても大事な気がしますね。面白いことを言ってバズらせるということより、丁寧に誠実にやることのほうが、よほどフォロワーが増える気がします。不誠実なことを言う人を友達にしたくないですよね。面白いことを言っているけど、いざとなったら誠実ですというキャラクターが大事ですね。

シャープさん:そうは言っても、よくおごってくれる友達には勝てないという別の問題もあるわけで、フォローしたらプレゼントが当たるというやり方も否定はしません。ですが私のアカウントは規模を追っているわけでもなく、広告をしたいわけでもないので、少なくともSNS上では広告的手法に手を出したくないという気持ちはあります。

――Twitterって広告的な効果はあると思いますか?

浅生鴨:私は効果がないと思っています。番組宣伝したら一気に視聴率が伸びるかと言われれば、そんな訳ないだろと社員に言い続けていますし。例えば「何でフォロワーが増えないんだ」とか「こんなにフォロワーがいるのに商品が売れないだ」とか言われると思います。

フォローした人は商品が欲しくてフォローしたのではなく、コミュニケーションしたくてフォローしたのであって、そこが極まって、何か買おうとした時、うちの商品を思い出してくれるという届き方しかしないと思います。本当に売りたいんだったら、広告宣伝にお金を使ったほうが効率的だと思います。

シャープさん:社内でも広告予算つけようかと言われますが全て断っています。逆説的ですが、会社のお金を使って広告をやると効果を求められるので。

――例えばライバル会社など、企業アカウントとの交流はどのようなやり取りを心がけていますか?

浅生鴨:これはすごく悩みました。NHKが一般企業とやり取りをすることが果たして許されるものなのか、法務を取り扱う部署に相談しました。すると、それが企業の利益につながるものであればダメだけど、他の放送局とやり取りしただけで利益につながるわけではないので、割とやり取りするようにしました。

シャープさん:始めた当初は会社同士が会話する目新しさがあって、面白いなと思っていた時期がありました。お互いのPRを補完することになりますし。お互いのフォロワーに向けて拡散を補完し合うことが、果たしていいことなのかは少し疑問です。もともと企業がそれぞれのお客様さんとなんとか友達になり、等身大で会話するのがアカウントの目的です。企業と企業が友達になるのはオマケみたいなものです。

おそらく企業アカウント同士の交流は、それが文脈になるような会話ができるかが肝心なのではと考えています。例えば、シャープとタニタはよく会話しますが、その交流が見ている人にとっても、仲良しの文脈や関係性に奥行きを構築してもらえるような、振る舞いが大事だと思います。物語を作るというか。

騒動や自分を守ることについて

――炎上した場合、どう対応しますか?

浅生鴨:炎上とは何かという話もあるのですが、Twitterの閉じた中で起きていることなら炎上ともなんとも思わなくて、それが実際、コールセンターに連絡が来るとか、新聞の一面に載るとかということになってくると、それは炎上というか騒動だなって思うんです。

シャープさん:私は7年ほどTwitterをやっているのですが、始めの5年はずっと経営が悪化していた時期でした。朝起きてテレビつけると、株価が下がった、リストラがあるという、自分の会社のことをメディアではじめて知るという日々で、そのような世間の目の中で毎日ツイートすることを続けてきました。今はもうすっかり状況が変わりましたが。

たとえばかつては、株価が下がったら「死ね」というツイートが山ほど来ました。一番強烈だったのはシャープがある外国企業と提携すると報道された時、罵倒の言葉が滝のようにやって寄せられました。午後のあいだだけで数千件届きまして、やはりそれだけの文字を見続けていると身体に変調をきたしますね。私もさすがに夕方、嘔吐しました。

浅生鴨:本当に不思議なんですよ。単なる文字なんですけど、呪いの言葉は、数が多いとやられますよね。私の場合、自分とキャラクターを分けていたからまだ救いがあるのですが、数万単位の文字を見続けていると、変調をきたしますね。

シャープさん:一般論ではそういう時は大人しく、じっと耐えるのがリスク管理のパターンなのですが、企業の日常の活動はそれとは別に続くわけで、製品を作り、知ってもらうという、私の仕事は平常運転しなければいけないわけです。黙っていると、ずっとお客様と会話できなくなるという葛藤もあるわけで。

そこで、今日寄せられているツイートは、全て読んでいますというのツイートを行いました。罵倒の言葉を送る人って「シャープ」という、非人格的な壁に向かって石を投げているイメージが重なったのです。けれどその壁の奥には人間がいて、私は良いも悪いも行く末も分からないけど、押し寄せる言葉を受け止める仕事をしている。そのことをメッセージしたわけです。

最後は、私のことは嫌いになってもシャープのことは嫌いにならないでくださいとツイートしたら、それが新聞の記事になりました。率直に言うと、クビになる覚悟はしていましたし、その記事がなければ、会社を辞めなければいけなかったかも、と今でも思います。ただ、SNS上で世間と向き合うということは、幸か不幸か、それなりに信念にもとづいた覚悟はいると思います。

新規立ち上げについて、本来のSNS公式アカウントとは

――もし今から自社の公式アカウントを任されて、1からSNSでプロモーションしろと言われたら何をしますか?

浅生鴨:プロモーションはしないですね。やはり企業ブランドを高める方をしたいですね。そういうことなので、商品を販売するということや、何らかの情報を発信するというより、むしろ友達になるスタイルを確立しに行きますね。そういうほうが長い目で見て、友達と一緒にいられる気がするので。

シャープさん:私も極力、広告、商品を販売する行為はしないですね。アカウントを立ち上げて何かやれと言われたら、私は自社製品を応援している人を、さらに応援するようなアカウントやメディアを作ります。

――この先、企業プロモーション、製品プロモーションとしてのTwitterをどうお考えですか?

浅生鴨:ツールは所詮ツールで、電話と同じだと思います。つまり、プロモーション手段としての電話をどう考えているのかとおっしゃっているのと同じだと思います。おそらく電話ができた当初は「テレアポが全てを変える」と言った人がいるでしょうし、意味はそれと似ていますよね。

プロモーションというのは企業から向こうに渡すことなので、何だか対立しているような感覚があります。そうではなく、ユーザーと同じ方向、同じ目線を揃えて仲間となり、一緒に商品を作り、一緒に企業を作っていくような姿勢が必要です。そういうところから始めないとダメだと思います。

お客様から言われることは最もだし、組織の言い分もわかる。理解者が少ない分、組織との間で防風にさらされる気分になると思います。しかしそこでめげずに、実際に辞表を出すのではなく、心の中でいいから辞表を出す覚悟で、外と中のギリギリの場所で立つ覚悟が必要だと思います。

シャープさん:私の仕事は、例えば商店街にある八百屋の軒先に立っている人ぐらいの感覚でいます。その人は、通りがかる馴染みのお客様に「どうもどうも、今日は寒いですね」と世間話しているわけです。

これがマーケティング視点で考えたら「お前、何で白菜売らないんだ」と怒られてしまう。だけど商店街の八百屋で、いきなり白菜を売りつけるなんてしないですよね。馴染みのお客様とは、お互いに他愛もない会話だってするし、そもそもまずは、お客様の要望を聞きますよね。もちろん、シャープとそうじゃない製品を、目の前でお客様が迷っていたら、こっちに誘導することはあるかもしれないけど、まるでお客様の注目を無理やり集めたり、お財布のお金を狩るような行為はしません。だって変ですよね。日常のお客様との付き合いでは。

そういう意味では、「小商い」をしています。小商いをどこまで大きくできるかというロマンはありますけど、おそらく小商いを続けていくとその振る舞い自体が信用に変わる瞬間があるはずです。だから個人が行き交うSNS上では、企業アカウントも誠実さは大事だと思います。

協力:コルクBooks
ファンや他の漫画家からフィードバックをもらいながら 一緒に作品をつくっていく、これからの漫画家のためのコミュニティーです。