Yahoo! JAPAN といえば、日本を代表するポータルサイトの1つである。全体の月間アクセス数はPC版で 244億9,600万PV、スマートフォン版で 500億5,900万PV(2018年12月現在)にものぼる。特にトップページのYahoo!ニュースや、Yahoo!トピックスの関連リンクに掲載されれば、多くのエンゲージメントを獲得できることができる。
今まで、Yahoo!ニュース トピックスが掲載される方法は、あまり公開されることはなかった。今回、ヤフーの現役編集者がどうすれば掲載されるのか、そして、Yahoo!トピックスから見えるトレンドについても語った。
ヤフー株式会社 メディアカンパニー メディア統括本部 編成・制作本部 編集1部 編集2リーダー 竹野 雅人氏
本記事は、11月29日に開催された「日経クロストレンド EXPO 2018」より、ヤフー 竹野氏の講演「Yahoo!ニュース トピックス編集部に直撃! 1日5000本のニュースから見えるトレンド」の模様をお届けする。
Yahoo!ニュースは、1996年にサービスを開始。現在のアクセス数は月間約130億ページビュー、1日5,000本ほどの記事が公開されている。編集部では届いた記事の中から価値あるものを選択。ユーザーが瞬時に見て内容が分かるよう、13文字(厳密には13.5文字)以内でタイトルを付ける。そして編集者が独自に、内容を助けるための「関連リンク(ココがポイント)」を付与する。
その後、内容を校正して問題がなければ本番ページに公開する。全て人力で行う作業であることから、自分の好みで記事を選択して、公開することはできない体制になっている。
Yahoo!トピックスに掲載されるための2つの柱
ユーザーから「どうやったらYahoo!トピックスに掲載されるのですか?」とよく質問をされることがある。それは明確に答えられないけれど、今までの流れを振り返ってみると、掲載されるには大きく分けて2つの柱で見ていたと竹野氏は述べた。
1つは「公共性」。公共性とは、災害、政治、経済、国際問題など硬めのジャンルを指す。ユーザーに何が起こっているのか、社会的に重要な話題を掲出しようという方針で行っている。例えば、台風、猛暑、外国人受け入れ問題などは公共性の高い話題として取り上げた。
2つ目は「社会的関心」。社会的関心とは、スポーツ、エンタメなど柔らかめのジャンルを指す。注目度の高いものを掲載して、多くの人の関心に応えようというものである。イメージとしては、ワイドショーが取り上げるような話題が、社会的関心に当たる。
「この2つのポイントでトピックスを選出しているため、公共性だけ、社会的関心だけを揃えたYahoo!トピックスになることはない。社会的関心を取り上げながら、公共性に焦点を当てたニュースにも目を通してもらおうと考えながらやっている」そうだ。
それらを踏まえて編集者は、7つのポイントで記事を選別している。1つは「即時性・時事性・今日性」。なぜ今掲載するのかといったタイムリーな記事は意識を持って取り上げている。2つ目は「真実性・信頼性」。これは正しいニュースなのか見極めて掲載している。
3つ目は「新奇性」。目新しい、珍しいニュースは大事と思っており、過去に同じ事例はないか日々チェックを行っている。4つ目は「公益性」。多くの人が利益につながるニュースなのか考えている。
5つ目は「認知度」。多くの人が知っている話題は関心の高いものだと編集部では考えている。6つ目は「表現力」。その記事は多くのユーザーが理解できるような話題なのか日々考えている。最後は「品位」。誰が読んでも不快を抱くコンテンツは掲載しないようチェックを行っている。
これら7つのポイントを全て満たしていなければいけないという訳ではないが、編集部はこういった視点を持ちながら記事を取り上げている。
紹介する記事については、さまざまな条件から総合的に判断してトピックスに掲載している。例えば、記事によって同じ内容のものが、同じ時間に届くことがある。その時は配信時間の速さを優先して掲載している。
速報性を優先しない記事の場合は、記事の長さ、取材を行っているといった具体的な内容、画像や動画が盛り込まれている、というように要素や専門性を見て記事を選んでいる。
掲載する記事が決定したら、パッと見て分かりやすいよう13.5文字でタイトルを付けて掲載している。Yahoo!トピックスは、ユーザーがクリックしなければ記事が読まれることはないため、編集部でもクリックされやすいオリジナルのタイトルを考えている。
例えば、「なぜ」「理由」「~の訳(わけ)」「まさか」「衝撃」「場内あ然」「~が激怒」「謎の~」といった、読み手の感情を揺さぶるような言葉を盛り込むと、多くのユーザーの興味を引きつけやすいことが分かっている。
ただし、ページビュー稼ぎのために、タイトルと内容との落差が大きいタイトルにするとユーザーの失望を招くことになるから、正確で、誤解のない表現で記述するよう、常に気を配っている。
タイトルのABテスト
Yahoo!ニュース トピックス編集部では、ユーザビリティとしてABテストを活用している。以前は1つの記事に対して、1つの見出ししか付けることができなかったが、現在では、いくつかの要素を採用して見出しの候補を作成。ユーザーの反応を見るためにテストを行うことが可能となった。その結果をもとに、最も読まれるタイトルを選べるようになったという。
実際使用したABテストの事例を紹介する。2015年3月、当時テキサス・レンジャース所属のダルビッシュ投手がオープン戦に登板するも右腕の張りを訴え、わずか12球で降板したというニュース。これを編集部内で3案考え、ABテストを行った。この中でどれが最もクリックされただろうか?
編集部の中では「ダル腕に張り わずか12球降板」がいろいろな要素を盛り込んであるからクリックされるのではないかと予想していた。結果は「ダルビッシュ わずか12球降板」が「ダル腕に張り~」よりも2倍以上クリックされる状態だったという。
「編集部の見解では、『ダル』より『ダルビッシュ』が読みやすいという議論ではなくて、もしかしたら『ダル腕に張り』という言葉が非常に読み難いからクリックが低かったのではないかと考えている。だから非常に読みやすい日本語にしていこう」といった知見がいつも生まれている。
このほか、最近では「グレイヘア」という言葉が流行っており、「2018 ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされた。タイトルを作る際「グレイヘア」という言葉を見出しに入れるか、もしくは「白髪染めやめた」という事実を伝える見出しにするかで編集部で議論が起こり、実際テストを行ったそうだ。
その結果、「グレイヘア」より「白髪染めやめた」のほうが最も多くクリックされたそうだ。こういったところでどちらがユーザーにとって分かりやすい見出しなのか、ABテストを行いながら最適解を探すことができるようになったという。
ニュースから見えるトレンド
Yahoo!トピックスでは、多くの記事を公開しているが、はたして世の中のトレンドを全てカバーしているのだろうかと思い調査を行ったという。独自調査によると「2018 新語・流行語大賞の候補30語」では約8割、「日経トレンディ 2018年ヒット商品ベスト30」では、約4割カバーしていたそうだ。これを見ると全体的に、個別商品については取り上げていない傾向がある。
その理由として「やはりトピックスはニュースなので、『社会現象』や『話題の人』はほぼ網羅している。しかしヒット商品はPR色を詰めなければいけない。公平性も見ているので、そういった意味からヒット商品は抑制的になっている」と、竹野氏は述べた。
しかし、ヒット商品は取り上げないということではない。過去のトピックスを洗ってみると、スマートフォンの発表は手厚く取り上げている印象がある。そして、ディズニーシー、ムーミンパーク、自動運転なども取り上げている。
これらをまとめると、「ヒット商品については、売れたというファクト(事実)があるのか、成功へ至るまでのストーリーがあるのか、という視点で取り上げている。だから売れたときの開発費用も気になるし、なぜこの商品が売れたのか分析された記事も取り上げる価値がある」と思っているそうだ。
そして「発売・発表された商品については、社会的なイノベーションになっているかを見ている。例えば『自動運転』や『AIスピーカー』などはそれに該当する。あとは、誰もが知っているような身近さについても見ている。それに加え、意外性・話題があるかについては記事を取り上げる上で気にしているポイント」だという。
ヒットの源流は日々移り変わっている
ここ数年間、流行語やヒット商品を見ていると、私達も聞いたことがない言葉がノミネートされているのを目にする。それらが起こる背景として竹野氏は、動画配信サービスやソーシャルメディアの普及から、メディアが分散し、知らないところで盛り上がっているからだと分析する。
「今まではTV番組を見ていればヒットするものが自然と分かった。しかし、動画コンテンツが登場したことで、ヒットするものがリアルタイム配信でなくても、個人の都合の良いタイミングで再生できる時代になった。また、バチェラーを見ている人はAmazonプライムの人しかいないわけで、地上波を見ている人と話が噛み合わない事情が出てくる」。
「そして、ソーシャルメディアがトレンドの始点になった。今までテレビや新聞といったマスメディアからトレンドを発信していたものが、現在ではTwitterやInstagramから始まったブームも生まれている」。
つまり、ヒットはどこからでも生まれる時代になったのだと竹野氏は語る。そして、そのヒットはどのように生まれたのか、ツールを使って可視化できるようになった。企業担当者も、新商品についてどのような感想を持っているのか自分で可視化して、次のアクションへつなげるようになった。
ニュースを届ける者としても、また視聴者としても、毎日新鮮な情報を取り扱えて嬉しい。これからが楽しみであると語り、セミナーは終幕した。