今年70周年を迎えたスポーツカーブランド「ポルシェ」。10年ほど前、スマートフォンが誕生して、消費者の行動も変わってきた。消費行動が変化する現代、ポルシェではどのようにデジタルとリアルを融合し、取り組んできたのか、その具体例について語られた。
ポルシェ ジャパン株式会社 執行役員 マーケティング部長 山崎 香織氏
本記事は、11月15日に開催された「宣伝会議サミット2018」より、ポルシェ ジャパンの山崎氏の講演「70周年を迎えるラグジュアリーブランド『ポルシェ』のブランド哲学 ~リアル×デジタルの体験で生み出す話題と共感~」の模様をお届けする。
売上は好調。しかしお客様の考えも変わってきている
ポルシェは1948年、オーストリアのグミュントという村で誕生した。創業者のフェリー・ポルシェ氏が「ポルシェ・356」を製造し、ポルシェというブランドを冠した自動車の誕生から今年で70週年を迎えた。
ポルシェは、1963年に誕生した「ポルシェ・911」をはじめとして、現在5つのモデルで構成されている。2017年の実績として、ポルシェは全世界で年間約25万台販売しており、7年連続販売が増加、売上は非常に好調で、利益率は17.6%と、競合他社と比べても、約2倍の利益率となる。このうち日本では、約7,000台が新車販売されている。
それでも、「なかなか車やスポーツカーという面で、皆さまのお考えも変わってきている。少し前のスポーツカーブームで、誰もがスポーツカーってかっこいいよね、と思ってくださった時代から変わってきたというのが実情」であると山崎氏は語った。
デジタルがもたらす自動車業界の変化
そもそもデジタルが到来した時、自動車業界ではどのような変化が起きたのだろうか。ニュースや商品情報など、新しい情報や欲しい情報がある時、消費者はWebサイトを介して情報を収集し、商品を比較してから購入するようになった。そのような影響から、販売店への来訪数が減少している。
現代は、モノを消費することよりも、コトを消費する時代に進んでいる。何かを買って所有する「所有欲」よりも、自分が使いたいときに使えればいい「レンタル/リース」を優先する時代に入っており、カーシェアリングという新たな潮流もおきている。
ソーシャルメディアやWebサイトなど、消費者はデジタルを介してコミュニケーションを取っている世の中だ。一方で、消費者の行動・購買データが溢れていても、企業はどう活用したらいいのか分からない。消費者は自分に合ったものに重きを置くようになっており、それを実現するためのデータ活用が重要になる。
価格は安いほうがいいという考えの一方で、自分にとって便利だ、自分にとって価値があるという商品・サービスを求めている考えも近年増え始めている。
デジタルを活用したポルシェの取り組み
そういったなかポルシェでは、5年後には今より50%以上の人がソーシャルメディアを利用し、スマートフォン利用者も今より50%以上増えるだろうと予測している。それにともない、デジタルメディアに投資する広告予算も2017年で50%以上増やした。
現代は、自動車からインターネットに接続してさまざまなサービスが受けられる、コネクテッドカーの時代に入っている。ポルシェでは、売上の10%以上をデジタル領域で稼ぐ、中長期戦略を掲げている。10%とは つまり20億ユーロ(約2,560億円)に値する。
ポルシェのリードジェネレーション事例
ここでキャンペーンを活用したリードジェネレーション事例を紹介した。これはケイマンとマカン、それぞれの世界観を体感できるモニターキャンペーンで、当選者には両モデルを充分に体験できるエクスクルーシブツアーがプレゼントされるというもの。
このキャンペーンは1か月半のあいだ開催し、約1万人から応募をいただいた。その中から見込みの高い応募者「リード」を選定すると約2,900人となる。このうち約半数が、自社の管理顧客リストに載っていない新規顧客だった。
年内に30台成約するということを目標としていたが、現在まで35台が成約に至った。どちらのモデルも1台700万円以上するから、最低でも総額2億円以上の売上を見込めるキャンペーンになったという。
成功要因として「このキャンペーンはターゲットとなるお客様を考察して、その方たちに響くコンテンツを展開した。そして応募されたデータをスクリーニングすることが肝になる。実際、当社の商品はWebサイトで購入できるものではないため、リアル店舗に行っていただかなければいけない。そのため毎日、リードリストをカーディーラーに渡して、フォロー活動を行ってもらった」という。
こうした地道な活動を通して、オンラインとオフラインが融合したキャンペーンの成果が出たと言えよう。
ポルシェのロイヤリティ強化事例
続いて、ポルシェを所有されているお客様と、どうやってその先の絆を深めていけばよいか、ロイヤリティ強化の事例を紹介した。これは9月11日、「911 DAY」と称して、ポルシェ・911を所有しているお客様が911をモチーフとした写真を取ってタグ付けし、ソーシャルメディアに投稿するキャンペーンである。
3回目となるこのキャンペーンでは、300件を超えるご応募をいただいた。どの写真もドライブが楽しかったのだろうな、911が好きなのだろうなというという共感する気持ちが湧いてくるものばかりだった。
「このキャンペーンで直接、ポルシェ・911を購入してもらおうという狙いはないが、そこに書かれたコメントを1つひとつ読んでも、911に対する愛情がひしひしと伝わってくる。こういったロイヤリティを強化する参加型キャンペーンも、デジタルならではの事例としてご紹介させていただいた」。
これまでのまとめとして「デジタルやリアルであっても、お客様はどのような方で、どんな価値を求めているのか、妥協せず徹底的に理解していくことが大事。その上で初めて、デジタルとリアルをどのようにつなぐのか導線設計をしていくこと」と語った。
さらに「私どもはポルシェへの憧れ、そして歓びをご提供したいと思っている。デジタルやリアルの施策に接したお客様が、どんな気持ちになっていただきたいのかを考えながら、日々マーケティング活動に取り組んでいる」と語り、セミナーは終幕した。