日本にスマートフォンが登場して10年が経ち、携帯電話は今まで電話やメールを送信する役割だったものが、Facebook、Twitter、LINEが登場し、最近ではYouTubeなどの動画コンテンツも登場して、ユーザー行動も10年前とは比べ物にならないほどの変化を見せてきた。
今回、メディア環境研究所の野田氏より、生活者を取り巻くメディア環境を浮き彫りにし、最近の若年層は、どのようにスマートフォンを利用して情報収集を行い、どのように消費行動につなげているのか調査結果をもとに解説した。
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員 野田 絵美氏
8月29日、宣伝会議が主催する「プロモーションフォーラム2018」が開催され、博報堂DYメディアパートナーズの野田氏より「メディア環境の変化とスマホ・ネイティブの新情報行動」というテーマで講演を行った。
2018年、メディアの総接触時間は過去最高を記録
メディア環境研究所は、メディア / コンテンツ / コミュニケーションに関するシンクタンク。「メディア定点調査」の発表や、最近ではマス四媒体の動向や広告データをまとめた「
広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2018」を刊行している。
今回は「メディア定点調査」を用いながら、生活者を取り巻くメディア環境の変化について解説した。メディア総接触時間の時系列推移(東京)を見ると、2006年全体のメディア接触時間は335.2分だったものは、2018年に入ると396.0分と過去最高の数値まで増加しており、特に増加しているのは「デジタルメディア」の接触時間だった。
同様にメディア接触時間の構成比を見ると、2018年におけるデジタルメディア(「パソコン」「携帯電話/スマートフォン」「タブレット端末」の合計)の割合 は50.4%と半数を超えており、そのなかでモバイル(「携帯電話/スマートフォン」と「タブレット端末」の合計)は33.6%と、3分の1の時間がモバイルに接触していることとなっている。
若年層のモバイル接触比率は半数を超える
さらに若年層の構成比で見ると、男性20代のデジタルメディアの接触率は75.8%と最も大きい割合を示している。タブレットと携帯電話/スマートフォンを足した割合では女性10代が最も大きく54.3%となった。男性や女性の若年層とも50%を超えている状況であることから、モバイルシフトはすでに完了していると言える。
メディアイメージを42項目に分けて調査しているなか、携帯電話/スマートフォンが1位になったのは17項目。携帯電話/スマートフォンはどのメディアよりもトップを獲得している。その項目を見ると「速さ」「新しさ」といったイメージが強いのだが、今年になって「習慣になっている」「仲間との話題に必要」「役立つ」といった生活に根ざしたイメージが新たに1位を獲得した。
例えば「仲間との話題に必要」という項目は、今まで通話だけのツールだったスマートフォンは、現在SNSや動画を閲覧できるツールになったことで、徐々にランキングを上げていき、今年1位を獲得した。
続いて、スマートフォンの利用機能トップ10を見る。「メール送受信」や「検索」「カメラ」といった基本機能に加え、「ニュースを見る」「動画を見る」「ショッピング」といった生活行動にまで拡張しており、スマートフォンはいわばコミュニケーションツールから生活ツールへと進化している。
例えば「ショッピング」を見ると、いまだパソコンの利用は根強いが、それを超える勢いで携帯電話/スマートフォンが増加している。
若年層が行っている情報収集術とは?
スマートフォンユーザー情報行動調査の分析をもとに、10~20代のいわゆる「スマホ・ネイティブ世代」から広がる新たな情報行動を「情報引き寄せ」と名付けて紹介した。
従来は、欲しかった情報を見つける際、その都度、検索サイトでキーワードを入力して情報を探していたわけだが、「情報引き寄せ」とは、わざわざ検索をしなくても、自然と情報が集まるようにすることを意味する。
マスメディアを始め、最近では企業や個人から大量の情報が発信され、世の中には情報が溢れているという背景がある。いつも手元にあるスマホの中には必要のない情報は極力入れたくないという心理がある。
わざわざ検索しに行かなくても、自然と興味のある情報だけが手元にあるようにする、つまり情報を引き寄せる行動が、いま若者層が行っている情報行動である。
1)とりあえず「ためる」方法
具体的には、どうやって情報引き寄せを行っているのだろうか?それらは2つのやり方がある。1つは、とりあえず「ためる」方法。写真にとって保存したり、気になったページをスクショで保存したり、SNS情報も保存するといった行動である。
10~20代の男性・女性に、「欲しいものや行きたい場所、ちょっといいなと思ったら、スクショやメモでとりあえず保存」するか尋ねたところ、全体では40.1%に対し、10~20代女性では67.4%と、3人に2人は行っていると回答した。
また「SNSで気になる情報や画像があると、その投稿をとりあえず保存」するか尋ねたところ、全体では22.0%に対し、10~20代女性は48.7%と、半数の人が行っていると回答した。そして、その「とりあえずためる」やり方は多岐にわたっているという。
インタビューを紹介。Yさんのためる方法とは、「ツイッターのリツイートを使う方法」である。本来リツイートは、他人のツイートを引用して周囲への拡散を目的とする方法である。彼女は情報をためる方法として、自分のためにリツイートしているという。
Twitterはタイムラインの流れが早い。欲しい情報が流れていかないよう自分にリツイートして情報をためている。そして店舗で試して良かったら購入するのだという。
2)自然に「たまるようにする」方法
2つ目は、自然に「たまるようにする」方法。SNSで「いいね」や「フォロー」して情報がたまるようにしたり、自分が見た・購入した履歴を見て情報活用したりする方法である。情報収集なのに何で「いいね」するのだろうと思った人も多いのではないか?
先ほどインタビューに登場したYさんは、「いいね」は「自分にいいね」を行っているという。一般的に「いいね」するのは、あなたの情報に共感したという理由で行うものである。
スマホ・ネイティブの中に、いま増えているのがアルゴリズムをうまく利用し、自分にとって興味のある情報の最新が常に更新されて自然と表示されるようにする情報収集の知恵であるという。
Kさん21歳のインスタグラムの見方に関するインタビュー。彼女の自然に「たまるようにする」方法は、「興味あり!は、とにかくクリック」すること。彼女は興味あるキーワードを入力したり、興味ある投稿画像をタップしたりすると、自分の興味に合わせた投稿画像が集まることを直感的に分かってきたという。そのため興味があれば広告であっても積極的にタップしているそうだ。
このように投稿をタップすることは、自分の興味あるものをスマホに教え込んでいるという意識が直感的にあって、相手の投稿であれ、企業の広告であれ、自分に有益なものは平等にタップしている。検索しても出てこない情報が表示されると、いい情報を教えてくれてありがとうと思ってタップしているそうだ。
2017年下期にインタビューと比べたら、上記のような人がここ最近になってすごく増えてきていると野田氏は言う。調査で「インスタグラムで、好きなものをたくさん『いいね』して、それに関連した画像が自然と集まってくるようにしたことがある」と尋ねたところ、全体で8.8%に対し、10~20代女性は19.7%と、5人に1人はこういった行動をしていることが分かった。
割合が少ないと思われるだろうが、このデータはインスタグラムをやっていない人も含まれているため、対象者を絞ればさらに割合が上がることになる。
このほかYouTubeでも、検索キーワードで動画を検索しても欲しいコンテンツが見つからないから、トップページにある視聴履歴をもとにした「あなたへのおすすめ」を見て、みたい動画にたどり着く行動を行っている人も多い。
情報として「引き寄せられる」ための3つの方法
商品やコンテンツは、情報として選択される前に、情報が引き寄せられていないと商品が選ばれないという時代に来ている。つまり情報コンテンツは「選択前に選択」されている。企業はこの新たな情報行動に、どう対処したらいいのだろうか?
情報を引き出すためには、3つのキーワードがあると野田氏は語った。それは「使える情報」「多焦点」「多更新」の3つである。
「使える情報」とは、企業が伝えたい「売り文句」ではなく、生活者が「使いたい情報」になっているかということが大事である。
「スマートフォンにより、生活者と常につながることができるようになりました。それはつまり、商品を買おうというモードになる前からも常につながっているわけです。生活者はどういうモードになっているのか分からないので、売り文句だけでは流されてしまう可能性が高くなります。繋がる可能性ができた時、ふとした時にいつでも使える情報か、という情報性を持っていることが大事です」。
次に、使える情報であるために「多焦点」であるか。これまでの歴史を踏まえると、商品やサービスが伝えたいメッセージの焦点とは何なのか、つまり「コアバリュー」を決め、それを伝えるためのいろいろな表現を作ってきた。
これからは、消費者の興味・関心をとらえる焦点をいかに増やせるかが大事になってくる。コアメッセージはもちろん大事です。しかし、お客様は何をいいと思ってくれるのかは分からない。だから、生活者の多様な興味関心をひく、多様な焦点で情報を作りだし、接点を確保するというのが大事になってきていると野田氏は語る。
最後は「多更新」。今まで、企業が伝えたいタイミングで発信していたものを、これからは生活者が使いたいタイミングを補足することが大事である。
生活者とは常にスマホで繋がり続けており、いつもたくさんの情報が入ってきている。だから私達は情報を更新して提供することによって、情報の鮮度を保ち、接点を維持するのが重要となる。
そうすることで生活者が「今見たいモードだ」という時、情報がすぐ手元にあるような状況を作ることができると野田氏は語り、セミナーは終幕した。