電通の山本敏博社長と博報堂の水島正幸社長は、「Advertising Week Asia 2018」に登壇した。両社のトップが公の場で対談することは初めてのこと。デジタルメディアの時代が突入し、変わっていく社会の中で、広告業界はどのように対応していけばよいのか、トップの視点から具体的な方法論が語られた。
画像左から、株式会社博報堂 代表取締役社長 水島 正幸氏 / 株式会社電通 代表取締役社長執行役員 山本 敏博氏 / Advertising Week Asia エグゼクティブ・プロデューサー 笠松 良彦氏
5月14日、マーケティングやコミュニケーション業界のグローバルリーダーが参加して広告業界の現状と未来について語り合う「Advertising Week Asia 2018(AWAsia 2018)」が開催された。
電通の山本社長と博報堂の水島社長をお招きし、「グローバル基調講演シリーズ:CEO’s Talk 水島正幸 Meets 山本敏博」というテーマで意見を交えた。モデレーターはAWAsiaのプロデューサーである笠松氏が務めた。
お互いの会社の印象は?
―― まず、入社された時の会社の印象と、お互いの会社の印象はいかがですか?
水島:博報堂を受けている時、電通の採用メッセージがすごくかっこよくて「三歩先を読んで、半歩先を行く会社」と書かれていました。博報堂は調べても出てこなかったのですが、きっとどちらの会社も、そういうことをやっていくイメージがありました。
山本:電通に入社して思ったイメージは、働けば働くほど、この会社の仕組みは、うまくできているんだなと思いました。博報堂の印象は、月並みで恐縮ですが、博報堂はスマートな会社だなという印象を持っていました。
広告には3つの役割がある
―― 定義によってだいぶ変わってくると思いますが、お二人にとって広告とは何でしょうか?
山本:言葉通りに捉えれば、私にとって広告とは仕事です。そして、最大の関心事でもあります。私が考える広告の機能というのは、昔も今も、今後も変わりません。広告の対象物は、商品やサービス、企業、考え方や意見などいろいろありますが、個人や企業、社会にとって、広告対象物の「価値」や「評価」が、以前よりもより良く変化するのが広告の機能であると考えています。
―― それは、伝えたい商品・サービスの付加価値を高めるという理解でよろしいでしょうか?
山本:付加価値というか、それは個人や社会にとって、新しい価値が発見されるということです。違う角度から物事が見えてくるということですね。もちろん「知らなかったことを知ってもらう」というのが第一歩ですが、「知っているけど、自分とは関係がない、価値がイメージできない」というのを「自分に関係がある」と思ってもらい、生活が以前よりもより良く変化するというのが広告の機能ですね。
水島:いま、山本社長の話に通ずるところがあると思いますが、市場や価値を作るのは、広告の重要な役割だと思っています。自分にとってどのように関係させるか「自分ごと化」させる回路が広告だと思います。平たく言うと、消費者の心を動かして商品を買ってもらう、商品がたくさん売れると経済が動くという、動かすというのが広告の重要な機能だと思います。
あとは、「つなげていく」というのは重要な広告の役割だと思います。企業や商品、生活者を、広告やコミュニケーションでつなげていく、具体的には、工場から生活者に届けてつなげる、広告主と媒体社をつなげる、ブランドを作っていくことも生活者の気持ちにつなげる作業だと思います。気持ちを動かす、つなげるというのが、私にとっての広告です。
広告はデータの時代に突入。さらに広がりを見せる
―― 次の質問へと進みます。お二人の個人的な意見で結構ですが、これからの広告というのはどうなっていくと思いますか?
水島:今まで広告は、すごく変わってきたと思います。私が博報堂へ入社した80年代前半の広告は、グラフィックの1枚絵に素晴らしいコピーが付いていて、テレビコマーシャルを丹念に作っていくような「The 広告」の時代でした。
だんだんそれが「キャンペーン」の時代になりました。新商品を発売する際に、店頭やいろいろなメディアを使いながらどのようにピークを作るかというのが広告会社の仕事の一つになりました。
90年代後半に「ブランド」という概念ができて、ブランド作りが広告の重要な役割の一つになりました。最近はデジタル化が進み、「統合コミュニケーション」が広告の仕事に求められています。このように、時代とともに、広告が変わってきており、今後、ますます変わっていくと思います。これがこの業界の良さだと思います。
今後どうなっていくかと言うと、ひとつは「データ」、生活者のデータが瞬時に、膨大に、つぶさに取得できるようになります。広告主や広告会社もいろいろなことが分かるようになるので、さらにレベルの高いサービスを提供しなくてはいけないと思います。
一方で、生活者も「分かっているんだったら、もっと、ちゃんと攻めてきてよ」とコミュニケーションを求めてくるようになって、レベルが上ってくると思います。単に普通のキャンペーンや統合コミュニケーションを超えて、最近流行りのアプリサービスや商品開発も含めて、広告というのは定義され直し、広がっていくと思います。
メディアも、パーソナルなところから社会全体に広がっていく
水島:あと、メディアもどんどん変わっていくでしょう。もともとマスメディアは、生活者の知らない情報を教えてくれた時代から、デジタルメディアが出てきて、検索できるようになり、または個別にコミュニケーションが取れるようになりました。
最近ではIoTのような技術も広がっていくと、メディアがパーソナルなところから、街や家といった社会全体もコミュニケーションができるメディアになっていきます。
それらが大きくなると、それに関連したコンテンツやサービスももっとできるようになるので、それを大きなくくりで広告と捉えて、自分たちの仕事にしていかなければいけないし、それを面白がっていかなければいけないと思います。
変動する社会にマッチした広告とは何かを考える
山本:私も水島社長のおっしゃるとおりだと思います。考え、対処することが大事だと思いますが、もう一方で大事なのは、「広告をどう変えていくのか、という意志の問題」ではないかと思います。
つまり、世の中は変わる、そして、それに対処するだけでは後手に回ってしまう。下手をしたら、広告の本質的な機能が使えずに見失ってしまう恐れすらあります。広告の機能は変わらないが、変わっていく社会の中で、どういうふうに広告を駆使しようとしているのか。広告で仕事をやっている人の意志が大切だと思います。
今まで私たちが、広告の仕事を通じて獲得して磨いてきた能力というものが変わっていく時代のなかで、一番活かせるというやり方とは何なのかを考える必要があります。
広告が、今よりもっと質の高い、効果の高い、効率の良い、もっと精緻な、もっと拡張できる、もっと楽しい、もっと美しい、もっと力強いものに広告を変えていく意志がないと、本質的な機能を見失ってしまう可能性があります。
もともとは、自分たちが広告の機能を磨くために作った中間指標が「目的化」してしまって、本質的な機能を見失う恐れがあります。時代に対処するとともに、自分たちがどういう指標を持つかということだと思います。
どんなに考えたって、未来はどうなるかは、誰にも分からないと思います。どう変わっても、どういう意思があるかというのが大事だと思います。
広告会社は、社会的な存在価値を問い直す必要がある
―― そういった未来に対して、広告会社はどう変化していくべきか、どう変化させたいと思っていますか?
山本:広告という仕事を通じて獲得し、磨いてきた「私たちの能力」を拡張して、活用して、応用する、その場所や場面を広げていく、そういうことが広告会社に必要なことだと思います。そのためには、広告や広告業界というものの社会的な存在価値というものを、もう一度問い直すことが重要です。
つまり、「それは必要なのか」「それは役に立っているのか」「広告は世の中の役に立っているのか」という自覚にたどり着けたならば、その自覚を持って、ものすごく大きく変わっていくこの時代の中で、広告や広告会社、広告業界がより世の中の役に立つものへ変貌していくことを考えなければいけない。
我々の本質的な価値、本質的な存在意義に立ち返って、世の中の役に立つように変わっていきたいと思います。
イノベーションも大切だが、広告人として面白がることが大事
水島:山本社長の話を伺っていて、広告会社の持つ意味合いを持ったまま変わっていくことは重要だなと思いました。それでも、だいぶ変わってきたと思います。私が会社へ入った頃は、お得意先の入口に「広告お断り」というサインが貼ってあった時代で、それがだんだんお役に立てるようになってきました。
まだ宣伝部の方に貢献する仕事が多いのですが、お得意先のどこに貢献するかというのも変わってきています。ブランドに関わっている事業部の仕事も増えていますし、CMOと向き合う仕事も増えていますし、経営に関わる仕事も増えています。我々がやっていることや求められていることも変化し、未来へ向かって意味合いも変化していると思います。
そのなかで、我々が培ってきたのは「クリエイティビティ」の一言に尽きます。クリエイターのクリエイティブと言うよりは、会社の機能として、クリエイティビティをもって世の中に価値を作ることが、会社のDNAだと思います。
それが、これからどのように求められていくのか、または、我々がどのように作っていくなかで意味合いをもたせるかが重要だと思います。従来のコミュニケーションを、もっとやっていかなければいけないと思います。
しかし、日本や海外の企業もいろいろな意味でデジタルトランスフォーメーションによって事業の構造も変わってきていることを思うと、そのタイミングの時に我々が、もしかしたらイノベーションという領域でご一緒することで、新たな価値をもたらすことができるもしれないと思います。
広告会社というものが、違うかたちでお役に立てるのが一つの夢でもありますし、これをやらなければいけないと思います。そうは思いつつ、根源的にはワクワク・ドキドキ感で、お得意先が驚くようなサプライズをもたらすことが大事です。そういうことが曖昧だから、もっと役に立ち、もっと面白いことをやりながら、ベロ出して仕事したいなと思います。
自分の好奇心を発揮しながら、熱狂的にチャレンジする
―― これから広告業界を面白くしていくために、1人の広告人が持つべきプロ意識、自分が広告人として心掛けていることは何ですか?
水島:広告業界や広告会社は、もっとポジティブに変わっていかなければいけないし、やれる仕事も増やしていかなければいけないという面で言うと、いい意味で無限の可能性があると思っています。
私はもともと広告業界の仕事が面白いと思って入社しましたし、そこを面白がれるのは重要です。どの業界も一緒だと思いますが、広告はどう変わっていくのか、どう変われば面白くなるのかといった好奇心が一番重要だと思います。
他の業界に行く若手もいますが、自分の中に好奇心があって、自分で面白がることができれば、自分の会社の中でもできると思います。無限の可能性があり、何をやってもいいと言うのが広告会社の良さだと思います。自分の好奇心を発揮しながら、熱狂的にチャレンジすることが一番大事だと、私は思います。
チャレンジし続けるためには3つの要素が重要
山本:水島社長に同感です。そうであり続けるためには、3つの要素が重要だと思います。まずは、広告には2つの側面があると思います。1つは、人や社会に向かっていくこと。人の心を動かさなければ社会に影響を与えられないと思いますが、特に人に対してできるタッチポイントは技術的にどんどん増えていきます。
人や社会に向かっていく仕事をするためには、覚悟や洞察、倫理観、謙虚さ、企てが必要です。さらに、人に向かっていくためには、自覚と覚悟が必要です。間違っても変なことになってはいけないことであり、人の人生や社会に関わる度合いが高くなるので、その自覚は必要です。
もう1つの側面は、広告というのは事業活動の1つの役割を担っているということです。広告主の側から言うと、勘定科目の1つであるということですね。
ますます広告と広告の境目がなくなって、昔広告でやっていたことが、今は広告でない形でやるようなことになっているなかで、事業やビジネス全体から広告を捉えるという視座や視野を持っていないと、広告だけが独立して、そこから先が我々のフィールドだというふうに考えていては事業全体から乖離してしまいます。
3つ目は、こんな時代ですから、成功体験や過去のメソッドを捨てるということ。常に強い情熱と意欲を持って、毎日捨てていくという思い切りが必要です。その3つをもって、水島社長がおっしゃるように、面白がれる情熱や好奇心で、仕事に向かっていければと思います。
―― 本当は何時間でも話していたい気持ちなのですが、残念ながらお時間が来てしまいました。山本社長、水島社長、本日は誠にありがとうございました。