国内の回転寿司業界で売上No.1を達成した人気回転寿司チェーン「スシロー」が展開するデジタルマーケティング事例を紹介。 公式アプリを作ったきっかけから、アプリを中心としたCRMの取り組みやアプリ利用状況を通して分かったさまざまな課題、将来の展望など、スシローが展開するお客様を中心としたハイブリッド型のコミュニケーション戦略について語った。
株式会社あきんどスシロー コミュニケーション企画推進室 主任 竹中 浩司氏
4月18日、インプレス主催による「Web担当者ミーティング2018春」が開催された。あきんどスシローの竹中氏より「スシローのマーケターが考えるWebとアプリのマーケティング」というテーマで講演が行われた。
あきんどスシローは国内493店舗、海外7店舗(2018年4月5日現在)を展開する寿司レストランチェーンを経営する。 1年間で1億3,745万人が来店、約12億7,000皿ものお寿司が食べられている。
ハイブリッド型のコミュニケーション戦略を実践
これまでスシローでは、お客様を店舗へ送客する取り組みとして、テレビコマーシャルやPR、折り込みチラシ、ホームページ、メルマガ、SNSを活用し、全顧客共通のコミュニケーションを展開してきた。
そのなかで、公式アプリや店頭の案内台、タッチパネルでの注文、お持ち帰り用のネット注文、会計データといった「ビッグデータ」を包括的に見ながら、お客様に満足いただくという仕組みづくりを行っている。
スシローの商圏内に生活されている方の中でスシローをご利用されるお客様で、月1回ないし月2回以上利用している人は全体の約2割おり、そのお客様をスシローでは優良顧客と定めている。
それ以外のお客様を見ると、月1回未満の人は全体の約6割、何らかの理由で来られない方も全体の約2割いる状態だ。 6割いる月1回未満のお客様を、優良顧客へ引き上げるのが、竹中氏のミッションとなっている。
日ごろ、スシローを利用されているお客様はスシローに対してどう思っているのかアンケートを取ったところ、学生や家族、夫婦などライフステージ毎にさまざまな意見があることが分かった。
また、ライフステージ毎に利用状況も異なることがわかり、そのような状況を踏まえ、共通のコミュニケーションを取りながら、ターゲット別のコミュニケーションを取ることを始めている。これをスシローでは「ハイブリッド型のコミュニケーション戦略」と呼んでいる。
自社の課題を解決できるアプリとは何かを考えるべき
各企業でも既にアプリを持っており、またはこれから作りたいと考えている企業も多くあるなか、情報提供やゲーム、ツール系など、多種多様な機能のアプリが存在している。 そのような状況下で、自社の課題を解決できるようなアプリとは何だろうか ということを考えながら、アプリを作る必要があると竹中氏は語る。
「我々がアプリを開発した背景は、店舗が混んでいたからです。『混んでいるからスシローには行きたくない』という声をすごくいただいた。 それを何とか解決したいというところで、アプリを開発してお客様にご利用いただいています」
スシローアプリは、待ち時間を解消する予約機能のほか、さまざまな機能を提供している。そのアプリは、2018年3月末現在、累計で 870万ダウンロードを突破した。
アプリを中心としたCRMを推進
スシローのCRMは、アプリを中心に考えられており、メイン機能である「予約」の情報に、「来店情報」、「タッチパネルの注文情報」、「お持ち帰りネット注文の情報」、「会計情報」を連携させ、アプリ利用ユーザー毎に来店や注文を計測できる仕組みを構築している。
アプリを利用しているお客様に対しては、利用状況に応じた情報を提供することが可能だが、お子様やシニアなど、アプリを持っていないお客様に対しては、情報が提供できていない状態にある。 そのため、ターゲット別のコミュニケーションが打てる環境を整備し、アプリユーザーを増やす取り組みを行っている。
スシローには、「来店前」、「来店」「飲食(注文)」、「会計」、「支払い」といったフェーズで、アプリ上から何時に来店予約して何時に訪問、どの商品を注文し、いくら支払ったというデータが取得できる。これはお持ち帰りネット注文のテイクアウトでも同様の情報が取得できる。
その取得したデータを分析すると、女性よりも男性のほうが、客単価が高いことが分かった。そして年代別を見ると、10代から 30代になるにつれ客単価が減少し、40代・50代で増加するといった結果が見て取れた。
20~30代の人は食べる量も多く、客単価が一番高いと思っていたが、実際は 50代のお客様の客単価が他の年代よりも客単価が高いことが分かり、想定していた結果とは異なり驚いたと竹中氏は語る。
この他にも来店間隔のデータも取得されており、ある閾値を過ぎると来店感覚が拡がっていくことが分かったため、閾値にいるお客様にまず施策を打つといった優先順位の目安にもしている。
このようにこれまで取得できていなかったデータを取得・分析することで、いろいろな顧客層をセグメントできるようになり、お客様に対して、ターゲット別のコミュニケーションが打て、顧客満足度につながった。それが売上アップにもつながっている。
アプリ利用者を増やしてきたい
まだまだ課題は山積みである。 現在の来店状況を見ると、アプリを使って来店するお客様よりも、アプリを使わずに来店するお客様のほうが多い状況である。 都心部の混み合った地域はアプリを使っている割合が多いが、それ以外の込み合っていない地域ではアプリを使わずに来店されるお客様が多い。
「もともと、待ち時間を解消するためにアプリを開発したので、待ち時間がなければそれを使う必要性がなくなります。そのような状況下でもアプリをご利用いただく仕組み作りが必要だと思っています」
アプリをご利用いただいていないお客様にその理由を確認したところ、それほど行かないので予約はしない、シニアはスマホを持っていない、アプリを提供しているのを知らなかったなど、さまざまな理由があった。 そのようなさまざまな理由を加味した上で、アプリを活用していただく施策を考えていく必要があると竹中氏は語った。
ポイントプログラムも強化したい
2016年10月、「まいどポイント」がスタートした。このサービスは、アプリで来店予約後、店舗でチェックインするとポイントが貯まるサービスである。これはお持ち帰りネット注文の利用でも同様にポイントが貯まる仕組みである。 会員数は、2018年3月末現在で160万人。今後は非会員を会員にし、会員の利用促進を行うことで利用率を高めていきたいと語る。
「まいどポイント」を始めるにあたり、4つのフェーズに分けてトライ&エラーを繰り返し実施した。1つ目のフェーズは、メールマガジンを使って、来店頻度や客単価について調査した。2つ目のフェーズでは、1部店舗でスタンプカードを導入、どれくらいのインセンティブを付与すると来店率が増加するのかテストした。
3つ目のフェーズは、一部店舗でアプリ連携を行い、店舗のオペレーション設計や画面設計の見直しなどを行った。このようなトライアルを経て、2016年 10月にポイントプログラムの全国展開を行った。
サービスが開始して1年半たつが課題も出てきている。お客様からは、「ポイントをリセットしないでほしい」や「特典が少ない」、「ロイヤルユーザーだからもっと優遇してほしい」といった意見がある。
店舗からは、「オペレーションを簡素化してほしい」や「アプリユーザーが分かるようにしてほしい」などの意見があった。スシローでは、こういった課題を解決する取り組みを日々行っている。
CRMの改善は全体施策で
CRMを考える場合、他の企業での取り組んでいる内容と、スシローで取り組もうとしている内容とは異なります。と竹中氏は語る。
「スシローが考えるCRMは、お客様の『来店』にフォーカスし、顧客視点で物事を捉え、店舗運営の効率化も加味し、その上でビジネスインパクトが出せるような施策を考え、取り組んでいる」と竹中氏は語る。
「他社が取り組んでいるデジタルを活用したCRMの事例は多数あり、非常に参考になります。ただし、すべてがスシローに当てはまるというわけではなく、我々は多数のお客様のとのタッチポイントが店内外にあり、それらをうまく活用できる仕組みつくりが必要であると考えます」
「そうすると、自ずと全体構造の青写真を描き、その上でどのタッチポイントでどのような取り組みをするか?を明示するようにしています。その取り組みを通じて、スシローに来ていただいたお客様に喜んでいただけるような体験価値が提供できるように、日々取り組んでいきたいと思っています」
その上で、日々の情報収集は重要になる。「ただ、その情報が自分たちのビジネスにどのように落とし込み、社内で発信できるか?というのが大切な部分で、いろいろな取り組みを進める中で自分が動かしているんだ、という気持ちを持って仕事に取り組まれると、より面白みと深みがますと思います」と語り、セミナーは終幕した。