イケア・ジャパンは2017年にeコマースを導入。どの場所に居てもイケアの商品が購入できるようになった。今回、イケアのビジョンや理念を振り返りながら、現在注力しているマルチチャネル戦略や、リアルとオンラインとの関係性など、イケアが取り組むカスタマーエクスペリエンスについて語った。
イケア・ジャパン Multichannel Manager アーナー・アイドスクレーム氏
2月13日、UBMジャパンが主催する「マーケティング・テクノロジーセミナー」が開催された。イケア・ジャパンのアーナー・アイドスクレーム氏より「イケアが挑む Customer Experienceの革新」をテーマにした講演が行われた。
イケアは1943年、イングヴァル・カンプラード氏が17歳の時、スウェーデンで創業した世界最大の家具量販店。 創業者がElmtaryd村近くのAgunnaryd農場で育ったことから、「
Ingvar
Kamprad,
Elmtaryd,
Agunnaryd」の頭文字を取って「IKEA」と名付けた。 今年で創業して75周年となる。
より多くの方に よりよい生活を楽しんでいただきたい
イケアのビジョンは、常により快適な毎日を、より多くの方に提供することである。家具そしてビジネスを通して、よりよい生活を楽しんでいただきたいという思いがある。この考えはビジネスの理念にもつながっている。
つまり、優れたデザインと機能性を兼ね備えた商品を、より多くの方に、手頃な価格で提供すること。「より多くの方々」というキーワードが、イケアにとって非常に重要な部分を占めている。
この考え方は、製品開発する際にも活かされている。イケアはより多くの方がサステナブル(持続可能性)な暮らしが築けるよう地球規模で貢献したいと考えている。例えばお客様が購入された家具を買い戻して、リサイクルを促進していく。また、住宅などの電力供給のために、太陽光を使っていくような循環型社会の実現も、イケアが目指す戦略の一部となっている。
今まで出てきた内容は、イケアの「デモグラティックデザイン」というコンセプトにつながっている。デモグラティックデザインでは、商品が機能性に富んで、かつ品質も高く、優れたデザインであること。そして、お手ごろな価格であり、サステナビリティであること。この5つの要素を全て含んだものがデモグラティックデザインとなる。
「製品を開発する人間は、新しいものを開発する時、デモグラティックデザインが念頭にあります。決して妥協はいたしません。3つの要素が揃っていれば、残りの2つは捨てていいということではないのです。5つの要素全て含んだものがデモグラティックデザインです」
「サステナビリティが担保できないということが分かったら、その製品は販売しません。価格が高ければ、下げる努力をします。つまり私たちの事業のやり方、グローバルで事業を展開する根幹にあるのが、デモグラティックデザインである」とアーナー氏は語った。
マルチチャネルのリテイラーを目指す
イケアはマルチチャネルのリテイラーになることを目指している。これはどういう意味を持つのだろうか。それを紐解くカギは5つの領域から成っているという。1つ目は、イケアの根幹となっている「店舗」である。世界中に355の店舗を展開し、日本では9店舗を展開している。
2つ目は、「デジタル&eコマース」。イケアはここに注力しており、今後も投資を続けていく。いかにビジネスを拡大するかということを考えた時、我々のコンピテンシーを高める、つまりイケアによるビジネスの強みを活かして、デジタル&eコマースにおいて成長させるということである。
3つ目は、「新しいフォーマット」。イケアといえば“大型店舗“が特徴的だが、その地域の特性を活かした新しい提供スタイルを演出する、ということが新フォーマットである。例えば、スウェーデンのストックホルムでは、都市部の中心にキッチンをメインとした店舗を開店した。規模はより小さいけれど、近くに住むお客様は、キッチンで楽しむことができるようになった。同じようなことを日本でも、特に東京でできないか、現在模索中であるという。
4つ目は、「フルフィルメント」。フルフィルメントとは、商品を注文してから受け取るまでに発生する業務のことを表す。イケアでは、最も効率的で合理的な方法で注文された商品を届けなければいけないと考えている。そのためにはテクノロジーに投資し、将来にわたって成長を続けることを目指している。
最後は、「サービス」。商品のデリバリー、組み立て、取り付けなどはサービスとも関連している。これら5つの領域は、全てテクノロジーの高度化によって支えられている。「これら5つを強化するため、これからもテクノロジーに投資を続けてまいります。戦略的に連携し、大型の店舗にフォーカスし、さらにテクノロジーを導入し、また新しいフォーマットをいろいろなお客様へ提供していきます」と語った。
アーナー氏は、“我々は旅を続けている。これまでも長い旅を続けてきた”と話す。75年前にイケアが誕生してお客さまが急激に増えてきたことを考えると、次のステップに進む時期が来ていると語る。
先程述べたとおり、イケアはお客様中心主義でビジネスを展開している。しかし市場における変化があり、技術的な進歩が進んでいる。そして、多くのお客様がその技術を利用し、またイケアもそのトレンドを理解しながら、お客様と同じペースで進んでいく必要がある。
それがマルチチャネルの旅路、マルチチャネルの変革であるとアーナー氏は語る。さらに「お客様が本当に望んでいるのは何か、そしてそのニーズをどうやって満たすことができるかを考えている」と語った。
2017年にeコマース導入、O2Oの空白を埋めたい
イケア・ジャパンは2006年、千葉県船橋市に1号店をオープン。最近では、愛知県 長久手に新店舗をオープンし、現在9店舗を展開する。この店舗は今までのような大型店舗ではなく、かつ多目的な店舗ではない、新しいフォーマットとして、より多くのお客様に楽しんでいただけるように作ったものであるという。
イケア・ジャパンは、2017年からeコマースの導入を果たした。インターネット版カタログは長年から存在していたが、オンラインで商品を購入するということができなかった。これで日本中のどこに住んでいても、
オンライン上からショッピングを楽しめるようになった。
市場でもいろいろな変化が起こってきており、消費者の行動も変わってきている。特に日本では都市化が進んできており、どんどんと中心部の大都市へ人が流れている。「イケアは郊外の展開が主流なのですが、こういった都市部の方々にもアクセスできなければいけないことは認識している」と語った。
多くの消費者にリーチして、この都市化という現象に追随するために、イケアもお客様がいる場所に居なければいけない。「日本では、住宅に対する興味が上がってきており、インテリアに対する消費も上がってきています。日本のお客様は、自分の家をより良いものにしたいという気持ちがあり、自分の望む空間へ作り上げることに、皆さんお金を使い始めています。そういったトレンドも見受けられる」という。
最近では、オンラインとオフラインがスムーズにつながる行動が見られる。「例えば、店舗へ訪問して商品を触ったり、座ってみて、感触を試してみたりする。その後、自宅へ帰って一度検討してからオンラインで購入する。そういった消費行動が見られます」。
このような「ショールーム」と「Webルーム」をテクノロジーでシームレスにつなぐ、カスタマーエクスペリエンスを店舗でも提供する必要がある。「今後は、こういった店舗とWebとの間の『空白の部分』を、新しいフォーマットで埋めていきたいと考えています」。
すべての中心はお客様であり、店舗である
カスタマーエクスペリエンスを図で表現すると、以下のような形になる。全ての中心にお客様がいて、それを取り巻くようにソーシャルメディアやeコマースなどのテクノロジーを活用している。しかし、ブランドのアイデンティティは、あくまでも店舗にある。「私たちは店舗から始まり、そして常に店舗が中心にある。エクスペリエンスの最終目的地は店舗である」と語る。
そして、お客様は店舗で商品を見てインスピレーションを受ける。そして、「自分の家のインテリアをどうしようか?」というアイデアが湧いてくる。「それで店舗を離れたときも、ぜひお客様には自宅の静寂の中で、Webもしくはアプリを使ってインテリアのプランニングや購入を行っていただきたい。我々もそういうエクスペリエンスを提供して、これからも続けていきます」と語った。
商品を設置した場合のシミュレーションができるアプリ
イケアでは、カタログアプリやストアアプリのほか、AR拡張現実を活用した「
IKEA Place」アプリを提供している。例えば家具やインテリアが欲しいけれど、店舗になかった場合、またはカタログを見て、この商品がいいなと思った時、試したいということがあると思う。
そういった時、部屋へ置いたらどれくらいの大きさになるのか、その商品の色や形は部屋の雰囲気とマッチするのか、オンラインショップで購入する前に一度試してみたくなるものだ。そんな時、活躍するのがこのアプリである。
アプリを立ち上げるとすぐにカメラが起動、メニューからイケアの商品を選ぶと、スマホの画面に商品が出現して、指で商品を移動しながら、好きな場所へ設置できる。出現した商品は再現率98%を誇るため、スマホの画面を見ながら近づいていくと、まるでそこに商品があるかのように拡大したり、あるいは違った方向から商品を確認したりできる。
「我々は、シームレスなカスタマーエクスペリエンスの提供を信条としています。テクノロジーを使うことによってお客様が真の意味で、我々が提供できるものすべてに活用できると考えています。そのメリットを最大限に活かすことができると信じています」と語った。
さらに、「例えば、店舗や日本の新しいフォーマットなどが、将来テクノロジーの活用によって今後、お客様との接点を改革することを約束されています。そして本当に有望な、エキサイティングな未来が、イケアにとって展開されていくと信じています」と語り、セミナーが終幕した。