販促や集客、ブランディング戦略を読み解く専門メディアモバイルマーケティング研究所
神田昌典氏「マーケティングオートメーションの行き着く先はAI対AIの戦い。その時、企業はどう勝ち抜いていくのか?」
神田氏は、マルケトが日本にやってきた2年前にサービスを導入。 「一般的に、マーケティングオートメーションを使い始めた企業は、突然、お客様が集まり、売りが上がっていく。しかしライバル企業や業界全体がマーケティングオートメーションを導入したら、行き着く先AI同士の戦いとなる」。この言葉の真の意味とは、そしてそこから勝ち抜く方程式とは、いったい何か?
経営コンサルタント・作家 神田 昌典氏
10月13日、マルケトが主催する世界最大級のマーケティングカンファレンス「THE MARKETING NATION SUMMIT 2017」が開催され、経営コンサルタントで作家の神田 昌典氏より「『デジタル×アナログ=文理融合』で変革するマーケティングと営業」と題した講演を行った。
目次
開く
20年前から、マーケティングオートメーションの時代が来ると予見
神田氏は20年前、「あなたの会社が90日で儲かる」という著書で、いつかマーケティングオートメーションを使う時代が来ると思い、この手法を書き始めたという。 具体的には、「そのうち客」が「今すぐ客」へ進化していくステップをデータベースにより効率的に管理する「自動顧客管理システムのコンセプト」。 もう1つは、顧客ロイヤリティがどのように変化するかという「21日間感動プログラム導入による顧客ロイヤルティの変化」である。 このコンセプトは「カスタマーサクセス」という概念となって、マーケティングオートメーションの中でも一分野を築いているという。 「このように20年前から、マーケティングが大きく変わるぞということを予見し、そしてこの手法というものが、いかに短期間で売り上げ、いかに短期間でお客様をファンにしていくことができるか、私はずっと興奮していました」。7割を超えるマーケターが「この2年のマーケティングの変化は 過去50年よりも大きい」と解答
2013年アメリカでは、「“この2年のマーケティングの変化は、過去50年よりも大きい“ と言ったマーケターが75%もいた」と言われていた。 当時それだけ急激な変化が起こっていたという。 では、どのような変化があったのかというと、それは全て数値で把握され始めているということである。 これができたということは、やはりデジタルが当たり前のプラットフォームになってからなのだという。 「そのうち客」や「今すぐ客」は神田氏が考案した言葉であり、当時はとても画期的だと言われていた。 それが最近では、Suspect、Prospect、MQL、SAL、SQLなどに分けて呼ばれている。 「このように、さまざまな単語がありまして、今までお客様はひとつのお客様というカテゴリー、それが『そのうち客』『今すぐ客』『新規客』『リピート客』になった。それが15年前の話です。今やこれだけ数値で把握し、その数値をコンマ数パーセントのところで全部管理し始めています」。 神田氏は1年ほど前、「THE SALES ACCELERATION FORMULA」という本を読んで衝撃を受けたという。 この本は、計測予測可能な増収のために全てを数値化しようという試みが書かれたものである。 具体的には、お客様が何%で成約するかということではなく、さらに売り上げにつながるための営業マンがどれだけの成約比率を持っているか、その成約率の高い営業マンに育て上げるためには、いったいどのカリキュラムをどの程度習得すればいいのか、さらに育成可能な資質を持つ採用基準とは、いったい何なのかということが全て数値化していく方法論が書かれている。 「アメリカではマーケティングオートメーションが浸透した結果、2013年あたりから驚くべきクオリティの方法論が書籍化され始めました。 これが英語で書かれているものですから日本には伝わってきませんが、海外では全て伝わり始めている、このような状況です」。 「この本は『アクセル』というタイトルで翻訳されました。非常にいい本なので、皆さんお手に取っていただきたいと思います」。文系と理系をまとめ上げるリーダーが必要
これを実行するとなると、今までのマーケターの範疇では、先ほどの顧客エンゲージメント、エンゲージメントエコノミーに対応することは難しく、特に日本の企業では対応が難しい。 これらを解決する方法として、ひとつには「人材的な資質」があげられると神田氏は語る。 「今までのマーケティングというと、非常に浸透性のある、認知度も短期間で上げられるCMやクリエイティブを作り上げることが重要でした。 これが1980年くらいの話です。 ところが、今はどうなるかというと、統計分析というものがベースにあり、そこからアルゴリズムを作り込んで設計しなければいけない。 この双方が必要になるということですね。 もはや理系だけでいいのではないか、というふうに思われるかもしれません」。 「しかし、実際にABテストをしてみると、どんなに優れたプラットフォームを使ったとしても、最終的にはどんなビジュアルを提示するかによって、お客様の反応や売り上げが変わってしまうということがありえます。 文系と理系が集合もしくは統合された形、または異なる思考や、異なるスタイルの働き手を統合できるリーダー、これがいることが決め手となり始めています」。 さらに神田氏は、この2年のマーケティングの変化を使うと、今後50年を超える変化が起こせる、そういうタイミングであると語った。「憲法改正、どれくらい時間がかかったと思いますか? 1週間ですよね。 その1週間が70年間の、我々の世の中を築くのです。 変化を起こすのは ほんの一瞬です。 しかし価値のある変化というのは、永続的に影響を及ぼします。 今まさにそのタイミングなのです」。 現在マーケティングが経験している我々の新常識によって、事業はどう変わるのか、組織はどう変わるのか、人はどう変わるのか、社会はどう変わるのか、こういった視点を持って行動することによって、私達の仕事は長期間に渡って大きな影響力を与えることになるだろう。まずは誰に何を提案しているのか可視化すること
神田氏は2年前、マーケティングオートメーションをフル活用するためには、今の商品は、いったい誰が買っているのか、どのように買われているのかを可視化するため、自社のカスタマージャーニーを描いた。 そして、できあがったものを見た時、商品がありとあらゆるお客様に分散していて、いったい誰がうちの顧客なのか答えられず、うちには戦略が無かったということに初めて気付かされたという。 「きちんとマーケティングオートメーションを使いたいのであれば、まずは誰に何を提案して、次は誰に何を提案するのか可視化することです。 皆さまのお客様が、どのように会社のファンになっていくのか、という道も分からなければ、複数のカスタマージャーニーを把握することは難しいです」と語る。 それからもう1つ言えることは、粗利の高い商品を作っていかなければならないことである。やはり100円、200円の商品ではなかなかビジネスモデルが成り立たない。 そして、一度獲得したお客様をエンゲージしていくためにはどうすればいいかを考えていかなければならない。 「エンゲージとは、いったい何だと思いますか?英語で『巻き込む』という意味ですが、この場合は、エンゲージメントのというところから『婚約する』という意味になります。だから、生涯にわたってお客様に愛される会社でありたいよねということです。 つまり、きちんとお客様をエンゲージできるための商品戦略が必要になるわけです。 カスタマージャーニーを整理するのは事業戦略です。 さらに商品戦略が必要になるわけです」。 「これはひとつのツールを導入するという範疇ではないということが皆さんよく分かると思います。 これは経営の大変革です。 経営トップが、意思決定を持ってやらなければいけないことなのです。 そのため、社長直轄の部署を作ったとしても、デジタルフォーメーション推進部を作ったとしても、何も動かないということは現実的なところです」。最新デジタルツールの行き着く先は「AI同士の戦い」
デジタルの最新ツールを使いこなしたはじめの企業は、突然お客様が集まり、売りが上っていくだろう。 ところが、ライバル企業がマーケティングオートメーションを導入したら、どうなるのだろうか。 「すなわち、最新デジタルツールは行き着く先、人間同士の戦いではなくAI同士の戦いになります。つまりアルファ碁とアルファ碁が対戦しているようなもので、人間はどういう価値を提供できるようになるのか。 これは1社だけで考えたら効率が悪いのです。 業界の全社がマーケティングオートメーションを導入し始めたらどうなりますか? このポイントを考えないと道を誤ります」。 神田氏は、Web制作を営むクライアントに起こったことを例に取り上げた。その企業は今まで30万円でランディングページの制作を行っていた。しかしある時、競合他社がランディングページの広告を出すようになってから、2週間後には価格が15万円まで下落、さらに1週間後、制作費用を無料にしないと通らなくなったという。 「『価格の下落が止まらないです』『競合がすぐに、下をくぐってきます』『もはや消耗戦です』というような状態です。 これはマジで起こります。 だからどんなに働いても忙しくなる状況になります」。 「すなわち差別化できない商品を売っている限り、急速に利益が出ない水準まで追い込まれるというのが、デジタルトランスフォーメーションの特徴です。 会社の真の強みに基づく商品、真の強みに基づく事業なしには、このデジタルトランスフォーメーションに勝ち目はありません」。 真の強みに基づく事業や商品を見出すことで、事業のシンプル化が加速され、より利益率の高い事業に集中投下できるようになると神田氏は語った。マーケティングオートメーション稼働に向けての問題点
より大きな企業になると、さまざまな壁が立ちはだかる。 「検討」「構築」「リリース」「運用」と全ての段階において壁があり、具体的には以下のような事例がある。 ◆検討- 組織は作ったが、何をすればいいのか分からない(PLAN)
- 施策の優先順位付けができない(DO)
- 検討するための、検討会の開催を検討する(SEE)
- 社内レギュレーションの壁にぶつかる(PLAN)
- 関連部署との連携がうまくいかない(DO)
- 細かい取捨選択ができない(SEE)
- 誰に発信しているのか、皆目不明のサイトができ上がる(PLAN)
- 営業現場と異なるターゲットを対象とした内容(DO)
- 商品・サービスの訴求ポイントがずれている(SEE)
- 「今すぐ客」以外の部署がなく、顧客対応の押し付け合い(PLAN)
- PDCAを回すためのヒト・モノ・カネを確保できない(DO)
- フォローできない顧客からのクレームが来た(SEE)