今回、データドリブンマーケティングを実践する企業として「リクルートライフスタイル」と「メルカリ」をお招きしパネルディスカッションが行われた。 「オフライン施策を見える化する方法は?」「検証パターンを最適化する方法は?」「データドリブン企業の作り方」などの質問に対し、B to B、C to Cという立場から事例を交えて語られた。
左より、株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 データマネジメントグループ マネージャー 井原 真吾氏 / 株式会社メルカリ プロモーショングループ シニアマーケティングスペシャリスト 鋤柄 直哉氏
9月27日から9月28日まで翔泳社が主催する「MarkeZine Day 2017 Autumn」が開催された。リクルートライフスタイルの井原氏とメルカリの鋤柄氏をお招きし、「デジタルマーケターはオフライン施策をどう料理するのか?データドリブンマーケティング最前線」をテーマにパネルディスカッションが行われた。MarkeZine編集部の江川氏がモデレータを務めた。
リクルートライフスタイルでは、「じゃらん」「ホットペッパーグルメ」「ホットペッパービューティ」「Airレジ」などの事業を行っており、井原氏が所属するデータマネジメントの部署では、システムDBやアクセスログ、アンケートなどのデータをDWHへ集積し、そこからオペレーションやコールセンターが利用するASPやMA、BIなどのデータ基盤定義、業務の問題解決を行っている。
鋤柄氏は、メルカリ日本エリアのオンラインマーケティングとオフラインマーケティングを担当している。 オンライン施策では、デジタル広告の出稿からSNSを活用したプロモーションを行っている。 オフライン施策では、テレビCMやリアルイベント、イベント協賛&タイアップを強化している。
オフライン施策を「見える化」する方法とは?
――具体的にどのように、「オフライン施策をデータドリブンに」回しているのでしょうか? オンライン施策に加え、テレビCMなどのオフライン施策にも取り組まれている鋤柄様にまずおうかがいします。
鋤柄)オフライン施策はリアルの場面でやるものなので、なかなかデータ化しづらい面がありますが、そこを
きちんとデータを取って「見える化」するところが必要だと思います。 メルカリではオフライン施策を大きく2つに分けて考えています。
一つはKPIを設定しきちんと数値を見て効果検証を繰り返す施策と、二つ目は、あえてほとんど数値的なKPIは設けずにPR・ブランディング目的でやっている施策があります。後者の施策は認知やマインドシェアを上げる意味でも、フリマアプリ利用の潜在層を拡大するという意味でも継続的に実施していくことに意味があると考えています。
――「効果検証を繰り返す施策」というところで、メルカリさんが特に取り組まれているのが「TVCMの放送枠の最適化」だとうかがっておりますが、そのあたりいかがですか?
鋤柄)そうですね、テレビCMの最適化という意味で言うと、「視聴率」以外にTVISION INSIGHTS社が提供している、視聴者の視線や表情などの視聴態勢をデータ化した「視聴質」データを見ています。
それは、そもそも視聴者は、テレビが付いている時間帯にテレビの前にいるのか、そして、そこに居たとしてもはたしてテレビを見ているのか、という疑問は「視聴率」だけでは判断できない、と思ったことが導入のきっかけでした。
「1CMが流れる価値」がどこにあるのか約2年前からPDCAを回していて、時間帯や番組内容、あとはCMチャンス内のポジションなどいくつか指標を設けて最適化の方法を模索し続けています。
――井原様にお伺いしたいのですが、C to Cのメルカリ様に対して、リクルートライフスタイル様のAirレジは店舗を主なターゲットとしたB to Bということで、向き合うお客様の数が少ないと思いますが、どのような違いがありますか。
井原)Airレジや新規事業をとっても、B to CよりB to Bのほうが、1アカウントあたりの重みがあるので、多くのデータを活用した施策を行っています。 アカウントを獲得するところまでが重要ですが、それ以外に例えば アクティブ化(AC)したお客様が、特定の促したいアクションにつながりそうかどうかを機械学習を使ってスコア化していって、それによってコールセンターや営業の
接し方を変えていく、というところに比重を置いています。
新聞やテレビなど、さまざまなメディアを打ってきましたが、B to Bの場合、一方で、対面営業や返信コールも、ある意味メディアの1つでありチャネルの1つなので、そういったものを認知して、アカウント登録していただいたタイミングでどういったところから流入し、その後アクティブ化しているか、各メディアの流入や離脱を見て最適化しています。
あとは、Airレジの使い方というマニュアルを送るだけでアクティブになる確率が高くなるので、例えば、テレビCMを見て入ってきた人にマニュアルを送付するとどれくらいアクティブになるのか検証するなど、そういったものを「エリア」と「時期」に分けて、認知からアクティブ化までの流れについてデータをもとに評価しています。
ただし、やりすぎてしまうとパターンが複雑化していきますので、その中でオペレーションが回る設計を考えています。
鋤柄)この流入経路の判定って、DMやWebは分かるのですが、新聞やテレビ、対面営業などはどういう考えでやられているのですか?
井原)これはいろいろなパターンをやってみたのですが、複雑なことをやると運用が回らないなと気づきまして、それからアカウント登録完了時に書き込むアンケート内容を見るようにしていました。
そこである程度分けた上で、例えば「テレビCM」と入力した人が結構いるけれど、それはテレビCMを打った当日に増えているのか、もしくは翌日なのかと、基本的に見るところを決めた上で、媒体ごとにおかしな動きがないかを確認していました。
複雑化する検証パターン。どれを重視するか?
――やりすぎると複雑化しすぎてしまうというお話がありましたが、ROI上どこかでデータドリブンの追求を止めなければいけないと思いますが、その工夫はありますか?
井原)データドリブンにしすぎないところで言うと、やはり「アトリビューション系」のところって、やろうと思えばいくらでもやれる余地はありますね。というのも、他にも残存効果などもありえたりするのですが、気にしすぎると最適化というのが見えてこなくなってしまいます。
一方で 「アクティブ化」に関しても、レジってアカウント登録してから実際使用するまでに時間がかかるのですよ。全従業員に教えてから導入される店舗もあります。 登録からアクティブ化までに1か月かかるクライアントは何%という予想データは集計していて、それらをもとに
期待値を出して、媒体ごとの最適化に活かす作業をやっていました。
――ありがとうございます。鋤柄様はいかがでしょうか?
鋤柄)大きいところで言うと、データが取れる施策、取れない施策があるので、データが
取れない施策ではデータによる判断は下さないと決めています。
デジタルの施策は基本データでの結果が全てだと考えていますが、オフライン施策もデータで全て判断しようとすると、実施できる施策がかなり限定されてしまうので、サービスとしても縮小につながってしまうと考えています。あえて効率性を追い求めすぎない、という考え方も大事かなと思っています。
具体的には、リアルイベントやPRイベントはデータはあまり見ずに実施している施策でもあります。イベントはダウンロードやアプリの利用につなげにくいので、「メルカリ」を知ってもらうことはもちろんそうですし、さらに「フリマ」というものに触れてもらって、
潜在層を拡大していくというような考えでやっています。
ただメルカリのアプリ認知層やアプリ利用者数もかなり増えてきましたし、メルカリチャンネルというライブフリマの機能がリリースされており、こちらはイベントなどと相性が非常に良いので、状況も変わってきました。今後はイベントなどの施策でもアプリ利用につながるようなアプローチ方法を検討していこうとしています。
またオフライン施策を実施するかの判断をする際に意識しているのは、サービスの利用シーンがきちんと露出されているか、というのを基準としています。 PRイベントをやっても、メルカリのロゴが出ているだけでは意味が無いので、イベントの中でメルカリを使って、例えば、芸能人が出品している様子をテレビ番組やWebメディアに流してくれるのかというところを選ぶ基準として考えています。
テレビCMで言うと、サービスのフェーズで考え方を変えています。 始めのころはサービスの認知が少なく、ユーザー数も少なかったので、「新規ユーザー獲得」のためにテレビCMを打っていました。 具体的に言うと、「CMを流している期間」と「流す前の期間」を比較するとCPIに明確な差が数値で出ていたので、そこはCM効果としてカウントしていました。しっかりKPIを設けて、データによる効果検証を行っていました。
ですが現在ではCPIを見ていません。 なぜなら、1日のインストール母数が3年前と比較して大きく変わっているので、差分がなかなか見えにくくなってきているからです。 それと、テレビCMを打つ目的が「新規ユーザー獲得」だけではなく「既存向けキャンペーン告知」が目的として増えてきているので、CPIだけではなくオフライン施策全体として、認知やマインドシェアがどう変わったのかを見るようにしています。
データドリブンを実現する組織の作り方
――続いて、データドリブンを実現していく上で、どのように組織を作るのか、お話を聞きたいと思います。井原様お願いします。
井原)そうですね、私のところでは2年前、組織を作る前にプロジェクトを立ち上げました。 マーケティングや営業、CRMを全て横串で通すというのは、組織として本当に効果があるのか私自身分からなかったので、予算に余裕のある時期を狙って「プロジェクトとしてこういうのをやらせてください」と話しました。 その後、ある程度の効果が出てきたので、組織化をしました。
やはり、データドリブンでマーケティングや営業を動かす時、
重要だと思っていることは、そもそも上層部がデータに興味を持っていることであり、上層部がデータをもとに意思決定をしているという状況が非常に重要だと思います。 というのも、上層部がデータを見るということが当たり前だったら、部下が作った提案資料も「データの根拠が少ないんじゃないか?」と返してくれるので、組織が回りやすいなというのを感じていました。
そのために部下がやったことは、当時執行役員のパソコンを借りてきて、そのパソコンにTableauやよく使うSQL集を導入して、ラーニングしていく。 その後、ある程度使っているなというのが分かってきたら、その方に「部下としてこういうことを言ってほしいです」と働きかけていました。
鋤柄)弊社の場合はリクルート社と比べると組織は小さいので、なかなか組織づくりというほどのことはしていませんが、グループ同士で共通の数字を追いかける意識は必要だなと思いました。 弊社に「データアナリスト」という組織があるのですが、
各部門が共通の数値目標を追いかけるというのはすごく大事だなと思います。
井原様は、社内の数字をどう追いかけているのですか? 組織が大きいからこその課題はありますか?
井原)そうですね、弊社では「ガバナンス」と呼んでいるのですが、データのガバナンスをきちんとしておかないと駄目だと思います。 うちとして1つポイントだったなと思うのが「データマート」というのが存在するのですが、さまざまなところにあるデータをこの1つのテーブルに集約して日次で更新される「データマート」というのを作りました。
基本的にこれがあると、みんなこの数字が正しいというふうに扱うようになってきたので、結構「データマート」を整備したのが大きかったなと思います。 あと、各人がTableauで1,000近い大量のレポートを上げているのですが、「データマート」がしっかりしていたことで、ある程度「ガバナンス」が効いている状態になったと言えます。
これからのマーケターに求められる能力とは?
――これからのマーケターに求められる能力とはどういうものかお伺いしたいと思います。
鋤柄)そうですね、
一言でいうと、「考える力」なのかなと思います。 最近話題の自動化というのも、結局人が自動化の設計をしなければいけないですし、弊社で取り組んでいる広告でも、ユーザーのインサイトを考えてどのクリエイティブを出すのが最適なのか、ある程度目的設定は、マーケターの考える力が必要になってくると思います。
井原)弊社の場合、いろいろな事業でMAツールを3つほど入れているのですが、やはりやってみて思うのが、MAツールだけで完結することは当分ないなと実感しています。 そうなってきた時に私は「マーケター X ○○」みたいな、
ちょっと一歩先を行くところができる、というところが設計をする上で重要になるのだろうなと思っています。
マーケターだけど、SQL書けますとか、Cookieの仕様が詳しいですとか、オペレーション設計ができますとか、データ基盤ができますとか、今マーケターに求められることはどんどん増えてきている時代なので、そういう横の事業を促進できる人材が求められてくるのだと思います。
これは私の持論なのですが、
ほとんどの仕事って問題解決だと思うのですよね。 マーケターはマーケティングという武器で問題解決しているのだと思います。 そういう考えに立つと、コールセンターを設計するときも、営業部隊が営業企画的な仕事をするときも、そんなに大きく変わるものではないと思います。
それで私が超一流のエンジニアになるというのは正直難しいと思っているのですが、一定レベルの話ができる状態になるというのであれば、半年兼務して勉強させてもらえば、結構なれるという実感があります。 だから変に苦手意識を持たずに、その部門の問題解決をしに行くのだという思いでやれば、なんとかなるものだと思います。 まずは、行動に移すことが重要だと思います。
――日本の組織は、ジョブローテーションがあるからマーケターとしてのスキルが蓄積できないことがよく問題視されますが、井原様のお話では、兼務することで雪だるま式にできることが増え、俯瞰的な仕事ができるようになる、と。これは、日本型組織に属するマーケターにも実現可能な、魅力的なキャリアパスなのではないかと、興味深く思いました。お二方とも、今日はどうもありがとうございました。