モスバーガーやユナイテッドアローズが語る、お客様を振り向かせファンを育成するオムニチャネル戦略とは?

 Post by MML編集部
本記事は、宣伝会議が主催する「インターネット・マーケティングフォーラム2017」より、「企業のデジタルシフト お客様接点の多様化はビジネスチャンス」と題したにパネルディスカッションの模様をお届けする。ユナイテッドアローズの高田 賢二氏とモスフードサービスの齊藤 雅久氏をお招きし、モデレーターは月刊「宣伝会議」編集長の谷口 優氏が務めた。
(画像右から)株式会社モスフードサービス 営業企画部営業サポートグループ・Webマーケティングネット注文推進担当グループリーダー 齊藤 雅久氏 / (中央)株式会社ユナイテッドアローズ 執行役員 事業支援本部 本部長 高田 賢二氏 /(左)株式会社宣伝会議 月刊「宣伝会議」編集長 谷口 優氏
モスフードサービスの齊藤氏は、マーケティング調査会社から1996年に同社へ入社し、店舗開発部で各調査を担当した。その後、マーケティング室で企画や販売促進、ダイレクトマーケティングの部門を担当。現在は営業企画部営業サポートグループに所属し、店舗現場の中でデジタルを活用できる機会を創出している。 モスバーガーにおけるデジタル施策の取り組みは、2008年フィーチャーフォンが主流だった時代、「モスWEB会員」向けの携帯サイトを開設したところから始まる。その後Twitterや公式アプリの開発を経て、2012年4月に「モスカード」を導入し、ロイヤルカスタマーとのエンゲージメントを醸成した。 2015年2月、スマートフォンから事前注文すると、指定した時間に商品が受け取れる「モスのネット注文」を導入。2017年は電子マネーやクレジットカードを導入し、さらなる利便性を向上する施策を行う予定。

チラシの効果が薄くなったと実感

モスバーガーが考えるカスタマージャーニーでは、お客様が自宅にいてテレビCMやチラシを見たりするが、新聞の購読率の減少を考えると、チラシの効果は薄くなったと感じているようだ。そうするとスマートフォンを活用してお客様に情報を届けるのが重要になってくる。 例えば空腹を感じて「今日は何を食べようかな」と考える、お昼頃の11時にモスバーガーの情報をタイムリーに送るなど、お客様にとっていいタイミングになおかつ邪魔にならない頻度で情報を送ることが大事だと話す。 そして、モスバーガーに来店するお客様を調査すると、全体の6~7割は店舗の前を歩いている人や、店舗周辺に仕事、用事があった方であるため、店頭の看板やツールを使って商品をアピールすることも重要と考えている。 また商品を食べていただいた瞬間に「美味しい」と感じていただけるか、対応したスタッフの印象は良かったのかなどが再度来店に大きく影響しているため、高評価をいただければよい口コミや情報が広がる可能性が高い。商品を提供する店舗での体験評価は大変重要であることから、ミステリーショッピング調査を行ない、年間を通じて改善活動を行っている。

加速するファッション業界のEC化

続いてユナイテッドアローズの高田氏は2007年に同社へ入社し、現在では事業支援本部の本部長を務めている。事業支援本部とは、情報システムや物流、在庫管理、デジタルマーケティング、お客様相談室、販売支援などさまざまな業務をまとめている。 ファッションに関連したリテール市場はEC化が進んでおり、ユナイテッドアローズ社単体売上の16%はECサイトによるという。それを今期は18%、長期的には25~30%という実績を計画している。 現在、ユナイテッドアローズではハウスカードの会員がおり、自社ECと実店舗を併用されているお客様の年間購入金額は、自社ECサイトのみをご利用されるお客様の約5倍も高いと高田氏は語る。 「お客様ご自身がチャネルを意識せずシームレスに購買している。現在はマーケットも低迷していますが、お客様のお金の使い方や商品の買い方、ファッションの価値観も非常に変わってきていますので、我々もECや実店舗を含めてシームレスなチャネルを開発し、お客様とのタッチポイントを増やしていくことが大事だ」と語った。 「シームレス化を目指すと、リアルとデジタルで取得したお客様データを統合していくことが重要になってきますよね」と谷口氏のコメントに高田氏は、ユナイテッドアローズではハウスカードを始めて約10年になるが、プログラム、サービス、インセンティブの分野において、改めてCRM戦略を見直したと語る。 「これまではどちらかというとお客様を囲い込むスタイルをとってきましたが、お客様との接点を増やすほど、我々のエンゲージメントである良質なコミュニケーションも重要だと感じています。そのために顔と名前が分かる会員活動ということで、改めて2つ存在したEC用と店舗用のカード情報を統合し、いつでもどこでもシームレスにお客様がお使いいただけるような活動を進めている」という。

「モスのネット注文」を開始した2つの理由

シームレスといえば、モスバーガーも「モスのネット注文」を実施している。構築した理由について1つは、モスバーガーでは昔から、電話で商品を注文し店舗へ受け取りに来ていただく「電話注文」というサービスがあり、スマートフォンで注文出来る様になればお客様の利便性が高まるのではないかと考えたから。 2つ目は、お客様がレジでメニュー表を見ると、商品の多さに選びづらく、後ろに並ばれているお客様のプレッシャーもあって、「いつもので」と定番商品を選んでしまう傾向があるため、ゆっくり自分のペースで商品をオーダーできるようにした方がいいと考えたからである。 「モスのネット注文は、自分の好きな時間にゆっくり商品を選んで、併せて商品のこだわりもご覧いただけるものになっています。じっくりと商品を選び注文できるところは、システムとして非常にお客様にマッチしていると思う」と語る。

いつでもスマホで検索できる現代のお客様

スマートフォンを手にした、現代の消費者はいつでも、どこでも、好きな時に自分が気になる情報を検索できる環境にあるが、そのせいで自分が興味ある情報にしか触れず、行動範囲が偏ってしまい、新しい企業や商品、情報と接点を作ることが難しくなっているのではないかと谷口氏はコメントする。 そのような消費行動について高田氏は、「当店にご来店されるお客様の95%は目的買いで、以前のようにふらっと店舗へ行くというお客様は少なくなっています。それはお客様自身がスマートフォンで情報を収集しているためだと考えています」 「最近では試着室の利用時間が長くなっており、欲しい商品をすぐ手にとった後、試着室で写真を取ってSNSで共有するお客様が多くなっています。当社の強みは伝える提案力ですので、我々も満足してご購入いただけるような接客を行っていきたい」と語った。 また齊藤氏は、「現在はソーシャルメディアから新商品や期間限定、キャンペーンなど、さまざまな企業から投稿されていて、我々もその中に埋もれないよう意識しています。今まではタイミングに合わせて新商品が出ましたよと投稿していましたが、それよりもこの商品はどういう良さがあるのか、生活者のインサイトに入るような内容や提案にしないと、お客様には伝わらない」と語った。

スマホ中心のお客様と接点を作るには?

来店されるお客様について高田氏は、スマートフォンを持って来店されるお客様にはさり気なくお声がけし、さり気なく提案する接客アプローチを意識していると回答。一方、ある店舗では、お客様にお声がけをせず自由に回っていただいて、結果的に決めかねた時に最後のひと押しをしているという。 「お客様のインサイトを捉えるといっても、店頭でお客様と接するスタッフの察知力に依るところが大きいですよね。サービスの質とひとことで言っても手厚く丁寧な対応を求めていらっしゃる方もいれば、あまり接客されない方が心地よいと思う方もいる。また同じお客様でも、その時々によって求める対応は変わりますよね」と谷口氏がコメントすると、齊藤氏は、お客様も非常に多様になってきていると回答した。 「よく来店される常連様は顔やオーダー商品等についてスタッフが分かっているケースがあります。ただお客様への接し方、深度に関しては多様化していて、スタッフには何気なく対応してほしいと思っている方もいます。可能な範囲でPOSレジやアプリで対応支援ができればいいと思っていますし、そのようなデジタルシステムを構築しようと考えています」と説明した。 とはいえ、ここ最近ミステリーショッピングの重要性について非常に感じていると齊藤氏は述べた。「お客様が入ってきた瞬間、商品を食べていただいた瞬間、お帰りいただく瞬間、この3つの瞬間を店舗の方では非常に大切にしています」 「この瞬間がきちんと提供できなければ、デジタル施策でお客様を集客したとしても、最終的に店舗の評価が悪ければ、デジタルでのは顧客接点作りは成功といえない。店舗体験価値がよい前提で、表面上に見えなくてもいかにデジタル施策によって集客を支援ができていればいいと思っている」と自身の心境について語った。

ユナイテッドアローズの未来とは?

谷口氏が、「ブランドが確立され熱狂的なファンがいる2社だから、既存の事業領域からからブランド拡張し、新たなお客様との接点をつくる、新しい事業や商品のアイデアについて何かありますか」と質問。 高田氏は、これまで洋服屋としてお客様にブランド価値を提供していたが、当社の理念である「新しい生活文化の規範となる価値観を創造」していくために、今年から中期ビジョンの4つの戦略のうちの1つとして、衣・食・住・遊・知の「衣」以外の新しいドメインにも拡大していく予定であると答えた。 さらに、デジタル化を受けて、ここ数年、未来の洋服屋とは何か、さらにユナイテッドアローズの未来とは何かについて多くの方と議論を重ねており、これまでにない新しい試着、そして新しいサービスを今後立ち上げたいと語った。 「そうですね、さきほど試着する時間が長くなっているという話がありましたが、試着することは1つのエンターテインメントになりつつあるということですね」というコメントを受けて、高田氏は「我々はお客様の購買行動や購入情報を持っています。お客様も知っています。しかし試着情報というのは我々も持っていないし、お客様も持っていない。それをビッグデータ化して、お客様の購買活動につなげる仕掛けを考えている」と説明した。 「何を買ったかの履歴は残っても、試着したけれど似合わなくて買わなかった商品の履歴は、誰も持っていないというのは面白い発想ですね。今後に期待します」と谷口氏はコメントした。参加者はパネリストのコメントにうなずき、時にはメモを取るなど、パネルディスカッションは大盛況のうちに閉幕した。