本記事は、2月15日に開催されたUBMジャパンが主催するイベント「
TFM マーケティング・テクノロジーフェア 2017」より、インフォバーンの佐藤 秀樹氏の講演「『ユーザーを集めるだけでは終わらせない』事業に貢献するコンテンツマーケティング最新事例」の模様をお届けする。
株式会社インフォバーン 執行役員 佐藤 秀樹氏
インフォバーンは、「WIRED 日本語版」を創刊した小林弘人氏を中心に、編集の人たちが立ち上げた会社。その後、「
ギズモード・ジャパン」を立ち上げたほか、同社グループのメディアジーンでは、「
ライフハッカー[日本版]」「
カフェグローブ」「
DIGIDAY[日本版]」など12個のメディアブランドを運営している。
このようにインフォバーンでは、メディアの運営ノウハウを活用して、企業のオウンドメディア支援や
オウンドメディア評価サービスなどを行っている。企業の担当者によっては、オウンドメディアを運営しているけれど、ギズモードやライフハッカーのような、メディアを運営したいと思う人も少なくない。
今回、オウンドメディアとメディアの違い、両者の売り方の違い、メディアを運営するメリットやメディアを運営する課題などを語った。
「オウンドメディア」と「メディア」は違う
企業の担当者と話をすると「オウンドメディアのユーザーが増えると自社ブランドが売れるようになると思い込んでいる」ケースをよく聞く。「これは、“コンテンツマーケティングの考え方”と、“メディアを育てる考え方”は似ているようで戦略的に大きく違う」ため、誤解を生じていると佐藤氏は語る。
では「コンテンツマーケティングの基本」とはどういうものだろうか? それは、ユーザーが興味・関心を持つコンテンツを活用して、ブランド・商品の価値への気づいてもらう。そこから見込み顧客の獲得や、購入への誘導、ブランドのファンになってもらうことを目指すものである。つまり、ブランドや商品の価値に気づかせるのが、コンテンツマーケティングの価値であると言える。
それに対して「メディアを育てる」戦略の考え方とは何だろうか? それは、特定の価値観やメッセージを持ったコンテンツによって、その価値観に共感させること。共感させることで読者を増やし、そこからビジネスを生み出す手法である。
そのことについて佐藤氏は「弊社のギズモード・ジャパンは、デジタルガジェットが大好きな人が毎日読んでいるメディアなのですが、場合によっては『この新機種は全然良くない』という記事も書きます。そうすると、ガジェットが好きな人たちだからこそ、有りだ・無しだという議論があって、そこから正しい情報発信をしてくれているということに共感が生まれてくる」と語った。
共感が生まれるから商品を見てもらえる
では、コンテンツマーケティングとメディアによる、「売れる」構造の近いとはどういったものだろうか?「コンテンツマーケティング」の売れる構造とは、「例えば、今まで知らなかったブランドがあって、自分と同じ趣味の人はみんな買っているんだ。気になるから調べてみようかな」という気づきと興味が売れる構造であるという。
一方、「メディア」の売れる構造とは、「このメディアはいつもお洒落で好きだな。このメディアが紹介しているブランドは買ったら間違いなくお洒落な生活ができるだろうな」という共感が売れる構造であるという。
ファンを最優先にしない。そしてポリシーを明確化
このことを理解すると、いくつかの課題が見えてくる。例えば「ファンを増やせない」という点では、メディアのファンを求めるのなら徹底して「共感するメディア」を目指さなければいけない。一方、ブランド(オウンドメディア)のファンを求めるのなら、「ブランドのファンにさせるコンテンツ」でコミュニケーションする必要がある。
そして「コンテンツの質が低い」という点では、そもそも質をどう評価するのか明確にする必要がある。ファンを増やさないということを踏まえて、何についてのコンテンツをどう高めていくのかを決定して、質を向上してほしいと佐藤氏は語った。
メディアを運営するメリットとは
では、メディア戦略をどんな価値が生まれるのだろうか?まずは、公開したコンテンツがキュレーションされるようになる。つまり、公開したコンテンツが多くのメディアに集約され配信されるので、FacebookやTwitterなどのソーシャル・メディアでシェアされ、拡散力が非常に高まっていく。
一貫した情報や価値を提供できるメディアであれば、ファン(読者)が増えていく。更にメディアを通じて、ユーザーと直接つながることができる。例えば、セミナーや体験モニターなどのイベントが実施しやすくなる。最後に、一貫した情報を提供しているので、ユーザーの心を動かすことができる。
アクセス数は増えるが課題もある
これだけ価値があって魅力的であれば、すぐにでもメディア戦略を行ったほうがいいと思うけれど、それにはさまざまな道のりや課題がある。まずは、読者を魅了するコンテンツ作りは難易度が高い。インフォバーンで支援する幾つかのメディアは、編集メンバーをアサインして、独自に編集部を立ち上げている。それだけユーザーが共感するコンテンツ作るのには負荷がかかる。
本当にユーザーが共感するメディアを作るためには、オウンドメディアのように自社ブランドを積極的に紹介するよりも、いま世の中でトレンドになっていることを発信していかなければならないため、ブランド訴求から遠くなってしまい、結果としてビジネス貢献がしにくくなる。「そのため、メディアを突き詰めていくと、最終的には広告収入を上げるような事業しか道がなくなってしまう」とメディアの課題感を語った。
先程のように、編集ができる人をアサインし、時間をかける分、それだけのコストがかかってしまう。どんなにしっかりとした戦略を立てても、コストはそうなってしまう。
「これら諸々の課題感を自社で受け持つぞ、という企業様はその覚悟でメディア運営していただくといいのですが、やはり負担が大きいので、そこは戦略的によく考えていったほうがいいかなと思う」と佐藤氏は語った。