2月14日から15日まで、UBMジャパンが主催する国内最大級のマーケティングイベント「
TFM マーケティング・テクノロジーフェア 2017」が開催された。
インフォバーンの佐藤 秀樹氏より「『ユーザーを集めるだけでは終わらせない』事業に貢献するコンテンツマーケティング最新事例」と題して、オウンドメディアで陥りがちな失敗事例や、それらを解決する具体的な方法について語った。
株式会社インフォバーン 執行役員 佐藤 秀樹氏
インフォバーンは、「WIRED 日本語版」を創刊した小林弘人氏を中心に、編集の人たちが立ち上げた会社。その後、「
ギズモード・ジャパン」を立ち上げたほか、同社グループのメディアジーンでは、「
ライフハッカー[日本版]」「
カフェグローブ」「
DIGIDAY[日本版]」など12個のメディアブランドを運営している。
このようにインフォバーンでは、メディアの運営ノウハウを活用して、企業のオウンドメディア支援や
オウンドメディア評価サービスなどを行っている。企業の担当者に話を聞くと「ユーザー数はすごく増えたけど成果につながらない」「商品の魅力につながっていない」「コンテンツの質が悪いように感じる」という声をいただくことが多いという。
佐藤氏は、そうなってしまった原因をいくつかのケースを交えて、どう解決していくかについて説明した。
成長ステップがイメージできていないという悩み
企業担当者と話をすると「そもそもどんな成果が得られるのか、イメージできていないという回答が意外と多い」と佐藤氏は語る。その際、よく出てくるキーワードは「スモールスタート」であるという。予算も限られており、いきなり成功するわけでもないため、オウンドメディアをスモールスタートしてみたけど何がどうなったら次のフェーズに進むのか、最終フェーズはどうなりたいかという成長ステップがイメージできておらず、スタート状態から抜け出せない企業が多いそうだ。
それでスモールスタートするときのプロジェクトはどんな戦略イメージを持たれているのかを担当者に伺うと、まずはコンテンツの更新する体制を整え、コンテンツの本数を増やし、ユーザーの反応を見ながらPDCAを行い、ある程度の成果が出たら、本来目指すべき戦略へ移行していくことをイメージされているという。
それで、スモールスタートのKPIが「PV数」としている企業は、とても問題であると佐藤氏は述べた。
PV数を目標とする問題点とは
そのことについて佐藤氏は「PV数が増加したとき、ユーザーの反応を見てPDCAできることって何だろうと考えてみると、意外と限られているのが問題です。本来目指す戦略は、企業のブランディングや商品を販売することなのですが、それが売るためにコンテンツを考えてPVを増加させていくことが、いつしか読まれるコンテンツを考えてPVを増加させるケースに変わっていることが非常に多い。数が目的になることで、どんなにPV数が増加しても次の成功へつなげることが難しくなる」と説明した。
ゴール設定につながる仮説を持って評価しないと、ユーザーの反応というものが次のステップで何に活かせるのか想像ができなくなる。「スモールスタートした時、セカンドフェーズで何を置くのか。起きていることは次のフェーズに移行した時、価値につながるのかということを考えて欲しい」と佐藤氏は語った。
ユーザー数が増えれば商品が売れるという誤解
続いて「オウンドメディアのユーザーが増えると自社ブランドが売れるようになると思い込んでいる」ケースもよく聞く。「これは、“コンテンツマーケティングの考え方”と、“メディアを育てる考え方”は似ているようで戦略的に大きく違う」ため、誤解を生じていると佐藤氏は語る。
それは例えば、コンテンツの更新方法やターゲットの明確化、潜在顧客を意識する点、またはエンゲージメントの獲得と読者を増やすことをどちらも「ファン獲得」と言っていることなど、両者の戦略は似たような行為や目標を持つため、誤解を生じやすいという。
では「コンテンツマーケティングの基本」とはどういうものだろうか?それは、ユーザーが興味・関心を持つコンテンツを活用して、ブランド・商品の価値への気づいてもらう。そこから見込み顧客の獲得や、購入への誘導、ブランドのファンになってもらうことを目指すものである。つまり、ブランドや商品の価値に気づかせるのが、コンテンツマーケティングの価値であると言える。
それに対して「メディアを育てる」戦略の考え方とは何だろうか?それは、特定の価値観やメッセージを持ったコンテンツによって、その価値観に共感させること。共感させることで読者を増やし、そこからビジネスを生み出す手法である。
「弊社のギズモードは、デジタルガジェットが大好きな人が毎日読むというメディアですが、場合によってはこの新機種は全然良くないという記事も書きます。そうすると、ガジェットが好きな人たちだからこそ、有りだ・無しだという議論があって、そこから正しい情報発信をしてくれているということに共感が生まれてくる」と佐藤氏は、メディアを育てる流れについて語った。
両者の「売れる」構造の違い
では、コンテンツマーケティングとメディアによる、「売れる」構造の近いとはどういったものだろうか?「コンテンツマーケティング」の売れる構造とは、「例えば、今まで知らなかったブランドがあって、自分と同じ趣味の人はみんな買っているんだ。気になるから調べてみようかな」という気づきと興味が売れる構造であるという。
一方、「メディア」の売れる構造とは、「このメディアはいつもお洒落で好きだな。このメディアが紹介しているブランドは買ったら間違いなくお洒落な生活ができるだろうな」という共感が売れる構造であるという。
ファンの求め方にも両者に違いがある。「メディア」のファンを求める場合、徹底して共感されるメディアを目指さなければいけない。逆に「ブランド」のファンを求める場合、ブランドのファンにさせるコンテンツでコミュニケーションする必要がある。
「一見メディアのファンを増やすふりして、商品が売れないと悩まれている企業は結構ありますが、例えば自社でオウンドメディアを作って、紹介されているのが自社商品ばかりだとユーザーが逃げてしまいます。ブランドのファンにさせるのであれば、ユーザーの立場に立ってブランド全体について語る必要があります」と佐藤氏は説明した。
各部署で違ったマーケ戦略を行っている問題
このほか「他のマーケティング戦略と連携できていない」ケースもよく聞くという。これは部署ごとにECサイトやソーシャルメディア、リスティング広告を運営していたことで、オウンドメディアとECサイトの説明文が統一されてないことからユーザーが不安をいだいてしまったり、またはコンテンツのSEOとリスティング広告が重複して無駄な予算をかけてしまったり、ということが起こりやすい。
まずはパーチェスファネルを描いて、「認知」「興味・関心」「比較・検討」「購入」の段階でどのような施策を行っているのかを書き込んでいく。例えば「興味・関心」ではリード獲得施策を行っており「比較・検討」「購入」ではSEMやランディングページを行っている場合は、「認知」の段階でオウンドメディアを実施することが、次の段階へとつながるということが可視化でき、コンテンツの重要度が向上するのではないかと佐藤氏は説明した。
「ECサイトやリスティング広告、オウンドメディアが単なる集客装置としてバラバラに機能していると、効果が発揮できなくなります。コンテンツマーケティングを行う必然性を見出し、連携を取っていきましょう」と説明した。