花王、富士フイルム、資生堂が語る、マーケティング戦略と理想のアプリとは?

 Post by MML編集部

本記事は、11月29日に開催されたApp Annieが主催するイベント「App Annie DECODE Tokyo」より、第3部「消費財メーカーにおけるアプリ活用最前線」をテーマにパネルディスカッションが行われた。花王の石井龍夫氏、富士フイルムの一色昭典氏、資生堂ジャパンの笹間靖彦氏をお招きし、モデレーターはApp Annie Japanの向井俊介氏が務めた。

花王、富士フイルム、資生堂ジャパンが取り組んできたこと

初めに、登壇者の自己紹介とともに事業の役割などについて話された。

花王株式会社 デジタルマーケティングセンター長 石井 龍夫氏

花王 石井氏は、14年ほど各ブランドのマーケティングをされたのち、2003年から現在までデジタルマーケティングの仕事に携わる。一昨年までPCサイトを中心にしていたが、顧客にスマホが浸透してきていることを含めて、全ブランドサイトのうち7割にあたる49サイトをスマホに最適化した。結果、今年発行された、週刊ダイヤモンド「ウェブサイト価値ランキング」で総合31位から15位に上昇、「スマホの好感度ランキング」では見事1位を獲得したという。

現在は、顔写真を撮ってアプリにアップするとあなたの若顔度を診断してくれる「若顔診断」アプリや、メイクの好印象度のチェックや診断ができる「就活メイク診断」アプリ、またはトライアルとして、スマホを会員証代わりにしてデータと連携し、お客様の最適なタイミングにクーポンやお知らせをプッシュ通知し、来店促進を狙うO2Oアプリなどを行っている。

富士フイルム株式会社 e戦略推進室 マネージャー 一色 昭典氏

続いて、富士フイルム 一色氏は、1991年よりカメラ・フィルムなどの営業・マーケティングをされたのち、2011年よりライフサイエンス事業部のWebグループを立ち上げ、アスタリフトのEC事業の再構築を行う。2013年よりe戦略推進室のマーケティング部を統括し、全社Web活用における戦略構築と企画運営、デジタルマーケティングの推進を行っている。

e戦略推進室ではデジタルマーケティングのレベルアップをミッションとしている。いい商品を作って販売するプロダクトアウトの発想から、さらにマーケットインの発想を啓蒙すべく、プロジェクトごとにデジタルマーケティングをどう推進していくのか活動しているという。

アプリについては、プリント系またはデジカメ系のユーティリティーを展開している。アップロードした写真を選ぶだけでフォトブックが作成できる「フォトブック」アプリは使い勝手が大きく作用するため、多くの改善を行っているという。

資生堂ジャパン株式会社 ダイレクトマーケティング部長 笹間 靖彦氏
(現経営サポート部長)

資生堂ジャパン 笹間氏は、営業担当、ブランドマーケティング、事業企画などを経験後、5年前よりダイレクトマーケティング部にて「ワタシプラス」や「草花木果」などのダイレクトビジネスを行っている。

特に「ワタシプラス」は、お客様の化粧品選びから商品の使い方、購買、アフターフフォローまでをワンストップで提供するダイレクトマーケティングプラットフォームとして位置付けており、パーセプションフローに基づくコミュニケーション活動を行うため、プライベートDMPを使って活動している。

ユーザーがインターネットの中で、アプリを使っている時間が極めて長いという課題認識があり、資生堂ジャパンでもアプリを提供している。「おしえて!ビュー子」は、メイクの疑問が解決するAIを使ったチャットアプリ。「misette(ミセッテ)」は、メイクの裏技をシェアするアプリで、他社の商品を使っていても投稿できるのが1つの特徴。

これらを使い、お客様の疑問や化粧品の使い方を知ることで、普段どんなことを考え、どんな行動を行い購買に至ったのかという購買心理を考えているという。

デジタルマーケティングの到来で様々な仕組みが変わった

続いて、モデレーターからいくつか質問をしながらディスカッションを行った。

向井)昨今、マーケティング活動において「デジタルマーケティング」という言葉がバズワードのように使われていますが、皆さまの「デジタルマーケティング」の定義とはどうお考えですか?

石井)デジタルマーケティングとは、デジタル広告を使ってマーケティングをすることではありません。例えば、バナー広告、eコマース、ソーシャルメディアの情報発信を行っていくことで私たちのところにデータが貯まってくる。そのデータを活用してマーケティング・コミュニケーション全般を最適化し、結果的にコミュニケーションのROIを改善していくことだと思います。

一色)マーケティングは昔も今もこれからも変わらないと思うのですが、そこにデジタルがくっついているだけ。デジタルの到来で、マーケティングは売り方を考えるのではなく売るものを作ることだとか、顧客課題の解決策や顧客のインサイトなど、様々なことが分かるようになってきた。デジタルマーケティングとは、デジタルの力を使って顧客を意訳しているという認識です。

笹間)僕はデジタルマーケティングという言葉には少し違和感を覚えるところがあって、デジタルというのはマーケティング活動の中の重要な一つの要素だと考えています。そうした中で我々の部署のミッションはデジタルのデータを使って、どれだけユーザーとの接触時間を増やすことができるのかを追求すること、またそのデータを使ってブランドチームをサポートすることだと思っています。

石井)やはり、デジタルマーケティングと言っていること自体が古いですよね。デジタルがくっついているということはデジタルとマーケティングを分けていることだから。IMC(統合型マーケティング・コミュニケーション)の中にもデジタルが組み込まれているわけなので、マーケティング自身がデジタルを使いこなして進歩して行かなきゃいけないと思います。

笹間)マーケティングにデジタルの要素が加わったことで、すごく仕事の量が増えましたよね。1メッセージだけでは済まなくなってきているので、1ブランドの1プロモーションで20~30ものメッセージを作らなきゃいけないなんてことも現実的に起きてきていますし、それぞれのメッセージの効果がどうだったのかトラッキングもしなきゃいけないし。マーケティングの中にデジタルが加わったことによって、仕事のやり方やモノの考え方がすごく変わったなという実感があります。

組織として一番重要なKPIとは?

向井)マーケティング活動がそのままデジタル化していくことで見なければいけない指標が増えてきていると思います。皆さんの今のお立場で、何を一番重要なKPIとして仕事をされていますか?

石井)難しい質問ですが、企業やブランドがそれぞれ広告を出すにしても、その目的が特徴理解なのか、認知なのか、購買意欲を出すのかによってKPIが違うわけです。ただ、現在の部署としてのKPIということになると、「コミュニケーションにおけるROI」を上げていくのが目指すべきKPIだと思います、KGIは「売上」ですね。

ですから、そのなかでマーケティング投資と単純に言っても、企業が使っているお金の中で削れるものと削れないものがあるわけです。それで売上が上がらない時に利益出せと言われて何を削れということになると、必ずマーケティングコストが上がりすぎだから下げろと、デジタルは低コストだから活用しろと出てきますがそれはダメだと思うわけですね。確かにデジタルは手がかかるのも事実ですが、活用の結果、お客様を360度で理解できるだけのボリュームデータを手にすることができるわけです。現代は既製品では納得できないお客様が増えていて、そうなると私たちに必要なのは全数データに近いところで顧客理解をしていく必要があります。だからデータを使ってお客様を理解出来ていますか、というのが組織としてのKPIの1つだと思います。

向井)先ほど「コミュニケーションのROI」という話がありましたが、もう少し具体的に説明していただいてよろしいですか?

石井)シンプルに言ってしまえば、広告コミュニケーションにおける、掛けているコストが売上に対して、どれだけミニマムであるかということです。ただし、デジタルは安いからミニマムになるよねっていうことではない。カスタマージャーニーの中で、お客様がスマホやパソコン、または施設や街頭などの広告媒体を見ている時に、どのタイミングで私たちの商品に接触するのが、一番購買に対して背中を押せるのかといったことを考えて、そのタイミングで最適なメディアを使うべきです。ですから、デジタル活用が必須である必要はないと思っています。ただデジタルはお客様の行動データが取得できるので、お客様を理解するためには、リアルの行動データを見るのが一番大事だと思います。

向井)ありがとうございます。笹間様、一色様はいかがですか?

笹間)あえていうならLTVかなと思います。最適に効率よくコミュニケーションをやった結果がLTVにつながるのだとすると、やっぱりそこなのかなと思います。

一色)対組織と対顧客があるのですが、対組織で言うと、技術力のある会社なのでいいイノベーションの商品を出そうとしますが、なかなか形にならないものがあります。そこをマーケットインの発想を持って、こういうことができるんだよということを経営層や部門長に理解してもらう。そのための小さな成功事例を少しずつ作っていくのが短期的・長期的な課題としてあります。

それから、写真という事業は超コモディティ化していて、なくては困らない商品ではなくなってしまっているのですね。0歳から6歳までの子供を持つご家庭でアルバムも作成率は5割を切っています。それをいかにアルバムにしてもらうか、モノとして残すかという活動をしているわけですが、写真に関しては新しい技術なり、何かの提案をしていかないとお客様は動かないのですね。それをどうすれば態度変容が起こるか、今1つの大きなKPIとしています。

消費財メーカーが目指すアプリとは?

向井)ありがとうございます。最後に、一般消費財メーカーや小売業など、いわゆるアプリで直接マネタイズしていない企業が取り組んでいる中でアプリに今何を期待するものなのか、何を期待したいのかご意見を伺えればと思います。

笹間)すごく悩んでいます。自社のオリジナルアプリをつくるべきか、既に多くのユーザーが使っているアプリを上手に使って やっていくのがいいのかが悩みところです。ただ、悩んでいても何も解決しないので、とにかくやってみることが大事だと思います。

一色)弊社で展開しているのは編集アプリという、写真を注文するためのアプリです。要するに買いたいからこのアプリダウンロードしてね、ダウンロードして買ってくる、終わったら消すという役割しかないです。最近ではInstagramが盛り上がり、SNOWやSnapChatが出てきて、映像を扱う会社として映像が楽しめてコミュニケーションの取れるツールを出さなきゃだめだなと思ったんです。要は直接マネタイズを目的としていないアプリですね。ユーザーとのコミュニケーションをとって、Powered by FUJIFILM だけでいいのです。

「ああ、こういう面白いことを富士フイルムはやっているんだね」「富士フイルムって何だっけ」「写真の会社だね」「プリントも出していて、アルバムが作れるんだ」と富士フイルムを認知していただき、魅力的なアプリで会社名やブランドを育てていけるようなものを作っていきたいと思います。

石井)なかなか答えにくいのですが、一色さんと同じです。結局花王って、B to B to C の会社ですから直接お客様に商品を販売しているわけではないので、お客様の顔が見えていないのですよ。例えばヘルシアが何本売れたのかというのは分かるのですが、それはのどが渇いて買ったのか、痩せたくて買ったのか、お弁当の友で買ったのか分からないわけです。それが分かるための1つの方法として、アプリがあるのだろうと思います。

さらに、頻度高くお客様とデータ交換するということがアプリだったらできるんじゃないのと考えた時、一番の代表例は天気予報のアプリですよね。毎日必ず家を出る前に見る。こういう使い方をするものを私たちが提供できれば、もっと近くでお客様を知ることができると思うのですが、お客様にとって価値あるものになるのは、とてつもなくハードルの高い話になります。でも、そういうことをやりながら、顧客理解やブランディングを作り出していくことが私が目指すことですね。

現在、トライアルで会員証をアプリ化して提供していますけど、実はイヤホンのところにプローブを挿入すると肌診断ができる仕組みになっています。お客様が商品を購買したり肌診断すると、そのデータはサーバに蓄積される。購買履歴や肌診断のデータを組み合わせるとお客様のタイプが見えてくるので、このタイミングで告知してあげれば、お客様は自分事化されて購買につながる可能性が高いと思います。要らないときに要らないことを無理矢理押しつけるのでは、それはストーカーになります。でも、欲しいときに欲しいものをタイミングよく教えてくれれば、それはサービスになるわけです。我々企業が目指すべきところは、アプリケーションがサービスになることだと思います。

向井)すごく綺麗にまとめていただきありがとうございます。これにて、パネルディスカッションを終わらせていただきます。