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オムニチャネル戦略やO2O事例を読み解く専門メディアモバイルマーケティング研究所

松屋フーズ公式アプリ:全面リニューアルに見るアプリ開発の3つの注意点とは?

 Post by MML編集部

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松屋フーズ:牛丼チェーン業界3位 2012年8月には1,000店舗の大台を達成

松屋フーズは1975年創業の老舗牛丼チェーンです。2012年度の売上高は790億円で、牛丼チェーン業界ではすき家を運営するゼンショー4,175億円)、吉野家1,645億円)に次ぐ第3位。国内グループ店舗数は2012年8月に1,000店舗を超え、外食チェーンでは国内で10数番目となる1,000店舗の大台を達成しました。

もともと中華料理店からスタートした事もあり、他の牛丼チェーンに比べメニュー数が多いのが特長で、同社のホームページでも「牛めし(牛丼)、カレー、定食、その他丼物でおなじみの松屋」といった表記がみられます。また全メニューに味噌汁が付くのも特長で、同社のロゴマークはお盆に載った丼ぶりと味噌汁をモチーフとしているそうです。

今回は、同社が2011年に公開し2013年に全面リニューアルを図った「松屋フーズ公式アプリ」について紐解いてみましょう。

松屋フーズ公式アプリ:外食チェーンとして早期の2011年5月に公開

松屋フーズは今からおよそ2年半前、2011年5月にスマートフォンアプリを公開しました。当時はまだ自社ブランドのスマートフォンアプリを開発する企業は多くなく(弊社のラインナップの中でも当時のリリースは「ワタミアプリ」と「シダックス公式アプリ」のみ)、かなり早期にリリースをした1社と言えるでしょう。当時のアプリ画面は以下の通りです。

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実はこのアプリは、2013年10月現在、App Store、Google Play共に、公開されていません。当時のアプリ紹介サイトの記事等を見ても、アプリストアへのリンクがリンク切れとなっていることが分かります。何故そのような事になったのでしょうか?

旧アプリは海外製の開発ツールで制作:不具合の多さから一種の“炎上”状態に

2011年5月に公開した旧松屋フーズ公式アプリは、海外製のあるアプリ開発ツールを活用して開発されました。

この開発ツールはもともと、音楽アーティストがファンに対する情報発信を手軽に行えるよう開発されたもので、専用画面から安価に専門知識なしでアプリを開発・更新できる手軽さなどから、複数の海外有名アーティストに採用されました。

しかし、もともとのコンセプトが「アーティストの情報発信用」であった事から、飲食チェーンで利用する上では適さない機能も多かったようです。

たとえば、Apple系の純正音楽アプリで多く見られる「カバーフロー」風の機能。アーティストのアプリではファンが音楽アルバムを絶賛する書き込みが目立ち、ファン同士の交流の場となっています。

松屋フーズ公式アプリでは、この機能を使いフードメニューの掲載をしていました。しかしながら、一部のユーザーからメニューに対するクレームが書きこまれたまま放置され、マイナスイメージを植え付ける事になってしまいました。

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?また、このツールで開発したアプリは不具合が多いことでも有名で、ユーザーからはApp StoreやGoogle Playの評価コメント欄に厳しいコメントが並び、最低評価の「★1」が連なる一種の炎上状態になってしまいました。当時の評価画面のキャプチャは以下の通りです。

評価

App StoreやGoogle Playのアプリダウンロードページのトップに表示される★の数(評価)は、これまでの全評価の平均となります。松屋のように一度「★1」評価を大量に付けられてしまうと、評価を上げるために長い時間がかかるケースも多く、新規ユーザーのダウンロード率に長期にわたり影響を与える事になってしまいます。

日本のアプリストアのレビュー欄は海外に比べ辛辣であることで知られており、「(匿名掲示板の)2ちゃんねるのようだ」と良く言われています。特に動作の不具合の類には必要以上に悪い評価を付けるユーザーが多く、「そこまで言わなくても、、」と思うようなコメントも散見されます。上記のケースもその一例と言えますが、国内でアプリを公開する以上、そのようなクレーマー的なユーザーの存在にも注意する必要があります。

その後何度かマイナーアップデートを図ったようですが、今年の4月には以下の通り、アプリ上で2度にわたり文字化け等が発生するなど不具合が続き、ユーザーからの評価も一向に上がらない状態が続いていました。

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2013年7月に別アプリを公開:推定数十万のユーザー資産を失う結果に

そこで松屋フーズでは、旧アプリで利用していた海外製ツールの利用を止め、新しいスマートフォンアプリを再度ゼロから開発し、2013年7月に公開しました。同社のサイトでは「リニューアル」と表記されていますが、正確には、前とは別のアプリケーションとなっています。

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企業が既存のアプリの新バージョンを公開する時には通常、既存アプリの「アップデート」を行うケースが大半ですが、今回の松屋アプリのケースでは、公開用のアカウントをあえて変更し、別アプリとして公開する形となりました。前のアプリに対して付けられてしまった多くの「★1」評価や辛辣なコメントが一掃できた点は、メリットがあったと言えるでしょう。

しかしながら、この方式には非常に大きなデメリットがあります。「旧アプリのユーザーを引き継げない」という点です。

松屋の旧アプリをダウンロードしたユーザーは、同社の規模からして、少なくとも数十万に上ったものと推定されます。今回のリニューアルでは、旧アプリとは全く別のアプリとして公開する形を取ったため、それら数十万のユーザーが新しいアプリを利用するには、もう一度アプリストア上から新しいアプリを探して、インストールし直す必要が出てしまいました。

筆者も旧アプリをインストールしていましたが、しばらくの間別アプリのリリースについて認識していませんでした。数か月ぶりに旧アプリを開いてみたところ以下のような画面が表示され、始めてアプリの提供終了に気付き、同社のサイトで別アプリが公開された事を知った次第です。普通のユーザーはこの画面を見ただけでは何が起きているか分からず、新たなアプリを探すことなく、利用を止めてしまう可能性が高いのではないでしょうか。

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リニューアル前後で旧アプリ上に案内を載せたであろう事は想像できますが、その前後にアプリを利用した一部のユーザーを除いて、数十万単位のユーザー資産を失ってしまった事が想定されます。企業のオウンドメディアにとって貴重な財産であるアプリユーザーを失ってしまったことは、同社にとって大きな痛手であったと言えるでしょう。

新アプリはウェブベースで開発:操作性が大幅に改善され、ユーザー評価も好意的

新たに公開されたアプリは、旧アプリで使用していた開発ツールの利用を止め、ウェブベースで開発をしたもののようです。操作性が大幅に改善されたことで、ユーザーからの評価も好意的なものが増えており、旧アプリに比べ支持されているように見受けられます。

各機能についても簡単に触れてみましょう。

ニュース

アプリを起動すると、キャンペーン中メニューのバナーと、ニュース一覧が表示されます。バナー・ニュースをタップすることで、詳細を確認することができます。

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新しいアプリは同社のPC向けウェブページをスマートフォンに最適化したウェブベースのアプリのようです。いわゆるネイティブアプリと比べると、データの読み込みに時間がかかる等の課題がありますが、デザインの統一やコンテンツの管理がしやすい点などから採用したものでしょう。

メニュー

メニューについてもニュース等と同様、同社PCサイトをスマートフォン向けに最適化したデザインとなっています。旧アプリに実装されていたコメント欄は廃止され、Facebookの「いいね!」とTwitterのシェアボタンが設置されています。

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近年SNSサービスの普及により、企業が公式facebookページを開設したり、ウェブページやアプリにSNS連携の機能を実装する動きが常識になりつつあります。効果的に使う事で効果を最大化できるSNSですが、いわゆる炎上のリスクと隣り合わせの部分もあり、利用には慎重さが求められます。

飲食チェーンは特に、衛生面から味の良しあしまで、さまざまな意見にさらされやすい面があります。同社の旧アプリのように、他のユーザーが見られる場所にコメントが残ってしまう構成は特にリスクが大きいと言え、新アプリのように「いいね!」ボタンの実装程度に留めておいた方が、管理はしやすいと言えるでしょう。

クーポン

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クーポン機能は前のアプリと同様、画面上に表示されたクーポン画像を店頭で見せて割引をする形式となっています。会員登録などは不要で、アプリをダウンロードするだけで利用ができます。

同社公式サイトによると、クーポンの発行は毎月第一週の木曜から第三週の木曜までの間に限定されており、月の後半はクーポンが表示されない形となっているようです。

松屋の店頭でメニューをオーダーする際は通常、券売機で食券の購入が必要です。当クーポンを利用する場合は食券を購入せずに店員の方にクーポン画面を提示し、現金で支払いを行う流れが必要となります。オペレーション負荷は若干上がるものの、クーポンの有効期間などをチェックする上では、必要な流れと言えるでしょう。

なお、同社の店頭券売機では2007年から、交通系ICカード「Suica」に対応をしており、2013年10月末現在で全国640店に導入が拡大しているようです(同社ホームページより)。おサイフケータイ対応端末と対応アプリによる券売機での割引購入なども、将来的に実装の可能性があるのではないでしょうか。

店舗検索

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店舗検索では、同社がPCサイトで提供しているのと同様、NAVITIMEのシステムを使い、エリア・駅や条件を指定しての検索ができるようになっています。旧アプリがGoogleマップ上で複数の店舗位置を一覧で確認できたのに比べると、ガラケー向けサイトのUIをそのまま移植したかのような、少々視認性が下がる印象を受けます。スマートフォン向けアプリで、なぜこのような画面を採用したのでしょうか?

店舗数の多いチェーンの本部にとって、店舗の開店・閉店や営業時間変更等のデータ管理は、日々のメンテナンスが必要となる業務です。特に1,000店を超える松屋の場合ですと、相当な手間がかかっているものと思われます。旧アプリでは、店舗データをアプリ独自で管理していたものと推測されます。PCサイトとアプリで2つの店舗データベースを持つことは、メンテナンスが二重になることを意味し、それ相応の手間がかかってしまいます。

今回のリニューアルにあたってはおそらく、それらのメンテナンス工数削減を加味し、PCサイトと同様の画面を表示させる方式を取ったのではないかと推測されます。1ユーザーとしては地図上での操作の方が分かりやすい事は明白に感じますが、操作性とメンテナンス工数のどちらを優先するかは、各企業のスタンスに拠り分かれる部分と言えるでしょう。

まとめ:企業アプリ開発の教訓に富んだ事例 注意すべき3つのポイントとは?

松屋フーズ公式アプリは、企業がアプリを開発する上で陥りやすい「注意点」を複数含んだ、代表的な教訓事例と言えるでしょう。3つのポイントにまとめて説明をしたいと思います。

(1)自社に合ったアプリ開発手段を選ぶことの重要性

企業の販促用スマートフォンアプリの開発手段には、以下の3つのパターンがあると言えるでしょう。

1.システム開発会社で開発(ヤマダ電機マクドナルド松屋新アプリのケース)
2.アプリ開発ASPサービスで開発(ワタミアプリロッテリア公式アプリ等のケース)
3.ノンプログラマー向けのアプリ開発ツールで開発(松屋の旧アプリのケース)

それぞれのメリット・デメリットを簡単に整理してみましょう。

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松屋の旧アプリは3.のケースと言え、海外製のアプリ開発ツールを使い、国内のモバイルサイト運営会社と組んで開発した形式のようです。

昨今3.のタイプの、プログラミング知識なしでアプリを開発できるツールが増えています。費用も比較的安価であることから、個人店舗などでもオリジナルのアプリが提供できるようになった事で、スマートフォンアプリのすそ野を拡げる事となりました。

しかしながら、一定規模の企業が公式アプリを提供する上では、それらのツールを使い開発したアプリは、機能・拡張性・サポート面・システムの安定性など多くの面で、問題が多いように感じられます。

アプリを見ているだけでは分からない事ですが、アプリはあくまで表側の「ワク」であり、それを管理する裏側のシステムの機能やサーバーの安定性が充実している事が重要と言えます。3.のツールは表側は一見しっかりしているものの、裏側の機能が不十分なケースが多いのです。

外部のホームページ制作会社や代理店等、パートナーの力を借りる事で「見た目」や「制作・運用の手間」は軽減されるかと思いますが、パートナー自身がプログラムを直接改変出来る訳ではない事から、抜本的な改善は難しい場合が多いでしょう。今回の松屋の旧アプリも上記の課題が表れたケースと言え、松屋やパートナーだけでは避けられない、開発ツールに起因した不可避な問題が多く起きてしまいました。

一般のウェブサイト等と違い、専用のプログラムであるスマートフォンアプリは、開発手段により品質に大きな差が出る面があります。最終的には「アプリを作ること」が目的ではなく、「その後どう効果に繋げるか」が重要といえます。

それらを加味すると、ブランドイメージを大切にする一定規模のチェーン企業では、一定の開発実績を持つアプリ開発会社やアプリ開発ASPサービスを利用した方が安全であることは、間違いないでしょう。

(2)影響の大きさ

早期にアプリ公開に踏み切った同社のチャレンジ姿勢は、称賛に値するものでしょう。また、早期にリリースする事がユーザー獲得上の先行者利益に繋がるオウンドメディアの概念で見ても、実益のあるチャレンジであったと言えます。

しかしながら、アプリの評価が一種の炎上状態となり、ネット上でもあまり良くない意味で話題になってしまったこと、長く評価点が低い状態が続いてしまったことなどは、ブランドイメージ上大きな打撃であったことは否定できません。

また、最終的にアプリを作りかえる結果となり、先行者利益として獲得した多くのユーザー資産を引き継げなかった事は、大きな代償であったと言えるでしょう。

これらの点も、ドメインを取るだけで自由に情報発信ができるウェブサイトなどと違い、客観的な評価が掲載されてしまうアプリストアや、ユーザーIDに紐付いてアプリが管理される、スマートフォンアプリの特長から来るものと言えるでしょう。繰り返しになりますが、「アプリを作った後にどう効果に繋げるか」を考え、ユーザーに支持されるアプリを作る姿勢が、非常に重要になると言えるでしょう。

(3)リニューアルの重要性

一方、2013年7月のアプリ全面リニューアル後はユーザーからの支持を集めており、以下のような温かい声も見受けられるようです。

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アプリストアの評価は、厳しいコメントが他のユーザーにマイナスイメージを与える一方、良いコメントがユーザーの興味を喚起し、ダウンロードを促進する効果があります。現在のアプリは操作性も高いため、今後上記のような評価を多く獲得し、既に多くのユーザーの支持を集めるクーポン施策などを通じて、売上に直結していく事でしょう。

一度アプリを開発したあと、アプリストアにさまざまな改善要望が集まりながらも、そのままの状態となっているアプリが多く見られます。アプリケーションはウェブサイトに比べ改修のコストや手間がかかりやすいため、リニューアル・修正を行いにくい面はあるでしょう。

しかしながら、上記の松屋フーズの事例のように、ユーザーの改善要望を真摯に受け止めリニューアルを行うことで、既存のユーザーの評価を大きく上げ、活用率を上げ、ひいては売上増に繋げることが可能になります。

企業のアプリ担当者は、ユーザーの評価をチェックし、一定の期間ごとにアプリの改修を行っていく意識が重要でしょう。

自社アプリの開発を検討中の方は、上記3つのポイントに注意しながら自社に合った開発手段を探していただく事が、成功への近道と言えるのではないでしょうか。